野生の鹿肉&ベリーを“ごみゼロ”の名店で、キノコ、ハーブ、オーガニック野菜を焚き火で! 幸せの国フィンランドの豊かすぎる食
洗練された北欧デザインや美しいオーロラ、サンタクロース村にサウナと、世界的にアツい注目を集めているフィンランド。充実した社会保障や質の高い医療、教育制度などが整っており、世界幸福度ランキングで常に上位に顔を出しています。ではなぜ、この国はハッピーに満ちあふれているのでしょう? フィンランドの人々の暮らしに触れ、幸せのヒントを探しにいきました。最終回は、フィンランドの豊かな食文化をご紹介します。
ラップランドの短い夏をまるごと味わう“焚き火クッキング”
“ヨーロッパ最後の手つかずの自然”が残るといわれる、幸せの国・フィンランド。豊かな森や湖が育んだ自然の恵みを、シンプルに調理する食文化が根づいている。首都ヘルシンキから飛行機で約1時間半、フィンランド中東部の北極圏・ラップランドの丘陵地帯にある「ワイルドアウト」では、エコ認証を受けたアウトドアアクティビティを用意。テレサさんとパートナーのトーマスさんが、自然との調和を大切にしたプログラムを提供している。
ポーランド出身のトーマスさんは、各国のレストランやホテル、ファインダイニングでキャリアを積んできた料理のプロフェッショナル。現在は森の中や湖畔など屋外の焚き火で調理する「ウィルダネス・キッチン」で、自ら採取したハーブ、キノコ、ベリーや、地元の魚、ジビエなどをつかった料理を提供している。

訪れた日はあいにくの雨。屋外ではなく、薪ストーブが設置された伝統的な小屋「コタ」で調理するトーマスさん。「火からの距離で、弱火、強火を調節しながら調理します」
シェフとして培ってきた技術と野外調理が融合したトーマスさんのワイルドレストランは、知る人ぞ知るラップランドの美食スポットだ。
「みんなで火を囲んで地域の食材をつかった料理を食べることは、自然の物語を五感で共有する体験です。そうして私たちが得たお金は、コタや森の遊歩道の修繕費となって、地域コミュニティに還元されます」
豊かに香る白樺(しらかば)の木をくべた火で調理しつつ、野菜のヘタなど使用しない部分は薪ストーブに投げ入れるトーマスさん。ガスも電気もつかわない、ごみも出ない究極のサステナブルクッキングだ。

旬のグリーンピースと森のマッシュルーム、小さなガーデンで育ったニンジンと、自然の恵みたっぷりのソバの実とビーツのリゾット。トッピングのイーストのパウダーで旨みをプラス
夏の間に森で摘んで乾燥させたベリーやハーブ、花をつかったお茶をいただきながら、炎を眺めつつ自然の恵みをいただく。デザートは「パンのようなチーズ」という名のついた、ラップランド地方の伝統的なチーズをつかったひと皿だ。噛むと「キュッキュッ」と音がする独特の食感で、フライパンで焼いてコニャックでフランベし、地元産のヨーグルトとブルーベリー、カラメル、シナモンにユーカリパウダーをトッピング。味つけも焼き加減も絶妙で、なんともおいしい。
「16歳で料理の世界に入り、さまざまなレストランで料理をつくりましたが、どんなお店よりいまが楽しいんです。お客さんの顔を見ながら、ピュアな水や大気、土に育まれた食材を薪火で調理する。これまで培ってきた経験が、すべていまに活きているんです」(トーマスさん)
コーヒーブレイクのお供は伝統のシナモンロール
ラップランドの古い牧場の中にある「ポポヨラン・ピルッティ」は、地元食材と伝統を生かした手づくり体験やサウナを提供するリゾート施設。「フィンランド人のような一日をすごそう」をコンセプトにしたプログラムのひとつ、伝統的なシナモンロールづくりに参加した。

1875年からつかい続けている机で、フィンランドのソウルフード「コルヴァプースティ(Korvapuusti)」をつくる
生地をこねて寝かせ、砂糖、カルダモンやシナモンなどのスパイスを混ぜ込んで成形。30分ほど休ませてから焼けばできあがりだ。

シナモンが香る焼きたてパンは、素朴ながらしみじみおいしい。フィンランドで「ブッラ」と呼ばれるコーヒータイムは、スウェーデンでは「フィッカ」と呼ばれ、人々の社交や憩いのひとときとして大切にされている
首都ヘルシンキの地産地消グルメ
フィンランドの朝ごはんの定番は、近年日本でもブームになったオーツ麦のおかゆ、オートミール。ヘルシンキのホテルのモーニングブッフェでは、牛乳で煮込んだ温かいオートミールに、新鮮なバターや森のベリー類、ハチミツなどが添えられていた。クリーミーで味わい深く、「これがオートミール!?」とビックリするほどおいしい。

朝食のもうひとつの定番は、ライ麦パンのオープンサンド。バターをたっぷり塗って、チーズやハム類、キュウリ、トマトなどの野菜を乗せて食べる
ワンピースを着た双子の女の子が目印の「ハカニエミ・マーケットホール」は、ヘルシンキ市民の食を支える本格的なローカルマーケット。1914年に建てられた歴史ある赤レンガの建物は、大規模な改修を経て2023年4月にリニューアルされた。

マーケットホールのシンボルである双子の女の子の看板。マーケット内や最寄りの地下鉄の駅でも見られる
1階は食料品、2階は雑貨とレストランフロアで、見て歩くだけでも楽しい。1階には近隣で育てられた色とりどりの野菜やハーブ、ベリー、キノコが並ぶ青果店、チーズやバターなど乳製品専門店、精肉やハム、ベーコンを扱う肉屋さん、サーモンやニシンなどが並ぶシーフードショップ、焼きたてのシナモンロールが買えるパン屋さんなどなど、おいしそうな食材やグルメがいっぱい。さすがオシャレな北欧だけあり、ディスプレイや盛りつけも素敵なのだ。

フィンランドの伝統的なサンドイッチケーキ。パンを何層も重ね、間にクリームチーズやマヨネーズをベースにしたフィリングを挟んでシーフードやハーブをトッピング
2階は「マリメッコ」の正規店や手芸用品、木製のバターナイフやスプーン、ヘラなどのキッチン雑貨、工芸品などフィンランド雑貨が並び、土産探しにぴったり。屋外にはベリー類やキノコ、エンドウ豆などがどっさり盛られ、地元の人びとが量り売りで購入していた。
地域で採れた旬の食材を、素材の味わいを活かしながら調理して食べる。フィンランドではこうした伝統の食生活を、いまも続けているのだ。

フィンランドのランチの定番、ディルが香るサーモンスープ。 サーモンやジャガイモ、ポロネギを煮込んで、生クリームを加えて仕上げる
せっかくなので、ニュー・ノルディック・キュイジーヌを味わいにヘルシンキのカタヤノッカ地区にある「ラヴィントラ・ノッカ」(以下ノッカ)を訪れた。ニュー・ノルディック・キュイジーヌとは、北欧の厳しい自然に育まれた食材を、クリエイティブかつサステナブルに調理した料理のこと。2004年にデンマークのシェフたちが発信したムーブメントで、北欧料理を“素朴な家庭料理”から“世界最高峰の美食”へと進化させた。

港沿いにある、古いレンガ造りの倉庫を改装したノッカ。大きないかりが目印だ
ノッカは、ミシュランが持続可能なガストロノミーを選出する「グリーンスター」を2024年から2年連続で獲得。「ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)」を掲げ、食材をつかい切る取り組みを進めている。「森からテーブルへ」をコンセプトに、シェフが自ら狩猟・採取した野生の食材や小規模農家のオーガニック食材を、現代的にアレンジ。野生の鹿の肉や天然魚、キノコ、ベリーなど、フィンランドの伝統的な味覚を堪能できるコースやアラカルトが人気だ。

絶妙な火入れでロゼ色に仕上げた鹿肉のロースト。臭みやクセなどは感じられない、やわらかくジューシーな味わい。つけあわせの野菜は、いずれも味が濃くおいしい
古いレンガづくりのぬくもりある空間で、オープンキッチンの活気あふれるさまを見ながらの食事は、フィンランドの食を締めくくるのに最適。“幸せの国”がハッピーであり続ける秘訣は、伝統文化を大切に守りながら進化を続ける姿勢そのものにあるのかもしれない。
photo&text:萩原はるな




