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モロッコの伝統家屋「リアド」をリノベーションしたホテルで、“外に閉じ内に開く”暮らしを体感
モロッコの伝統家屋「リアド」をリノベーションしたホテルで、“外に閉じ内に開く”暮らしを体感
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モロッコの伝統家屋「リアド」をリノベーションしたホテルで、“外に閉じ内に開く”暮らしを体感

モロッコの旧市街に点在する伝統家屋「リアド」は、滞在することで文化と暮らしに触れられる特別な宿。外側は閉じられ、内側に庭を抱くユニークな建築形式には、厳しい自然環境とともに生きてきた先人の知恵と美意識が息づいています。リアドに宿泊することは、単なる旅の体験ではなく、建築や職人文化を未来へつなぐ選択でもあります。まちごとに異なるリアドを巡りながら、モロッコの伝統と“サステナブルな旅のかたち”を探りました。

華麗なモロッコの住文化を体現するリ

外界の喧騒をさえぎる中庭に光、水や緑を採り入れるのがリアドだ

モロッコの夕暮れ。メディナ(旧市街)は毎日あわただしく、にぎやかだ。細い路地をすり抜けるバイクのエンジン音、行き交う人びとの声。香辛料と焼き物の香り。そんなメディナの一角に、いたってシンプルな建物がある。看板も控えめで、うっかりすると通り過ぎてしまいそうなほど。そっと木の扉を開け、内側に足を踏み入れた瞬間に、まちの喧噪は遠のき、美しく静謐(せいひつ)な中庭が現れる。水盤に揺れる光、植えられた木々の葉影、ランタンの淡い灯り──これがリアドと呼ばれるモロッコの伝統家屋だ。

リアドは、アラビア語で「庭」を意味する。中庭を周囲に居室を配置。外に対しては閉じ、内に向かって開く構造だ。外からの視線も熱波をシャットアウトし、風と影、水を取りこむこのつくりは、厳しい砂漠気候とともに生きるための知恵の結晶だ。かつて中庭は家族が集い、子どもが遊び、客を迎える場所でもあった。イスラム文化圏において庭園は、精神的な安らぎと生活機能をあわせもつ、重要な空間なのだ。

見事な装飾が施されたリアドの一室

いまや世界のどこを訪れても、快適で洗練された近代的なホテルがあるものだ。これらは旅をスムーズにしてくれるが、「その土地らしさ」を感じにくい場合もある。リアドは、その対極。部屋ごとに間取りも装飾も異なり、一般的なホテルのように均質化されていない。その不揃いぶりが、リアドの個性を生んでいる。壁や床には職人の手仕事のあとが残り、時間の層が幾重にも刻み込まれているような気がする。

中庭で振る舞われるミントティー(左)と、中庭を囲むイスラム装飾ならではのアーチやタイル装飾(右)。リアドは人々の暮らしの延長線上にある

日中はメディナや観光地をめぐり、人混みと熱気にパワーをもらう。少し疲れた夕方にはリアドに戻り、中庭の木陰でさわやかなミントティーを楽しむ。リアドは外の世界と適度な距離を保ちながら、旅人をやさしく受け止めてくれる。

まさに“泊まれる文化財”

近年、モロッコ各地で歴史的なリアドを修復し、宿泊施設として再生する動きが広がっている。建築を守り、職人の技を継承し、旧市街に人の営みを取り戻すための観光開発だ。旅人が泊まることで雇用が生まれ、建物が維持され、まちが生き続ける。リアドに宿泊すれば、文化保全の循環に参加できるのだ。

家々の壁や階段が青色に塗られているシャウエンのメディナ

メディナのなかでも静かなエリアに建つダル・エクシャウエン メゾン・ドット&リアド

モロッコ各地には、その土地の気候や歴史、暮らし方を映し出すリアドが点在している。“青の街“として知られるシャウエンでは、高台の斜面に佇む「ダル・エクシャウエン メゾン・ドット&リアド(Dar Echchaouen Maison d’hôtes & Riad) 」が有名だ。中庭を囲む穏やかな空間には、モロッカンタイル「ゼリージュ」や木彫装飾、植物などが配されている。まちの象徴である青色は、暮らしの一部として宿の随所に溶け込んでいた。タジンや山羊のチーズといった、宿で出される地元料理も絶品だ。

王朝の都フェズには、迷宮のような旧市街の奥に、かつての邸宅文化を伝えるリアドが息づく。格式ある装飾が美しい「リアド・エル アミン・フェズ(Riad El Amine Fes)」は、19世紀にアラビア・アンダルシア様式で建てられた邸宅を改築した優雅なリアド。 邸宅としての趣を保ちながら、現代の滞在に必要な快適さも備えている。

3年の改修を経て生まれ変わったリアド・エル アミン・フェズの客室とゼリージュタイルを敷き詰めた中庭

リアド・エル アミン・フェズの室内には、ゼリージュタイルや漆喰(しっくい)細工などの職人技が随所に息づき、空間に気品と風格を与えている。中庭のオアシスの佇まいからは、フェズが宗教と学問、そして手仕事の中心地として栄えてきたことが伝わってきた。

同じくフェズにあるリアド・マイラ(Riad Myra)は、メディナの中心地に1900年代初頭に建てられた邸宅。地元の職人たちによって丁寧に改装、修復されたリアドだ。オリジナルのムーア建築様式とアンティーク家具が、このうえなく優雅かつ華やか。古びた壁や精巧なゼリージュタイル、彫刻が施された木細工のひとつひとつが、この家で営まれていた暮らしを物語る。

リアド・マイラの中央パティオに配された噴水。神聖な八芒星「ルブ・エル・ヒズブ」がかたどられている。その奥には、モダンなラウンジバーがあり、ゲストが集っていた

どのリアドでも豪華さに目を奪われがちだが、重要なのは伝統建築と暮らしを受け継ぎ、つかい続ける姿勢だろう。外に閉じ、内にひらくリアドでのステイは、モロッコの自然観や価値観、暮らしの哲学を体感できる絶好の機会なのだ。

協力:モロッコ政府観光局、photo&text:鈴木博美

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