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ラトビア共和国への旅④ 小さな国のかわいい手仕事と歌 占領下でも受け継がれた民族の記憶
ラトビア共和国への旅④ 小さな国のかわいい手仕事と歌 占領下でも受け継がれた民族の記憶
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ラトビア共和国への旅④ 小さな国のかわいい手仕事と歌 占領下でも受け継がれた民族の記憶

街を歩けば、あちこちでかわいいミトン(手袋)を見かけるラトビア。さすがは手仕事大国、民族衣装も繊細できらびやか。これをまとって歌い、踊るラトビア人の姿はまるで絵本から抜けでてきたみたいです。そのめくるめく世界は、苦難の歴史を乗り越えて今に伝わるものでした。ミトンに編みこまれた物語、“光の城”と呼ばれる図書館、震えるほど美しい合唱。この小さな国が秘める魂に触れる旅へ。

ミトンに編みこまれた神さまと民族の物語

ラトビアの首都リガを歩いていると、ここにも、そこにも。ひょっこりと顔をのぞかせている色鮮やかなミトン。極寒の北ヨーロッパを生き抜くために人々が生みだした、ふわふわのお宝です。

路上のミトン屋さん。実は、世界最古のミトンが見つかったのも、このラトビアだ

冬の相棒かと思いきや、かつては夏もつかっていたらしい。「ミトンには民族独自のシンボルを編みこんでいて、これを見ればどこの人かがすぐにわかった。だからみんな、名刺がわりに携帯してたんだよ」とのこと。

どうやら単なる防寒具じゃなさそうだ。リガで最も多くの手編みミトンがそろうというショップ「セナ・クレーツ」を訪ねた。

世界遺産である旧市街エリアに佇む「セナ・クレーツ」。日本語で“(大切なものを保管する)古い穀倉”の意味

ここには、素朴でやさしい伝統的なミトンをはじめ、ベテラン職人の手工芸から新進気鋭の若手作家の作品などが数多く集められている。

ミトンを眺めると、たしかにいろんな模様がある。幸運をもたらすシンボル、太陽や月、星、花の形。アウセクリス(明星神)やサウレ(太陽神)といった古代の神々の象徴もある。

古代異教の時代にさかのぼるラトビアの神秘的なシンボル群

私が気に入ったミトンは14ユーロだった。旅の記念にひとつ買う。冬の指先を温めてくれるだけでなく、ラトビアの神さまも一緒にきてくれそうな気がする。

セナ・クレーツに来たら、ラトビア民族衣装の展示ルームも必見だ。さまざまな衣装をまとったマネキンが、360度ぐるりと並ぶ。編み柄や織り柄、刺繍などは地方や民族によって異なり、ひとつとして同じものがない。圧巻のバラエティだ。

「民族の数だけある」という着こなしの豊かさに感動する

「私たちの祖先がどのように暮らし、何を大切に思い、何を信じていたのか。その手がかりは、カラフルなスカートに、シャツの縫い目に、きらめく王冠にこめられています。これらは匠が長年かけて培ってきた技術の結晶です」と解説文は語る。

民族の紋章は、どこか日本の”家紋”に似ている。自分のルーツを大切に、誇りをもって身につける。そんな文化が遠く離れたラトビアにもあるなんてステキだ。

こうした民族衣装をまとった人々を見るチャンスは、5年に一度。7月のリガで、4万人以上の民族合唱団と伝統的なダンサーたちによる「歌と踊りの祭典」がおこなわれるのだ。

1873年から開かれ、次なる開催は2028年。ユネスコ無形文化遺産にもなっている一大イベント 画像提供/ラトビア投資開発庁(LIAA)

店内のモニターに、イベントの動画が流れていた。自分に縁のある美しい衣装に身を包んだ妖精のようなラトビア人たちが、歌い、踊り、笑い、泣いている。

思えば、ラトビアの歴史は受難の連続だった。

とくに暗黒にのみこまれたのは19世紀後半。国内で民族主義が高まり、独立を宣言したが、第二次世界大戦中に旧ソ連とナチス・ドイツの占領を受ける。さらに1945年にはソ連による再侵攻が起こり、大量のラトビア人が処刑・追放されて人口は3分の1にまで激減した。

他国に占領され、文化を抑圧されてきた人々の激情にふれた気がして、立ちすくむ。

「ずっと自由に生きたかった」”光の城”にこめられた願い

旧ソ連とナチスドイツによる占領の歴史を展示する「ラトビア占領博物館」

1989年には、ソビエト連邦からの独立を求めるバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の約200万人が立ち上がる。各首都の約600kmにわたって手をとりあう“人間の鎖”をつくり、国際社会に独立を訴えた。その後、ラトビアは1991年にようやく独立を回復。たった34年前の話だ。

「他国の支配下に置かれながら、私たちはずっと自由を夢見てきました。将来を自分で決めたかったのです」

ラトビア国立図書館のロビーで、司書のオレグス・ピシュチコフスさんはこう語った。

「知識の詰まった本は、まさに道を照らしてくれる光そのもの。500万冊の蔵書をおさめたこの場所は、 “光の城”と呼ばれています」

案内人のオレグスさん。ペラペラの日本語は「漫画で勉強しました!」と語る

BBCの「世界で最も美しい近代図書館10選」にも選ばれている

書籍『ラトヴィアの図書館』(吉田右子・著)で、この図書館が2014年にオープンしたときのエピソードが紹介されている。

旧館から新館へ、本を運びこむ作業がはじまったのは同年1月。マイナス15℃の極寒の日だった。その寒さをものともせずに1万5000人もの市民が駆けつけ、旧館から新館を結ぶ2kmにわたって列をなし、手から手へと本を受け渡したという。それは”人間の鎖”ならぬ、”本好きの鎖”だった。

「国の強さ、勇気、忍耐をこめた」という図書館のデザイン。建築家グンナー・バークァーツの作

図書館の中は明るく静かで、勉強する学生の姿も多くある。ラトビアの識字率は、なんと99.89%。図書館を“光の城”と呼ぶセンスが愛(いと)おしい。賢くてやさしい人たちだ。

そういえば、ラトビア人は自然や伝統、神秘的なものを愛し、おまじないもたくさん知っている一方で、科学やテクノロジーも大好きだったりする。合理的な考え方を好み、IT産業も活発。エンジニアの数も多い。

しかも “世界で最もスタートアップにやさしい国”のひとつとされ、あの「2ちゃんねる」をつくったひろゆきさんもラトビアに滞在していたほどだ。バランスよく色んな一面を見せてくれるラトビアだから、旅をしていてとても楽しい。

図書館内の日本研究コーナー。私たちは『スラムダンク』や『花より男子』の話でわかりあえる

歌は祈り、合唱は絆。ラトビア人が歌いつづける理由

そういえば、ラトビア国立図書館の中で珍しいものを見た。この木棚、国宝だという。中にしまわれているのは「ダイナ」だ。

「ダイナとは、ラトビア民謡のこと。古代ラトビアの知恵、日々の暮らし、人生観などをつづった四行詩です。千年以上前から受け継がれ、120万曲以上あるといわれているんです。この棚には、そのうちの24万曲ほどが収められています」(オレグスさん)

ユネスコ「世界の記憶」にも登録されている「ダイナの棚」

ちょっと調べてみると、有名だというダイナはこんな感じだった。

朝、リーガの鶏が鳴き、
私は小舟に乗り、漕ぎ出す。
風よ吹け、小舟を進めてくれ。
私はドイツの地へ行きたい。

こうした曲は、原文で読むとリズムや韻に工夫があり、比喩による小宇宙が広がっていくと書いてある。和歌や短歌に似ているのだろうか。それにしても、120万曲はスゴイ。

歌といえば、ラトビア人は“歌う民族”と呼ばれる。

「ラトビア人にとって、歌はスピリチュアルなもの。とくに“合唱”は、祖先や民族の思いとひとつになるために欠かせないものなんです」と現地で聞く。旅の間、そんなラトビアの合唱を鑑賞するチャンスに恵まれた。

古典から現代音楽まで歌いあげる大人気合唱団「マスカ」のパフォーマンス

チケットが取れないことで有名な大人気合唱団「マスカ」のパフォーマンス。たくさんの声が重なり、波のように押し寄せてくる。力強さに震える。美しくてエキゾチックな旋律。伝統の曲だと聞くと、たまらない気持ちになる。

ラトビア人にとって、いまの平和は勝ちとったもの。ほのぼのとした伝統の手仕事も、うるわしの民族衣装も、歌も、本も、他国の占領下で抑圧されながら決して手放さず、命がけで守りぬいてきたもの。その覚悟と絆の強さを思うと涙がでる。

ちなみに、案内人のリーガさんも「マスカ」の一員。いわく、あまりにも「歌と踊りの祭典」のチケットが取れないので、「もういいや、私自身が出ちゃえ!」ということで団に入り(!)、週に2〜3回の練習をこなしているという。

「合唱は国民的に人気の趣味なんですよ」とリーガ・ガブリカさん

1888年設立のヨーロッパ最古級のサーカス専門施設「リガ・サーカス」

少し話はそれるけれど、マスカが歌声を披露した舞台は「リガ・サーカス」。ライオンの火の輪くぐり、見てみたいな〜! などと思った私は時代遅れの化石だった。

「動物虐待の歴史にはすでに終止符を打ちました。いまは人間によるショーを中心に行っています」と会場スタッフ(ガーン)。

「過去の過ちを忘れないように」衣服を預けるクロークは動物をつないだ鎖をデザイン

サーカス学校も開講しているそうで、「ジャグリング能力やバランス感覚、集中力、演技力、コミュニケーション力などを学べる場所になっています」とのこと。どれも人生に必要なスキルのような気がする。ちょっと受講してみたい。旅先で路銀が尽きたらジャグリングで稼ぐのだ。

地元客に愛される1930年代の“ガレージ”で乾杯

「リガ・サーカスのそばに、お気に入りの店があるの。たまに仕事帰りに立ち寄るんです」とリーガさん。行きつけのワインバー&レストラン「ガレージ」を案内してくれた。

店内のイスを見てびっくり。これ、クルマの座席じゃない?ここが「ガレージ」。シックでオシャレな佇まいに胸が高鳴る

このお店があるベルガ・バザールというエリアは、19世紀末から20世紀の初頭にかけてリガで最も発展した場所のひとつだったそう。1930年代にはここにガソリンスタンドがつくられ、そのとき併設されたガレージをリノベーションしたのがこのレストラン。なるほど、だからクルマの座席なんだね。

左から魚のタルト、鹿肉のタルタル、ポルチーニ茸クリームと揚げパン

チョウザメフィレとポテトのコンフィ。燻製サワークリーム添え

料理は最初からアクセル全開。前菜はボリュームたっぷりで、塩気がおいしく、これだけで2時間ちびちび飲めそう。新鮮な鹿肉のタルタルが口の中でとろける。メインディッシュのチョウザメのフィレは身がふっくらとして、香ばしい燻製サワークリームがいいアクセント。ポテトのコンフィは外がカリッと、中はホクホク。

左:ペアリングされるワインが絶妙で食がすすむ/右:パンプキンクリームの塩キャラメルがけ

18時の店内はすでに満席。大人気だ。オープンキッチンでは炎が上がり、隣のテーブルでは乾杯の歓声があがっている。おいしいワインを片手に、簡単なラトビア語を教えてもらった。イエスは「ヤー」で、ノーは「ネー」。

この5秒後、こちらに気づいたシェフが「楽しんでる!?」。ヤー、ヤー、リョーティ!(とっても!)

「ありがとう」はパルディエス。「おいしかった」はビヤ・ガルシーギ。ラトビア語はちょっと呪文めいていて、口にすると森の精が飛んできそうだ。お礼だけでも現地の言葉で言ってみると、地元の人の笑顔の輝き方がちがう。それがうれしい。

Photo & Text:矢口あやは

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