沖縄で“大地から空中からコーヒーから”やんばるの魅力をまるごと味わう「エシカルトラベル」【前編】
南国の青く美しい海、首里城や、やんばる(山原)の森などの世界遺産、琉球時代から継承される独自の文化と、見どころいっぱいの沖縄県。国内外から多くの観光客が訪れる沖縄では、「エシカルトラベルオキナワ」というプロジェクトが推進されています。この取り組みは、人や社会、環境に配慮した優しい観光先進地を目指すというもの。このプロジェクトに賛同し、サステナブルな沖縄旅を提供している人びとを訪ねました【前編】。
生産者の希望価格で地元野菜を買い取りランチに!
「沖縄の農産物」と聞くと、ゴーヤやマンゴー、パイナップルにサトウキビといった南国野菜&フルーツを思い浮かべる人が多いだろう。けれども沖縄では、ナスやニンジン、ブロッコリー、キャベツ、トマトにキュウリ、インゲン豆などなど、おなじみの野菜もたくさん採れるのだ。沖縄本島北部の“やんばる”は、世界自然遺産に登録された大自然が残る注目エリア。そこで育った素材をつかった料理が食べられるレストランが、名護市「なごアグリパーク」内にある「Cookhal」だ。
「なごアグリパークは、沖縄のグルメやスイーツ、お土産が集まる食のテーマパークです。生産×加工×流通・販売をおこなう6次産業を実践するためにつくられた施設で、今年で7年目。私はふだん畑で農作業をしているのですが、カフェではその日の野菜と相談しながら、畑の声が聞こえるようなランチプレートを提供しています」(Cookhalオーナー 芳野幸雄さん、以下同)

東京から名護市に移住、やんばる地域の畑で野菜を育てている芳野さん。地域の飲食店や企業と連動し、新規就農者をまとめながら地域の6次産業化に挑んでいる
芳野さんがもっとも重視しているのは、地元の人に名護の豊かさを知ってもらうこと。「流通一体型の生産」の仕組みづくりを実現するために、生産者同士の交流会をおこなったり、野菜を扱う飲食店と消費者をつなぐイベントを企画したりと、生産者と消費者が触れ合う機会もつくり出している。
「地元の人に地元の野菜を、一番いい状態で食べていただきたいんです。名護の人々に地元を誇りに思ってもらいたいんですよね。そうすれば、沖縄中南部や内地(本州など)の方々にも名護の豊かさが伝わっていくと思っています。沖縄北部には『美ら海水族館』やこの夏オープン予定の『ジャングリア』などの施設がありますが、その周辺に息づくやんばるの自然や食を広く知ってもらい、やんばるを盛り上げていきたい」

オーガニック野菜をふんだんに使用したランチが大人気。店内には朝採れ野菜や「やんばるスパイス」などが買えるマーケットもあり、地域住民が買いに訪れる
カフェメニューの食材は、すべてやんばる産。この日のランチプレートの内容は「スイスチャードの胡麻和え」「青パパイヤのサラダ」「ニンジンの葉の天ぷら」「ブロッコリー入りキッシュ」「やんばる若鶏のグリル ブロッコリーのクリームソース」などなど、大地の恵みがいっぱい。「葉野菜とハイビスカスの花びらのサラダ」には、大宜味村(おおぎみそん)の安室(あむろ)養鶏場から届く生卵をつかったニンジンドレッシングがかけられていた。米は隣町の羽地産ミルキーサマーに、古代米を混ぜたもの。
ワンプレートにそれぞれの素材にあわせた味つけがされていて、ひと口ごとに感動してしまう。野菜の味が濃く、甘みや苦みがなんともフレッシュなのだ。

日替わりの「畑のランチプレート」(写真左)は、やんばる産の旬の野菜が満載。やんばる豚100%の自家製無添加ソーセージが主役の「ホットドックプレート」(同右)も人気
すべての材料にこだわった手づくりのメニューを提供するため、周辺の飲食店と比べると若干お値段は張る。けれども、特別な日や野菜で元気になりたい日に訪れる地元住民も多いという。
「オープンから丸6年、おかげさまで地域に根づいてきたと思います。おばあちゃんから孫までの三世代で食事を楽しんで、野菜を買って帰る、なんて光景をよく見かけますよ」
レストランの裏の畑のほか、近くに3000坪の畑があり、年間4〜50品目くらいの野菜をつくっているという芳野さん。15年ほど前からは、コショウにコリアンダー、カルダモン、シナモン、クローブといったスパイスの生産を始めた。
「沖縄は海に囲まれているから魚介類がおいしく、畜産も盛ん。海があるので塩もあるし、名産品のサトウキビもありますよね。そこで、『スパイスがあれば、すべての食材がやんばる産でできるんじゃないか』という話になったんです。現在は、20種類くらいのスパイスを育てています。近いうちに、100%やんばる産のスパイスカレーができあがるはず。スパイスからつくるカレーのワークショップなども計画しています」
やんばるの森を“空”から感じて、沖縄産コーヒーを味わう
やんばるといえば、2021年に世界自然遺産に登録された山や森が大きな魅力。世界的にも珍しい生物多様性を楽しみながら体感できるのが、「やんばるアドベンチャーフィールド」だ。最大のシダ植物のひとつヒカゲヘゴや、やんばるの森の多くを占めるイタジイやオキナワウラジロガシが生い茂る森の中で、バギーやジップラインが楽しめる。
沖縄本島では、第二次世界大戦のあとに焼けてしまった大地をカバーするために植えられたアメリカハナグルマが、現在増えすぎて問題になっているとか。こちらでは、ジップラインを楽しみながら、こうした外来種を駆除するメニューも用意されている。やんばるの生態系を伝えながら、環境を守る取り組みが進められているのだ。

ジップラインで空からやんばるの森を体験! こんもり茂るイタジイの向こうには、青く光る海が望める
アドベンチャーフィールドは、熱い注目を集めている沖縄産コーヒー「又吉コーヒー園」の施設内にある。こちらではコーヒー園の見学もでき、収穫体験も受付中。併設のカフェでは、焙煎したてのコーヒーが味わえるほか、コーヒーの果実、コーヒーチェリーのジャムをつかったスイーツなども登場するそうだ。

コーヒーの苗も販売中。収穫から焙煎まで体験できる、コーヒー好きにはたまらないスポットだ
いつもの観光地めぐりから一歩踏み込んで、やんばるの大地の恵みを感じるエシカルトラベル。世界自然遺産の底力を感じる旅に、ぜひ出かけてみよう。
Photo & Text:萩原はるな