食品ロスが招く気候危機を、乾燥野菜が救う!?【中編】
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、はじまっているさまざまな取り組みに注目。今回は、廃棄の問題に立ち向かおうと、熊本県でアクションを起こしている人たちに会いに行ってきました。
廃棄食材をなくすことで、
CO2の排出を回避する
森林を伐採して農地を増やし、捨てる食材をつくる土地を増やしているという悪循環は、竹井さんが言うとおり、たしかに“気持ちが悪い”。そのための森林伐採や火災によって大気中にCO2が放出されると、温暖化や気候危機の深刻な原因にもなる。
「なぜ日本で野菜が捨てられているか。農家さんは『卸売業者が規格外の野菜を買ってくれない』と捨ててしまう。卸売業者は『お客さんが買ってくれないから買わない』という。たとえば、少し長いだけで規定のパッケージに収まらないからとネギが捨てられていますが、袋から先っぽが少し出ているくらいで買わないお客は、いないと思いませんか? そう考えると、捨てなければいけないと思わせてしまうのは、皆が推し量りすぎて見えない化け物と戦っているような状態なんですよね。誰も求めていないものに配慮しすぎて、矛盾が生まれてしまっている。そのループからなかなか抜け出せすない、寛容性のない社会となっているのが現状です」
こうして捨てられてしまう野菜を救うのが、乾燥野菜というアイデアだった。でも、乾燥させて保存性を高めるアイデアをどういう方法で実現するか。竹井さんは全国90以上の自治体を訪問し、一緒にこのプロジェクトに取り組めるところを探した。その熱意もあり、熊本と広島からスタートし、2022年までに福島、愛媛、兵庫、福岡と6ヵ所に拠点を広げている。
「無添加で野菜を乾燥させる方法はいろいろありますが、もっとも簡単なものを選びました。そうすることでみんながマネしやすくなる。いま、熊本の作業所には一日150kgほどの野菜が届きますが、それでも、周辺で捨てられている野菜の1%にも満たないのではないかと思います。全国民が毎日おにぎりを2つずつ捨てているのと同等の食料が廃棄されている現状を考えると、とても自分たちだけの規模では追いつかない。一社勝ちすれば利益は増えますが、社会を動かす規模にはなりません。みんながマネしてくれたほうが捨てない野菜の量が増えるので、ノウハウは開放しています。そうやって回収できる量を増やす。社会課題に挑むには、技術的優位性ではないアプローチが必要と考えています」
地域自治体との二人三脚で廃棄野菜を集めたり、ふるさと納税に商品を出したり、地元企業とオリジナル食材を考案したり、はたまた地域おこし協力隊を巻き込んで活動を広げたり、地域課題の解決にも一緒に取り組む。
「将来的には、活動に賛同する人や自治体が増えて廃棄野菜を減らすことで、捨てる野菜がなくなればいい。漁業の水産廃棄、米や麦に関しても、そういうプレイヤーが現れてムダがなくなることが目標です。そうなってから、余っているものが足りていないところに配分されていけばいいなと」
おいしい乾燥野菜で、気候危機につながる食品ロスを解消しようとする竹井さんの挑戦。目標とする到達地点にはまだ遠いが、着実にその一歩を歩み出している。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Tetsuya Ito Text:Asuka Ochi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子