瀬戸内海の生口島「しおまち商店街」で出合ったサステナブルな食と旅館と銭湯!【前編】
私たちのふだんの行動軸をベースに、未来を変えるアクションを集めました。毎日の暮らしのなかでできることから新たな世界での体験まで、できそうなこと、やりたいことから探してみましょう。今回は、「旅する」アクションの一例をご紹介します。
旅人が町と交流できる
伝説のホテリエ作の宿泊施設
尾道から、しまなみ海道を走って3つ目の生口島。穏やかな海を眺める瀬戸田の町に、しおまち商店街はある。
フェリー乗り場のある瀬戸田港から耕三寺まで約600m続く道沿いには、名産のレモンを売るお土産屋や小さな飲食店が50店舗ほど。
昭和風情の町並みが残る商店街が、ここ数年、より魅力的に変わってきている。
2021年3月、商店街に開業した旅館「Azumi Setoda」と銭湯「yubune」。世界のラグジュアリーリゾートを手がけた伝説のホテリエ、エイドリアン・ゼッカさんが、この土地に魅せられてつくり上げた独自解釈の日本旅館だ。
建物は、約140年の歴史がある「旧堀内邸」を、家屋の伝統を残しながら改装。製塩業で財を成した当主の家は、かつて地域のシンボルとして親しまれていたという。
そうした歴史も残したいと、地元の人も集えるように、それまで町になかった銭湯を道路を挟んだ向かいに新設。客室も備えた施設、yubuneとなった。
このホテルは食の面でも土地に寄与している。フレンチの要素を取り入れたAzumi Setodaのダイニングでは、100%地産の食材を使用。
広島産の牡蠣やもずくなど、季節ごとの食材がコースで供される。
おいしさを求めてたどり着いたのが地産地食だったというが、町と人とがより豊かな連携を生むことにもつながっている。
一方yubuneは、あえてダイニングを設けず、宿泊者が町の施設を利用する楽しみを残している。
宿泊施設が機能を町に頼ることは、イタリアで発祥したアルベルゴ・ディフーゾの試みにも通じる。80年代初頭、廃村の危機にあったイタリアの小さな村は、村全体をホテルとすることで蘇った。
これまではレストランやカフェ、スパなど、すべての機能を内部に持つ一体型のホテルが主流だった。機能を分散させ、町に還元するやり方は、地域再生につながる。地元との交流の機会が増えることは、訪れる人たちの旅をより豊かにしてくれるのだ。
INFORMATION
Azumi Setoda
日本のもてなしに感銘を受けた世界的ホテリエのエイドリアン・ゼッカさんが、日本各地を探してたどり着いた瀬戸田。築約140年の旧堀内邸を改修し、独自の解釈による旅館に。空間に受け継がれてきた歴史や、季節の地産食材、地域のアクティビティなどを通して、ゆったりと贅沢に土地を体感できる。全22室。夕食は宿泊者以外も利用可。yubuneの銭湯利用は無料。広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269 azumi.co/setoda
Yubune
Azumi Setodaの向かいにある銭湯つき宿泊施設。銭湯部分は、地域の住民や旅行客にも開かれている。尾道を訪れたサイクリストたちが自転車とともに泊まれる土間つきの客室も。銭湯壁画は美術家ミヤマケイさんのデザイン。全14室。朝食は「SOIL Setoda」で。銭湯は7:00~22:00(宿泊者無料)。日帰り入浴は10:00~20:00で、入浴料・大人900円。広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269 yubune.co
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子