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木工作家・吉川和人「木が生きた痕跡を活かし、素材の持つ生命力を表現する」
木工作家・吉川和人「木が生きた痕跡を活かし、素材の持つ生命力を表現する」
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木工作家・吉川和人「木が生きた痕跡を活かし、素材の持つ生命力を表現する」

日本の森林率は約67%ですが、適切な整備がなされないまま放置されている森がたくさんあります。このことは植物、昆虫、動物の生態系に関わり、私たちの暮らしにも多くの影響を及ぼします。木が育つのは何十年、森が育つのは何百年もかかるといわれます。日々、森を歩き、木に触れることで見えてきたこと、そして未来について、木と森に関わるスペシャリストに話を伺います。今回は、木工作家の吉川和人さんを訪ねました。

木の生命力を、つくる面白さにつなげる

木の年輪、節やゆがみ、割れをそのまま活かし、木が生きた証を作品に表現する木工作家の吉川和人さん。日々、さまざまな材と対峙するたびに、その木が生き抜いた美しい時間を実感するという。ものづくりを通して伝えたい思いを聞いた。

北欧では土地の所有者に損害を与えないことを条件に、すべての人に対して他人の森などへの立ち入りが許され、自然環境の享受が認められる権利がある。「日本でも自然享受権のような権利があると、多くの人が森を身近に感じられるようになるのでは」と吉川さん

「“木をつかう”とは、いわば植物の屍(しかばね)をつかうこと。生命を終えても有機物のまま固形を維持してつかえて、暮らしになじむ。そんな素材は木くらいではないでしょうか」と話すのは、木工作家の吉川和人さん。日々の暮らしのなかでつかわれている木がかつて生きていたこと。ゆえに、それぞれに匂い、硬さ、質量、模様があること。あまりに身近にありすぎて意識していなかったことに、はっとさせられる。

「動物の皮もありますが劣化しやすいのが難点。木はある程度の剛性もあり、保存性もある。燃やして熱源とすることもでき、自然に還(かえ)り、勝手に生えてくる。材自体が生と死をはらんでいるので、僕の仕事は常に木という生き物と共存している、そんな感覚です」

木は、子どもの頃からいつも身の回りにある存在だったと吉川さん。

「家の裏に森や池があり、そこで遊んで、木を削って何かつくっていました。ナイフさえあれば、つくれることに面白さを感じていたんです。自分でつくった道具を、自分の生活で使つかいたいという思いは、その頃からなんとなくありましたね」

都内の工房にて。毎日さまざまな木と触れ合うので、一本一本の木が生きた痕跡を意識せざるを得ないという

大学ではマーケティングを学び、卒業後はイタリアのモダンデザインの家具メーカーであるカッシーナ・イクスシーへ入社した。

「本当は絵描きになりたかったけれど現実的ではなく、もともと好きだった美術やデザインに関わりたいと思いました。商業的なブランドビジネスとアートとの結びつきを知りたくて。当時は海外の家具の見本市にもよく行っていたので、当時の経験は大きく、おそらくどの木工作家よりも、僕はさまざまなデザインに触れてきたという自負があります」

仕事を通して、デザイナーや職人と直接やり取りすることが増えると、いつしか自分もつくる側になりたいと思うように。2011年の東日本大震災を機に、「短い人生を後悔のないように」と考え、36歳で会社をやめて、岐阜県立森林文化アカデミーに入学。木工技術の基礎や日本の森林文化を学んだ。

吉川さんの作品。黒い筋は木が死んだ後に菌が侵入してできたもの。乾燥すると菌も死に、跡だけが残る。「意図しても描けない模様に惹かれます」

木工作家になって10年。現在は、日用品のスプーンから大きなオブジェまで、さまざまなプロダクトや作品づくりに励む。吉川さんの作品の特徴は、節やゆがみ、模様など、木そのものの特性を大切にして、木が生きた痕跡を活かそうとするものづくり。

サクラ、ナラ、トチ、カシなど、さまざまな材で作られた、スプーンやバターナイフは代表作。左の2本は、幼い頃初めてつくったスプーン。母親へプレゼントした

「おそらく昔であれば廃棄されていた材。もともと日本人には、節が入っていなくて、目がまっすぐなものが『いい木』とする美意識があった。林業の方たちもそんな木をつくるために、努力されていたと思います。ただ、僕は木の個性がそれぞれあるほうが視覚的にも面白いと思っています。もともと節は枝の痕跡。木が光を求めて外に広がって伸びようとした跡なんです。昔は欠点とされがちだったものですが、いまは面白いと思ってくれる方が多くて、節入りが欲しいという方もいらっしゃいます。力強く成長しようとした生命の痕跡を、現代に生きる人々も無意識に感じているんじゃないかなと思います」

吉川さんは東京以外に、三重県の大台町にも工房を構える。その町でトヨタ自動車のバックアップを受け、現在、「森へ行く日」という協働プロジェクトを手がけている。

「町の山林の木をつかって事業を興し、地域の活性化を目指しています。僕の役割は、学校や工房でワークショップを行って木と親しみながら何かをつくる面白さを感じてもらうことや、地域の企業とコラボレーションして製品を開発することです」

とくに木という素材は、加工しやすい素材なので、初心者もなじみやすいという。

「この活動自体は環境を大きく改善するようなインパクトは持っていませんが、木に触れて、ものをつくる経験から、新たな気づきを得られるはず。そのへんに生えている植物から何かをつくれることは自然との共生感に、また自分の手で生み出せる喜びは自己肯定感につながります。多くの可能性を秘めた木を通して、いろいろなことを感じてほしいと思います」

PROFILE■吉川和人(よしかわ・かずと):2017年、株式会社ウォールデンウッズを設立。個展開催の他、学校法人自由学園女子部の教室家具の製作や豊岡市立図書館の彫刻家具、個人邸、公共施設、飲食店の家具や食器を制作。三重県大台町でトヨタ自動車株式会社と協働プロジェクトを手がける。現在、東京と三重で制作活動をおこなう。

●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。

Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Chizuru Atsuta Composition:林愛子

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