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石巻工房「みんなで家具をつくれば、震災復興はもっと早まる!」【後編】
石巻工房「みんなで家具をつくれば、震災復興はもっと早まる!」【後編】
LIFE STYLE

石巻工房「みんなで家具をつくれば、震災復興はもっと早まる!」【後編】

これからのものづくりにサステナビリティは欠かせない視点。地球環境は守られているか。働く人たちへの配慮がされているか。残すべき伝統がきちんと次世代へ継承されているか。私たちはつくられた背景に賛同し、応援する気持ちで選びたい。つくり手の思いを聞きに、ものづくりの現場を訪ねました。今回は、宮城県の石巻工房へ。

▼前編はこちら

クオリティの高さだけでなく
DIY精神が支持された

2011年の11月にはアメリカに本拠地を置く家具メーカー「ハーマンミラー」の職人らが石巻に滞在。「石巻工房」の理念と活動に賛同し、仮設住宅で暮らす人たちの声をリサーチして、一緒に家具をつくるワークショップを開催した。

「ハーマンミラーの方々は、『こういうものがほしい』という人々の声を受けて、『一緒につくろう。自分でつくったものはタダで持っていっていいよ』と材料と技術を分かち合ってくれました。ものを提供するだけではその場しのぎの支援にしかならない。彼らはそれをよくわかっていたのでしょう。スキルを提供すれば、次に必要だと思ったものをつくれますし、いまあるものを改造してよりつかいやすくもできる。いい家具をつくるだけでなく、DIY精神を伝えていく。それが石巻工房のあり方なんだと感じました」(工房長の千葉隆博さん、以下同)

「トラフ建築設計事務所」がデザインしたスツールは26×86mmの規格寸法材を使用したシンプルなつくり。重なりあって一体になっている2つのスツールは、それぞれ単体でも使用可能。複数を横にスタッキングしていくとどんどん座面が広くなり、サイドテーブルやベンチとしてもつかえる。工夫次第で新しいつかい途を発見できる、ワクワクする家具。左/AA STOOL、右/AA LOW STOOL(ともに2脚セット)

このワークショップがメディアで取り上げられたことで、石巻工房は全国的に注目を浴びる。「プロダクトがほしい。どこで買えるのか?」という問い合わせが相次いだことを受け、12年の1月から通信販売をスタートさせた。代表的なプロダクト、ISHINOMAKI STOOLはシンプルなひとりがけのスツールだが、それがビールケースに近い高さに設計されていると知る人は少ないだろう。当時、仮設住宅ではビールケースをスツールがわりにつかう人たちが少なくなく、踏み台や玄関で靴を履くときの椅子も必要とされていて、そうした背景からコンパクトで軽やかなスツールが生まれたのだ。

工程のほぼすべてを職人が手作業で行っている

「石巻工房でつかう材料の多くはホームセンターなどで購入できる規格のもので、パーツをつなぐビスも丸見え。従来の家具デザインではありえないことです。でも、そのシンプルで潔いデザイン、DIY精神が支持を得た。自分でもつくれるかもしれない、壊れたら自分で修理しよう。石巻工房の家具を通して、そんな新しい価値観を持ってもらえたら、それが何よりうれしいですね」

2021年、石巻工房は「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞。家具のクオリティだけでなく、その取り組みを対象にした評価だったことは、工房が10年にわたって拓いてきた家具づくりの新しい可能性を示した。

カフェでは地元食材でつくったランチも

石巻駅から車で約10分の場所に、20年にオープンした石巻工房のカフェ兼ショールームがある。1階のカフェには代表的なプロダクトが並び、試用もできる。地元の農家らが育てた野菜を使った食事やクラフトビールも人気だ。

トラフ建築設計事務所がデザインしたゲストハウスの一室Takibi。ほかに「藤森泰司アトリエ」が手がけた部屋など趣向の違う計4室が

2階はゲストハウスで、トラフ建築設計事務所など、これまで工房とコラボレーションしてきた建築家らがデザインした部屋が4部屋。ここでも石巻工房の家具を体験できる。

カフェスペースがショールーム。リモートワークする人の姿も

「僕たちはいまもこれからもDIY家具メーカーです。芦沢が震災直後に『ものをつくれる人がいれば復旧できる』と感じたように、ものを作る経験は想像力を生み、大袈裟でなく生きる力につながる。僕自身も震災を通して身をもって知ったことです。これからも地域の人々と協力しながら、そんな思いを伝え続けていけたらと考えています」

Ishinomaki Home Base

カフェ兼ショールームでは石巻工房のプロダクトをはじめ地元作家のクラフトなども扱う。火曜定休。2階のゲストハウスは貸し切りや長期滞在も可能。宮城県石巻市渡波栄田91 ishinomaki-hb.com

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Kei Taniguchi Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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