ユニークな習字、絵のなかで楽器演奏──埼玉「工房集」の心揺さぶるアウトサイダー・アート
いわゆる「美術」の外にいて、創作し続ける人がいます。誰かの、何かのためでなく、沸き立つ表現。魂があふれ出るような心を揺さぶる作品と、そのつくり手たちを訪ねました。今回のスポットは重い障がいを抱えた人の表現の可能性を模索し続ける埼玉県川口市の「工房集」です。
美術教育を受けていない人たち=アウトサイドによる芸術
既存のアートに対し「アウトサイド」とされる、美術教育を受けていない人による、独自の芸術活動のこと。障がいや生きづらさを抱える人の作品でも知られるが、身近な日常で、刑務所で、あるいはどこかで人知れず、さまざまな表現が生まれている。独創的で自由で、これこそ創作の真髄と感じられるような、魂を燃やす作品たちだ。
◆齋藤裕一◆

1983年生まれ。入所当時はさまざまな創作と向き合うものの、得意分野が見出せずにいた。それが皆で施設の看板を書いたのをきっかけに、文字を模倣するように。手本を模した線の本数の足りない漢字や、形の崩れた文字で表すユニークな習字に熱中。その後、画材を紙とボールペンに変え、いまの作風にたどり着く。

かつては落ち着きなく動き回っていたが、最近は絵と精力的に向き合っている。いつもアトリエに持参するスポーツ新聞のテレビ欄から、楽しみにしているドラえもんや(名探偵)コナンなどの文字を重ねて描く。書く言葉は絵にノッて来るとどんどん略されて「ももも……」になったり。浦和レッズが好きでレッズの文字を書くことも。彼らの本拠地である埼玉スタジアム2002にも作品が展示されている。
◆尾崎翔悟◆

1988年生まれ。ジャズが好きで、あらゆる楽器の名称や形、音色まで熟知。それらの要素とともに描かれるのも、電車やコーヒーなどの好きなもの。2次元的なアイコンと立体的な表現とが、画面の中に絶妙なバランスで存在している。
最初の頃は線も雑だったが、いまは定規をつかったり、失敗すると描き直したり、細かいところまで几帳面に仕上げるのが特徴。輪郭をペンで描き、彩色は色鉛筆で。ゴールドやベージュ、茶色、こげ茶色を細かくつかい分けて、バラエティ豊かな楽器の色が再現される。

楽器店へ行くのも大好きで、店からカタログを持ち帰っては眺めている。アトリエをなごませるエンターテイナーでもあり、ときに“エア演奏”しながら、紙に顔を近づけて制作に集中。絵の中では、空想の音楽が奏でられているようだ。
◆工房集◆埼玉県内で障害者福祉を中心に事業展開する「みぬま福祉会」。その利用者の活動拠点として2002年に開設。絵画に留まらず、ステンドグラスや木工、写真なども用いて重い障害を抱えた人の表現の可能性を模索し続けている。人びとが集まる開かれた場としてあるために、アトリエにギャラリー、ショップ、カフェを併設。現在、施設見学は要予約。埼玉県川口市木曽呂1445 kobo-syu.com
●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。
Text & Edit:Asuka Ochi Composition:林愛子
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