ノルウェーの“未来都市”オスロで空気の美しさに感動する!【第1回】
夏はフィヨルド(入り江)がまぶしく、冬はオーロラが輝くノルウェー。今回はスカンジナビア航空でデンマークのコペンハーゲン空港まで12時間、さらに飛ぶこと2時間で到着する首都・オスロを、ライターの矢口あやはさんが訪れました。機内泊も含めて3泊5日の旅。でも、オスロのまちはコンパクトだから十分楽しめます。オスロはまるで未来都市のようでもあり、北欧らしいサステナブルなアイデアやかわいいデザインにあふれるまちであり……。幸福度ランキング上位国で見つけた、私たちの明日を豊かにする幸せのヒント。第1回目は、オスロの空気がなぜ美しいのかを考察します。(上写真:フィヨルドに面してオペラハウスや観覧車があるビョルヴィカ地区)
排気ガスのない街は美しい。オスロはまるで未来の実験室

夏のオスロは太陽がなかなか沈まない。夜22時でもこの明るさ
オスロ空港から市中心部までは特急列車で20分ほど。ホテルの最寄り駅で下車し、駅から階段を上がって地上に出てみると、ひんやりした風と甘い花の香りに包まれた。急に視力が上がった気がするほど、まちの空気は澄んでいる。
大通りを電気トラムと電気自動車(EV)が走っていく。通りに面した建物の壁は、まるで塗りたてのように色鮮やか。排気ガスがないと、こんなにも汚れないものなのか。そして、なんて気持ちいいんだろう。
実はこのオスロ市、自治体としては世界で初めて「気候予算」を採り入れた都市であり、ガソリン車には高い税金を課して、利用を抑制している。

やっぱり怖いくらい空気が澄みきっている朝8時のオスロ

電気自動車の普及率はノルウェーが世界一。タクシーもほとんどが電気自動車だった

シェアサイクルのポートもたくさんあった
なかでも衝撃だったのは、電動キックボードをつかっている人の多いこと。ビジネスマンもパリッとスーツを着こみ、革靴で電動ボードを乗りこなしている。道ばたの男性に聞くと、「これ? ぼくも毎日乗ってるよ。免許もいらないし、アプリに登録すれば旅行者でも乗れる」とのこと。ボードに表示されたQRコードを読みこめば登録完了。決済もアプリで簡単だ。

まちの至るところに置いてある。ホームポートへ返す必要はなく、どこでも乗り捨てOKだからますます便利
さて、移動手段といえば、オスロでは電動トラムや電気バス、電動船もポピュラーだ。乗る時はスマホアプリの「ルーター」を起動して決済ボタンを押すだけ。車掌さんは決済を確かめない。みごとなまでの性善説に、思わず背筋が伸びる。

ベビーカーを畳まずに乗降できるバス。犬も散歩の延長でふつうに乗っている

もちろん船の動力も電気。“オスロのお台場”アーケルブリッゲにはたくさんの電気船が停泊している
巨大油田があっても、地球の未来のために、あえて……
それにしても、ノルウェーには北海油田があるはず。ガソリンには困らないのに、どうしてここまで電化を? 現地に暮らすコーディネーター・大西ゆうさんに聞いてみた。
「ノルウェーには高い山があり、雨や雪も多いため、水力発電だけでも国内電力の約9割をまかなえているんです。原発もありません。だから、採れた石油や天然ガスは輸出に回してきました。ただ、これもあと少しのこと。地球の未来を考えた結果、ほかの北欧諸国と足並みを揃えて2050年までにはノルウェーも北海油田の開発を終わらせる予定なのです」
あればあるだけ掘りたくなるのが人の常かと思いきや、自ら手放す未来を選ぶなんて。ただ、電気のバッテリーは寒さに弱く、厳冬のオスロでは交通がマヒすることもしばしば。また、電気自動車は重すぎて道路にダメージを与えやすいことも現在の課題なんだとか。 ちなみに、輸出で得られたオイルマネーは投資に回し、将来の国民の年金やまちの再開発費に充てられている。人にも地球にもやさしくあるためのアイデアがオイルマネーによって現実となり、みごとに機能している。それがいまのオスロの姿。まちごと未来を展示しているEXPOの会場のようだ。

油田マネーによって再開発が進むビョルヴィカ地区。高級マンションやオフィスビルが立ち並ぶ

甘い香りの正体はマロニエ。オスロは緑が多く、大きな窓が空を映して湖みたいだ
まちを歩けば、信号待ちのご婦人いわく「ほら見て、マロニエ!」。オスロはこれからの季節が花盛りで「この香りがすると幸せがはじまる感じがする。冬が暗くて寒いから、春が来たのがうれしくてたまらないの」と笑う。
排気ガスの匂いがしない路上は、どこまで歩いても花の香り。頭上を飛ぶカモメが、海の近さを教えてくれる。この美しい空気が、日本の未来にもあってほしい。
Photo & Text:矢口あやは
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