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人口最少県の鳥取に初の県立美術館が!「作品を見なくてもいい」がテーマって、どういうこと!?
人口最少県の鳥取に初の県立美術館が!「作品を見なくてもいい」がテーマって、どういうこと!?
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人口最少県の鳥取に初の県立美術館が!「作品を見なくてもいい」がテーマって、どういうこと!?

日本で唯一、県立美術館がなかった国内人口最小の鳥取県。そこに3月31日、「鳥取県立美術館」が誕生しました。館長の尾﨑信一郎さんは、阪神・淡路大震災の際に「兵庫県立近代美術館」の学芸員でした。そこで震災を経験したからこそ、これからの美術館に必要な要素“オープンネス”を同施設に取り入れたのです。

「美術に触れることは“生きる糧”になりえる

鳥取県美術館館長の尾﨑信一郎さん

「阪神・淡路大震災は学芸員として仕事をしていくうえで、私にとって決定的な体験となりました。震災自体は防ぐことができず、美術館や作品が被災することは避けられないと思います。しかし、震災後、美術作品に触れることは、被災者にとって大きな心の安らぎにつながることを痛感しました」。そう話すのは鳥取県美術館の館長、尾﨑信一郎さん。

阪神・淡路大震災後しばらくは、学芸員ながらも救援物資を仕分したり、避難所に運んだりとレスキュー作業に従事したそう。やがて美術館に通う電車が再開し、通勤するなかで感じたのは、満員電車に乗る人々の殺気立っていた空気だといいます。

復興作業のさなか、所蔵品を近くの銀行のロビーに展示することになり、久しぶりに作品を目の当たりにした瞬間、ようやく生きた心地がよみがえったと話します。震災という過烈な体験をし、その後の日々を生き抜くなかでは出合えなかった、魂が浄化される時間。極限を経験した者にとって、美術に触れることは「生きる糧」になりうると確信しました。

設計は、世界的に高名な建築家・槇文彦氏率いる槇総合計画事務所

限りなく敷居の低い美術館

「それゆえ、美術館で美術を絶やさずに発信することは、社会のインフラストラクチャー(生活や産業活動を支える基盤)として非常に重要な意味をもつと思います」(尾﨑さん、以下同)。震災からその日まで美術品に触れることがなかった尾﨑さんの大きな感動は、県立美術館がなかった鳥取県で、作品に触れられる場をつくる重要な動機となりました。

それでは、美術館は、なぜ人々の生活の場に必要なのでしょうか。

「それは、精神的なライフラインにつながっているからです。それゆえ、鳥取県美術館のテーマを考えたとき、美術館自体が“オープンネス”、開かれていることが重要だと思い至りました。この場所を訪れた人は、必ずしも美術作品を見なくてもいい。とにかく、すべての人に開かれている存在であることが大切なのです」

鳥取県立美術館は、展示室以外はすべて入場無料。美術館としては異例の、限りなく敷居の低い施設となっている。美術の空気に触れ、感じてもらうことを重視しているからこそ、この姿にたどり着いたのでした。

仕事の場でも家庭の場でもない、サードスペースとしてつかえる無料施設が多い。写真はキッズスペース

「採光を控えた美術館が多いなかでは異例の、光が降り注ぐ明るいエントランスを擁し、隣接する広い緑地から容易にアクセスできる仕様にしました。展覧会を見たり、カフェで休憩したりする以外も、当館に立ち寄って、自由な空間を楽しんでいただきたいと考えています。また、TMOA+(ティーモアプラス)というボランティア組織を早くから立ち上げ、美術館のさまざまな活動に市民のみなさんが積極的に関わっていただける場所を準備しました。開館前にすでに300人ほどの方に登録いただき、美術館に親しんでいただく工夫をしています」

ミュージアムショップには、ここでしか手に入らないオリジナルのグッズも多数

「県内に初めて本格的な美術館ができましたので、まずは皆さまに足を運んでいただき、美術館がどのような場所であるかを知っていただくことが大切だと考えています。とくに地域の方々には、まずは来館いただき、美術館の魅力に触れてリピーターとなり、今後の美術館を支えていただきたいと願っています」

震災を経験し、美術作品によって救われた尾﨑さんの経験が活きた鳥取県美術館が、地域にこれからどんな影響を与えるのかが楽しみです。

尾﨑信一郎

1962年鳥取県生まれ。1992年に大阪大学文学部大学院芸術学研究博士課程単位取得修了。1987年より兵庫県立近代美術館に学芸員として勤務、1995年より国立国際美術館に研究員、1998年より京都国立近代美術館に主任研究官として勤務したのち、2006年より鳥取県博物館に勤務。

鳥取県美術館 https://tottori-moa.jp/  取材・文/仁田ときこ


    

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