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「アフリカから南米まで3万8000kmを歩く!」  ピュリッツァー賞ジャーナリストが語る「なぜ世界を徒歩で渡るのか」
「アフリカから南米まで3万8000kmを歩く!」  ピュリッツァー賞ジャーナリストが語る「なぜ世界を徒歩で渡るのか」
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「アフリカから南米まで3万8000kmを歩く!」  ピュリッツァー賞ジャーナリストが語る「なぜ世界を徒歩で渡るのか」

アメリカの、もっともすぐれた報道、文学などに贈られる「ピュリッツァー賞」を2度も受賞したアメリカ人ジャーナリスト、ポール・サロペックさん。彼はいま、自ら「OUT OF EDEN WALK(アウト・オブ・エデン・ウォーク=人類の旅路を歩く)」と名づけた壮大なプロジェクトを進行中です。あの「ウォルト・ディズニー・カンパニー」と、全米有料テレビネットワークの「ナショナル・ジオグラフィック(以下、ナショジオ)」が4月23日のアースデイに合わせて開催したメディアセッションにサロペックさんが登場。ナショジオのエクスプローラー(探検家)としても活躍する彼が、歩いて旅するからこそ見えてきた、地球のいまについて語りました。

出発は13年前、アフリカ大陸のエチオピアから

サロペックさんは、文化、政治、移民、環境、戦争に関するさまざまなプロジェクトを手がけてきた。いま挑んでいるのは、人類の起源とされるであるホモ・サピエンス最古の化石が見つかったアフリカ大陸・エチオピアのリフトバレーを出発し、中東、日本を含むアジアを経て、航路でアラスカに渡り、アメリカ大陸を南下して南米大陸の南端まで、約3万8000㎞を歩きながら取材するという前代未聞の試みだ。

4月23日、メディアセッション会場のウォルト・ディズニー・ジャパン試写室に現れた彼は、こう語り始めた。

「私はこの13年、石器時代にアフリカを出発した最初の人類の足跡を、徒歩でたどる旅を続けています。現代社会を〝過去〟というレンズを通して見つめ、歴史が今日(こんにち)にどう影響を及ぼしているかを考察するのが目的です。科学は私にとっての地図。12万年前から6万年前に始まった、母なる大陸・アフリカからの移動の軌跡を、科学的に再現しながらたどっています」(サロペックさん、以下同)

2013年に歩みを始めた彼が、最終目的地の南米の果てに到達するのは、2027〜2028年ごろになる見込みだという。

「科学者によると、私たちの祖先は、約8000年前に大陸の最果ての地に到達しました。この偉大な旅は何世代にもわたって、およそ5万年かけて行われたそうです。『いつ旅を終えるの?』と聞かれるたび、私は答えます。『15年で終えられたら、上出来じゃない?』とね(笑)」

現代テクノロジーを駆使しつつ、時速5㎞で、ゆっくり物語を紡ぐ

登壇したサロペックさんは「現代はニュースサイクルが速すぎる」と警鐘を鳴らした

サロペックさんは、これまで4000日以上、歩くことで世界を体験し続けている。スマートフォン、ノートパソコン、衛星電話、ポータブルAV機器などをつかい、世界中のメディアに、記事や写真、映像を発信。ノートパソコンの充電のため、背中に太陽光発電ができる布を載せたラクダ、「ソーラーキャメル」を活用することもある。

「現代のテクノロジーを活かしながら、時速5㎞のペースで歩いて、祖先の足跡をたどっています。時間をかけて世界と人間の物語を丁寧に広い集め、その物語をゆっくり紡いでいるのです」

彼が提唱するのは「スロージャーナリズム」。ニュースの“沈黙”に耳を澄ませ、人間中心の物語を、時間をかけて丁寧に描き出すのがジャーナリズムだと語る。

「かつて松尾芭蕉が日本を歩きながら詩を詠んだように、私はゆっくりと歩きながら物語を紡ぐことを選びました」

日本の過疎の村には「生きていける」という自信が見える

2年半にわたり中国を歩いて横断したあと、サロペックさんは韓国を経由し、福岡に上陸した。2024年9月のことだ。ここ九州から、日本国内での徒歩の旅が始まった。

日本でサロペックさんの旅に同伴したフォトジャーナリストの郡山総一郎さんも登壇。トークセッション「ともに歩く旅のなかで見た〝日本〟」もおこなわれた

「日本では、これまで約1200㎞を歩きました。熊野古道のような世界的に有名なルートはあえて避け、ふつうの農村地帯を選んでいます。あまり知られていない地域にこそ、新たな発見があり、世界一周の物語に独自の価値が加えられると考えるからです。メディアの注目が集まらない場所に行くと、人と人とのつながりが生まれやすいように思います」

日本を歩いて、とくに彼が感じたことは、「凜とした静寂」だという。

「日本の田舎は驚くほど静かでした。人々の生活音すら聞こえない状態は、まるで博物館の中のようです。都市部から離れた場所を歩いたことで、いまもなお日本の各地に深く根づいた伝統的な知識体系があると強く感じました。家族経営の農家や、芸術にもそれは息づいています」

日本と世界との共通点や違いも見えてきたという。

「エチオピアの羊飼いも九州の農家の人も、皆、同じようなことを口にします。『もっと愛してほしい』『子どもたちの将来が心配だ』『上司が嫌いだ』などなど。そして、気候変動の話も決まって話題にのぼります。つまり、世界には圧倒的な共通点があるのです」

その一方で、「日本ならでは」のものも、もちろんある。

「私が見てきた日本の田舎には、素晴らしい自給自足の感覚があります。過疎化が進んで3〜4世帯しか残っていない村でも、『どうにかやっていける、生きていける』という確固たる自信が見られるのです。世界の多くの過疎地域では、そんな自信は見られませんよ。日本には揺るぎない平和と同時に、人びとが自分の足で立っているという強い意思を感じます。これも他の地域ではなかなか見られない、日本独自の強さです」

郡山さんは、「サロペックさんの“外からの視点”によって、農家の人たちが心を開き、深い話ができた」と語った

サロペックさんが歩き続ける目的は、単なる探検ではない。彼の旅は、世界各地で人々の物語を拾い集め、希望へとつなげるためのものだ。

「スマホをはじめとするデジタル技術によって、世界はこれまで以上につながれるようになりました。しかし皮肉なことに、個々の人びとはますます孤立している。それぞれに、小さな情報の泡に閉じこもっているようです。そんななか、私たちストーリーテラーの役割は、ますます重要になるでしょう。すぐ近くにいる人々の声に耳を傾け、紡いでいくこと。『グローバルに考え、ローカルに行動せよ』という言葉があるように、身近な物語を紐解くことが重要なのです」

耳を傾け、ともに考え、話し合えば、解決策が見つかるかもしれない。それを示すことが、ジャーナリストの大切な役割だという。

「長い旅を通して得た、もっとも大きな宝物。それは“つながり”です。表面的な違いを抱えながらも、私たち全員がこの地球を一緒に歩いている──。そのことを、皆さんに深く理解いただければうれしいです」

サロペックさんは、今日も歩み続けている。

取材・文/佐藤美由紀

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