世界一エコなお正月!?「ニュピ」を通じて、バリ島の文化と魅力を再発見
バリ島のお正月「ニュピ(Nyepi)」は、バリ・ヒンドゥー教の重要な伝統行事。毎年春分の日に近い新月の日におこなわれ、「静寂の日」としても知られるユニークなお祭りです。人々は瞑想と内省をし、島全体がほぼ完全に活動停止するため、環境面でも顕著な効果があり、「世界一エコなお正月」と称されることもあります。ニュピの実践は単なる宗教的な行事にとどまらず、地球や自然にとっても大きな意味を持っていました。
前夜祭では悪霊が大暴れ!
「メラスティ」はバリ島で最も重要なお清めの儀式であり、ニュピへと続く一連の儀式の始まり。ジンバラン地区を訪れたところ、各バンジャール(町内会)の寺院に安置されていたご神体が集まり、お清めのための大行進がはじまるところだった。300人を超える正装した老若男女がご神体を乗せた神輿(みこし)を担ぎ、ガムランや楽器を鳴らしながら1㎞ほどをビーチまで練り歩く。
ビーチに到着すると、数千人の正装をした人たちが座って待っていた。高僧による神々への礼拝、供養がはじまると雰囲気は一変、おごそかな空気に包まれる。海から聖なる水をいただくため、神へ捧げる生贄(いけにえ)のアヒルと僧たちを乗せた船が、沖へと向かって行った。僧侶たちは生贄を海に放ち聖水を汲んで戻ってくると、ご神体や神具に聖水を振りかけた。続いて、海に向かって合掌する信者たち全員にも振りかけられ、清めの儀式は終了した。
※儀式の妨げにならないようにすれば、自由に見学できる
ニュピの前夜は、「オゴオゴ」と呼ばれる巨大な醜い鬼の張りぼてが街を練り歩くパレードがおこなわれる。オゴオゴが人間から放出される霊的な汚染物質を浄化し、各家庭に棲みついた悪霊がオゴオゴに乗り移ると考えられているのだ。オゴオゴは地区ごとに手作業でつくられ、パレードの数日前に集会所や道路でお披露目される。紙や竹でつくられたオゴオゴたちには細かい装飾が施され、子どもたちが泣き出すほど迫力もある。地元の人々がこの行事にどれほど真剣に、ユーモアを注ぎ込んでいるのかは、アートとも呼ぶべきオゴオゴを見れば一目瞭然だ。バリの人々の情熱と創造力に感服してしまう。
パレードの日は午後から街じゅう交通規制がなされ、車はいっさい走れなくなる。地区によって時間が異なり、夜に始まる地区もあれば、日中に練り歩く地区もある。パレードの最中、あたりはガムランと太鼓の音とかけ声で満たされ、爆発的な活気に包まれる。そんななか、人びとはオゴオゴが乗った竹製の台を揺らし、回転させて、悪霊が乗り移ったようすを表現するのだ。オゴオゴは「俺を見ろ!」とばかりに動き、観客はそれに応えるように歓声を上げる。
芸術的なオゴオゴのコレクションを展示する新ミュージアム
アヤナバリリゾート内に新しくオープンした「サカ・ミュージアム」。バリ独特の暦であるサカ暦から名づけられた美術館で、バリの生きた遺産とバリ文化への理解を深める文化拠点となるべく誕生した。ミュージアムの1 階ではまず、島じゅうの灯りが消えるニュピの夜、空いっぱいに広がる星をイメージした天井に迎えられ、伝統的な展示物が並ぶ部屋へと続く。上映室もあり、オゴオゴに関するショートムービーをヘッドホンで日本語訳を聞きながら鑑賞できる。2 階では9つのバンジャールと著名なアーティストたちが製作した見事なオゴオゴが展示されている。オゴオゴを間近でじっくりと鑑賞できる、おすすめの美術館だ。
静寂の元日。星空輝く神聖な夜
ニュピ当日は、午前6時から24時間の沈黙が始まる。外出は禁止され、家で静かに瞑想にふける1年で最も大切な1日。労働、灯火、電気の使用、殺生などはすべて禁じられ、テレビもインターネットの通信回線も遮断されてしまう。商店や飲食店はもちろん、空港も港も完全に閉鎖されるので、この日に出入国はできない。観光客も外出は許されずホテル内で過ごすことになるが、カーテンを閉めていれば客室の電気をつけられるのが一般的。WiFiも利用可能だ。ニュピの楽しみは、月明かりも人工的な光もないなかで夜空を見上げられること。雲がなければ無数の星がまたたき、天の川がハッキリ見える。ニュピは地球と自分に向き合う、究極のアースデイなのだ。ニュピを通じて、立ち止まり、心を静めて自分自身と向き合う大切さを知る。そんな旅も悪くない。
text:鈴木博美
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