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牧師・奥田知志×マヒトゥ・ザ・ピーポー「原理原則に偏りすぎず、失敗できる社会をつくることが大切」【中編】
牧師・奥田知志×マヒトゥ・ザ・ピーポー「原理原則に偏りすぎず、失敗できる社会をつくることが大切」【中編】
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牧師・奥田知志×マヒトゥ・ザ・ピーポー「原理原則に偏りすぎず、失敗できる社会をつくることが大切」【中編】

戦争や紛争の引き金になっているのは、貧困や差別をはじめとする、さまざまな問題です。世界が争いへと向かわないために、まずは、その根源にあるものと向き合い、何が起きているのかを考えることが大切です。牧師でNPO法人「抱樸(ほうぼく)」代表の奥田知志さんと、ロックバンド「GEZAN」のフロントマンで音楽家のマヒトゥ・ザ・ピーポーさんの対話から、現在の平和への課題を知り、未来のためにできることを考えます。

▼前編はこちら

正しさだけでは、人は通じ合えない

マヒト 先日、明治神宮外苑の樹木伐採に反対するデモに参加したんですけど、木を切ろうとしている企業がその近くでSDGsフェアをやっていたんですね。それ自体は矛盾はしているかもしれないけど、いいことではあるんですよね。たとえば、SDGsのバッジさえつけていれば「何かをしている」と思える人がいたとして、そこには本質がないがゆえの危険性はあるんだけど、本当に時代を変えたいなら、そういう人たちにどうアプローチするのかを考えないといけないのかなと。たぶん原理原則や正しさだけでは、通じ合えないんだろうなと思いますね。

奥田 キリスト教的な立場から言うと、人間って生きている限りはいいこともするけれども、常に矛盾を抱えていて、存在としては限界がある。全員が罪人であって赦(ゆる)されていないと生きていられない。企業もひとつの社会的な存在だとしたら、白の企業も黒の企業もなくて、SDGsフェアをやっている企業が木を切ると言っているとき、利益事業を止めるわけのない企業がどれくらいまでなら切らずに譲れるのか、その利益をどこに回そうとしているのかという話を含めて、譲歩できる量や程度を厳密に話し合うべきだと思う。

奥田 いままで平和運動も含めて、あまりにもクリアカットに物事が語られてきた。でも、白でも黒でも右でも左でも気持ち悪い。人間ってそんなにクリアな存在ではなくて、どこかで悪を内在化させている。それを自分の中に見いだせるかどうかが問題であって、人との出会いによって仕切りをずらしていくようなリアルな平和を考えないと、なかなかうまくいかない。対人援助の現場でも、アルコール依存症の人に、こうでないとと正しさを押しつけるだけでは、その人の逃げ道がなくなってしまう。

マヒト 原理原則や正しさ、真実みたいなものも大事ですけど、アルコール依存症の人に「お酒なんてやめたほうがいい」と言っているだけでは難しいですよね。さっきSDGsバッジの話が出ましたが、SDGsや「NO WAR」という言葉を記号にして、ファッション感覚で取り入れていくことが100%悪いとも思っていなくて。それは軽薄に見えたとしても、入り口としてそういうことに関わっていて、そこへの意識があるということだから。小さくでも扉が開いているということが、ひとつの可能性でもあるのかなと。そこに時間をかけて向き合うという対話が本当は必要なんですよね。

奥田 浅はかなことだとしても、入り口はいっぱいあったほうがいいね。世の中にはいろんなグラデーションがあっていいと思うし、それを認めないのが戦争状況で、やさしさって質的ではなく、量的な、程度の概念だと思うんですよね。このおじさんは、本当は酒をやめるたほうがいいかもしれないけれど、断酒をした瞬間に鬱になるくらいなら、以前はお酒を飲んで年に50回倒れていたのを、誰かの助けで10回に減らす。それってすごい成長ですよね。

奥田 原理原則的に失敗しない社会をつくろうとしなくても、出会いのなかで死なない程度に失敗できる社会をつくったほうが早い。だから僕はつながっていればなんとかなるという“伴走型支援”の考えになったんです。平和もきっと原理原則的なものではなくて、とにかく、たくさんの人とつながっていくことなのかなと。そこには敵に近い人や嫌いな人もいるんだけど、そんな人もいるよねという世界観。でも一方で原理原則がまったくナシかというとそうではなくて、いくら多様性といっても、毒を入れることや人殺しは違う。知的障害者施設で多数の人が殺された相模原事件にしても、どんな背景があろうと人殺しはやってはいけないわけです。戦争もそうですよね。

マヒト それは多様性とは違いますよね。ただ、その線引きが難しい。ぜんぜん違う背景の人が集まっている、その規模が大きくなると日本人と括(くく)られたりするんだけど、それだけではないし。そこと向き合うために複雑でい続けているから、「抱樸」や知志さんが好きなんですよね。ひと昔前のリーダーシップは、答えを知っている人に同調すれば救われるとか、現状を打破できるという力が結集力になったけれど、それはそこに関わる人を頭数で数えて、大衆という言葉で均一化していくものだった。それを解体して、みんながひとりずつ、それぞれになる。全員が同じ雨に打たれているけれど、雨を感じているのは一人ひとり別なように、それぞれの冷たさも痛みも違うから。平和についてひと言で言えるほどシンプルではないけど、スタート地点はやっぱりそこなんだと思う。

▼後編につづく

PROFILE

奥田知志 Tomoshi Okuda

1963年生まれ。1990年、福岡県北九州市の「東八幡キリスト教会」に牧師として赴任。学生時代からホームレス支援に携わり、生活困窮者への伴走型支援を行うNPO法人「抱樸」を設立。活動の一環として福祉と共生の拠点を作る「希望のまちプロジェクト」を実施中。絵本の著書に『すべては神様が創られた』がある。

マヒトゥ・ザ・ピーポー

1989年生まれ。2009年、オルタナティブロックバンド「GEZAN」を結成。最新作に23年、自身のレーベル「十三月」からリリースした、GEZAN with MillionWish Collectiveでのアルバム『あのち』がある。荒井良二が絵を担当した原作絵本『みんなたいぽ』も発売中。初めて監督・脚本を務めた映画『i ai』も。

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Photo:Tomohide Tani Text & Edit:Asuka Ochi Composition:林愛子

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