材料調達も製作も地域内で完結!「木の地産地消」を目指すプロジェクト
日本の森林率は、現在約67%ですが、適切な整備がなされないまま放置されている森がたくさんあります。このことは植物、昆虫、動物の生態系に関わり、私たちの暮らしにも多くの影響を及ぼします。木が育つのは何十年、森が育つのは何百年もかかるといわれます。日々、森を歩き、木に触れることで見えてきたこと、そして未来について、木と森に関わるスペシャリストに話を伺います。今回は、〈VUILD〉の秋吉浩気さんを訪ねました。
材料調達も製作も地域内で。技術とアイデアが道を拓く
デジタルファブリケーションの技術と地場産の木材をかけ合わせ、革新的な木造建築を手がけてきた〈VUILD〉の秋吉浩気さん。身近な素材を使いながら、誰もが簡単に理想の建築物を作れる社会を目指す彼が考える、人と森との望ましい関係性とは。

〈VUILD〉では、設計士やエンジニア、ファブリケーターなど多彩な職能を持つスタッフが活躍中
国土の約7割を森林が占める日本では、ごく身近なはずの木。しかし建物を建てるとなれば、建材の約半分が輸入材でまかなわれ、国産材であっても別の土地で伐採、製材されたものを仕入れる場合がほとんどだ。
〈VUILD〉の秋吉浩気さんは、そうした建築業界の“当たり前”にとらわれることなく、材料の調達から建設に至るまでを地域内で完結させる、“木の地産地消”を各地で試みている。
「身近な素材を使って、誰もが自分の手で理想の家や家具を作ることができる状態が、最も自然でありサステナブル。それを仕組みとして社会に実装することを目指しています」

〈VUILD〉のプロジェクトに欠かせないアメリカ製の高性能3D木材切削機「ShopBot」。彼らが導入をサポートし、国内で200台以上が普及
彼が拠り所とするのは、デジタルデータをかたちにするデジタルファブリケーションの技術。各現場に3D木材切削機「ShopBot」を導入し、デジタル設計図をもとにパーツを出力。それらを組み立てるのが〈VUI LD〉のアプローチだ。木材は地場産を使うことで、輸送にかかる時間やコスト、エネルギーを大幅に削減。環境負荷を軽減させる方法としても注目を集めている。
もとは「限られた技能を持つ人にしかできなかったものづくりが、大衆の手に戻っていく、建築の“民主化”に可能性を感じてこの領域に入った」という秋吉さん。木に照準を絞ったのは、学生時代に参加したカンファレンスがきっかけだった。
「世界中の研究者が集まったこの会で議論されたのは、デジタルファブリケーションの技術をいかにローカルな資源と融合させるか。スペインなら土を、アフリカなら砂を素材にするなどの土着の動きに関心を持ちました。と同時に、海外の研究者たちがこぞって日本の木に興味を持つ姿から、森林が極めて身近な日本の環境の特殊さにも気がつきました」

一日程度の研修を受ければ誰でも使用できるのが「ShopBot」の強み。教育機関への導入事例もあり、この機械でのものづくりに部活で取り組む中高生も
国内はもちろん、地域の中でも身近な木材と技術を掛け合わせれば、余計なコストをかけずに自由なものづくりができると可能性を感じた秋吉さん。機械としてはリーズナブルな3D木材切削機「ShopBot」との出会いも助けになり、2017年に〈VUILD〉を創業。プラットフォーマーとして「ShopBot」の導入をサポートしながら、各地でユニークな建築プロジェクトを進行してきた。
「プロジェクトは、地域の中で材料のどんな流通ルートがあるかをリサーチするところから着手します。小豆島の複合施設建設に携わった時には、離島のため、本島で製材した木材を仕入れるのが通常で、輸送にコストがかかっていることが分かりました。島内に森林はありますが、丸太を建材にするために乾燥させる設備がない。そこで乾燥機としてオリーヴ栽培で用いるビニールハウスを転用することで、島内完結の材料調達を実現しました」

香川県の小豆島に造られた、オリーヴの栽培、研究開発、製造、販売を行う「The GATE LOUNGE」。島内の木材を「ShopBot」で切り出し建設
また「ShopBot」には、加工に柔軟性がある強みも。富山県南砺市の宿泊施設「まれびとの家」の建設では、規格外のものが多く、うまく活用されていなかった地場の木材を工夫して加工することで、木材調達から製作までを半径10㎞以内で完結させた。
さらに2022年には、個人がアプリ上で間取りを設定して家を設計し、そのまま注文できる「NESTING」も開始。地域内の「ShopBot」で地場の木材を切り出し、建設は参加型で行うことができる。多様な方法で建築の主体をひらきながら、身近な木材の活用にこだわる秋吉さん。その根底には、「人々に身近にある森ともっと関わってほしい」との思いがある。

2023年竣工した東京学芸大学EXPG棟〈学ぶ、学び舎〉。都心部で間伐材や低級の端材などを積層させて作られるCLTという素材を積極的に活用
「“近くに森があることを知らなかった”と話す施主さんもいるほど、人が暮らす場と自然が分断しているのが今の世の中。森の管理は林業に一任していて、人々が自然に対して実感を持てないことが、土砂災害などの放置林の弊害に繋がっていると思うんです。理想は、暮らしと自然が近い距離にあり、人が定期的に手を入れて森を健全に保つ里山モデルです。健やかな森は、人にとっても気持ちのいいもの。主体的に森と関わり、そこの木を使って自ら暮らしを作っていく。自然と人とが互いに良い影響を及ぼし合う関係こそが、豊かな社会を作るのだと思います」
PROFILE◆秋吉浩気(あきよし・こうき):1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科を卒業し、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年にVUILD株式会社を創業。代表的なプロジェクトに「小豆島 The GATE LOUNGE」、住宅事業「NESTING」などがある。
●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。
Photo:Ayumi Yamamoto Text & Edit:Emi Fukushima Composition:林愛子




