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森と木を守って再生させる、「樹木医」片岡日出美のプロのワザ
森と木を守って再生させる、「樹木医」片岡日出美のプロのワザ
NATURE

森と木を守って再生させる、「樹木医」片岡日出美のプロのワザ

日本の森林率は約約67%。しかし、適切な整備がなされないまま放置されている森がたくさんあります。このことは植物、昆虫、動物の生態系に関わり、私たちの暮らしにも多くの影響を及ぼします。木が育つには何十年、森が育つには何百年もかかるといわれます。日々、森を歩き、木に触れることで見えてきたこと、そして未来について、木と森に関わるスペシャリストに話を伺います。今回は、樹木医として働く片岡日出美さんを訪ねました。

柔軟な思考で木と人が共生できる世界を

庭の植栽を管理することもあれば、大木を伐採することもある。はたまた森林整備や、宅地開発の造園を計画するのも仕事のひとつ。気象や土壌など自然環境に関する幅広い知識を持って働く樹木医の仕事には、人と自然が共生するためのヒントがたくさんあった。

樹木医として働く片岡日出美さんの本日の現場は、筑波山大御堂。樹齢300年という御神木の樹勢回復のため、樹上に登って診断したり、地上で指示をしたりと4人がかりで作業している。樹木医が高所での作業まで請け負うのは、実は珍しいことだそうだ。

「樹木医は、樹木を科学的知見から診断し、リスクを最小限に抑える対策を提案する仕事。土壌を改良することで不必要な伐採を避けられることもありますが、回復の難しい木や倒木の危険がある木は伐採します。そういった処置からその後の経過観察まで一貫しておこなえる人は多くはないのですが、私たちの会社『HARDWOOD』は、樹木医の専門知識だけでなく、長年の林業経験で培ってきた現場力を併せ持っているので、トータルで手がけられるのが強みなんです」

ロープと専門の道具を使うクライミング技術を取得したことで、木の上からも幹の状態などを見て、より丁寧な診断をすることができるようになった

樹木の診断をするときはまず目で観察し、ときには木槌で叩いたり、専門の機械をつかったりして木の状態を検査する。合格率約20%という難易度の高いこの資格に片岡さんが挑んだのは、第3子の出産直後のことだった。

「大学の生物資源学類で日本林業の社会経済学を学び、国産材の流通を増やしたいという想いから、林業や住宅事業を手がける大手企業に就職しました。でも出産したり歳を重ねたりしたときへの不安があって。家庭を守りながら、ずっと働き続けるためにはどうしたらいいかと考えたら、手に職をつけるべきだと思ったんです。それで都内の樹木医専門の造園会社へ転職しました」

そこで6年の経験を積んだ後、林業仲間であり、樹木医としては同期となる森広志さんをはじめとする仲間たちと、HARDWOODを立ち上げたのだ。

「近年は行政や企業から、森づくりの依頼も増えてきました。地域林政アドバイザーとして、放置林を常識にとらわれず、私たちの視点で利用法を考えたり、環境、防災、教育といった視点から混交林につくり替えたり。森林となると単木とは別の取り組み方にはなりますが、土壌や気候、樹種など、樹木医としての知見が役に立っています」

また、ロープをつかって高木や巨木に登って伐採する「ロープワーク」の高い技術を持っているのもHARDWOODの特徴。クレーンやレッカーといった重機が入れないような急斜面や住宅地でも、安全に高木や巨木を伐採できる特殊伐採技術だ。

ロープワークは滑車の原理を利用したテクニック。重りのついた糸を見定めた枝に放り投げ、それをとっかかりに特殊器具をつけたロープを登る

「ロープワークは、欧米で樹木のスペシャリストとして認知されているアーボリスト(樹護士)のテクニックです。こういう新しい技術を取り入れることで、林業×樹木医の仕事がより充実するようになりますし、作業量や質に見合う適正な収入を得られるようにもなる。いまは採算性が悪いとされている林業の可能性が、ぐんと広がると感じています」

10m以上もの大木の上で、落枝のリスクを未然に防ぐため、大枝を主幹にロープでつないでいるところ。スタッフの中尾宗善さんは富山で林業に就いていたが、「木を伐って売るよりも、いまある木を生かす仕事をしたい」と転職。現在は樹木医やアーボリストの修業中

そもそも造園や林業は、男性主体の旧体制が残りがちな業界。片岡さんも、女性であることによって悔しい思いを何度もしてきた。

「責任者だと認識してもらえなかったり、チェーンソーのエンジンをかけるにもパワーが足りなかったり。男性より体力面で劣るのは事実で、現場は危険度が高いので荒い言葉をかけられることもあります。でも機械や道具は進化しているし、森林の測量や植生調査、作業計画の立案など、力がなくてもできる森の仕事もたくさんある。やり方次第で、老若男女かかわらず、活躍できると思います」

地中に水圧で肥料を施しているのは、2024年に入社した荒川一輝さん。大学で森林生態学を学び、大学院在学中に樹木医の資格を取得した

片岡さんたちが目指しているのは、すべての樹木に関わることができるプロ集団。

「樹木医は、人と植物をつなぐ仕事だと思っています。ご神木のような荘厳な巨木を支えられることも、何十年も先をイメージしながらの森づくりもやりがいがあります。私たちが働く姿を通じて、樹木医の価値や楽しさが多くの人に伝わり、関心をもってもらえたらうれしい。山林でも街なかでも、樹木が人にもたらす影響や存在は尊いもの。樹木医として、樹木と人が共存する未来のために貢献していけたらいいなと思っています」

PROFILE◆片岡日出美(かたおか・ひでみ):筑波大学で日本林業の社会経済学を専攻し、卒業後は住友林業に就職。木材の流通業務に従事した後、都内の樹木医専門会社に転職。2020年4月HARDWOOD株式会社を立ち上げ、取締役に就任。2022年茨城県森林審議会委員、自然環境保全審議会委員に就任。

●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。

Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Shiori Fujii Composition:林愛子

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