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単身移住し「木の素材屋」に転職した元スタイリストがはじめた「新しい山暮らし」
単身移住し「木の素材屋」に転職した元スタイリストがはじめた「新しい山暮らし」
NATURE

単身移住し「木の素材屋」に転職した元スタイリストがはじめた「新しい山暮らし」

日本の森林率は、現在約67%ですが、適切な整備がなされないまま放置されている森がたくさんあります。このことは植物、昆虫、動物の生態系に関わり、私たちの暮らしにも多くの影響を及ぼします。木が育つのは何十年、森が育つのは何百年もかかるといわれます。日々、森を歩き、木に触れることで見えてきたこと、そして未来について、木と森に関わるスペシャリストに話を伺います。今回は、元スタイリストの岡部文彦さんを訪ねました。

単身移住し飛び込んだ、広葉樹林業の奥深い世界

長年ファッションスタイリストとして活躍してきた岡部文彦さん。4年前に岩手県の岩泉町に移住した彼は、林業の見習いを経て“木の素材屋”となった。持ち前の感性を生かして広葉樹の豊かさを世に伝えながら、健やかな里山を守ろうと奮闘する彼を訪ねた。

「午前は管理を手伝っている山で間伐や枝切りをして、午後には作業場で木材の加工をするのがだいたいの一日の流れ。移住当初は思う存分大好きな渓流釣りをしようと意気込んでいましたが、山の仕事が充実していて他のことをする時間はあまりないですね(笑)」

岡部さんが管理を手伝うのは広さ10haほどの広葉樹林。チェーンソーで木を伐ること自体、移住してから習得したもの。ゼロからの挑戦だった

岡部さんが暮らす岩手県の岩泉町は、北上高地の東部に位置し、深い森と岩山に囲まれた山間の町。2020年に単身移住し、かねて思い描いていた山暮らしを始めた。

「いつかは自然豊かな故郷の岩手で暮らしたいなと。生まれ育った小岩井もいいですが、市街地化されていて東京と変わらない暮らしになりそう。せっかくなら今までとは真逆の極端な環境に身を置きたかったんです」

移住を考え始めたのと時を同じくして見つけたのは、岩泉町が地域おこし協力隊として広葉樹林業の担い手を探しているとの情報。林業は未経験だったが、岩泉の自然の豊かさと“広葉樹林業”に心惹かれ、移住を決めた。

自宅の庭にも丸太がずらり。庭を囲う石垣も地道に自らしつらえ、暮らしを整えてきた

「勉強していく中で、今国内で林業として成り立つ森の多くが針葉樹の人工林だと知りました。広葉樹林業が成り立つ地域は稀。天邪鬼な自分はそこにグッときた(笑)。さらにスギやヒノキなど樹種が限られる針葉樹に対して、広葉樹は樹種に多様性がある。家具などに活用されることも多く、漠然とファッションの知見を生かすこともできそうだなと」

協力隊としての3年間の中では、林業会社での研修も経験。実際に山に入って汗を流し、林業の実情を身をもって体感した。

「林業会社がとるのは皆伐という方法。一帯の木々を伐採し、一旦禿げ山にする。それにより萌芽の成長を促し、森を更新していくんですが、重機を入れる作業道確保のために山を切り崩すこともあるこの方法が、僕にはいいとは思えなかったんです。もちろん一つの方法ですが、適正に間伐を重ねながら維持するほうが健やかに思えた。自分が携わるなら、小規模に森を管理する自伐型林業かなと」

さらに林業には“稼げない”こともついてまわる。危険な仕事でありながら、伐採された木がうまく活用されないがために、十分な報酬が得られないとの率直な気づきもあった。

「伐った木を木材にするまでには、数年間乾燥させる必要があります。薪や、シイタケを栽培する榾木、燃料チップにならすぐに活用できますが、それだけで直近の生活を成り立たせるのは正直厳しい。自分の収入はもちろん、森を維持する人材確保のためにも、広葉樹の価値を高める重要性を痛感しました」

間伐した木は、その場で適切なサイズにカットし運搬。山での作業は、山主と2人体制で進められる

多くの気づきを携えつつ協力隊の任期を終えた岡部さん。岩泉で林業に携わり続ける道を模索する中で辿り着いたのは“木の素材屋”になることだった。今は家具工場の余剰在庫の木材を買い取り、加工して販売。スタイリストとして培った目利き力が生きている。

現在岡部さんが加工・販売している木材は、地元の家具メーカー・純木家具の余剰在庫を買い取ったもの。鉋をかける作業は、自身の作業場のほか、純木家具の工場の機械を借りて行われる

「広葉樹って樹種ごとの表情が豊かで、特に鉋をかけたりサンディングしたりすると、エンジュなら鏡みたいに輝いたり、キハダなら辺材と芯材のコントラストが強まったりと、個性が際立ちます。例えばファッションではウールやシルク、リネンなど、生地で服を選ぶことがあるように、樹種で選ぶ価値観が根づけば、広葉樹の価値も高まるんじゃないかなと。施すのはあくまで素材の味わいを引き出す加工だけ。カッティングボードや小物置きとしてそのまま使ってもいいし、購入者が好きに加工して家具にしてもいい。感度の高い人たちに刺さるのではと感じています」

岡部さんが自ら加工した木材。上から順にケヤキ、キハダ、ヤマグワ、トチの瘤。いずれも必要以上に手を加えず、素材の持ち味を生かすのが流儀

現在は自身のウェブショップのほか、東京のセレクトショップでのポップアップなどで木材をトライアル販売中。いずれは伐木から製材、加工、流通まで一貫して自ら行うのが目標だ。「まだ修業中」と謙遜するが、好奇心のままに地元の職人たちから知恵や技術を吸収する様を見ると、目標達成も遠くなさそう。

「最終的にはやっぱり、豊かな広葉樹林を守っていきたい。今僕に木や森のことを教えてくれる地元のじいちゃんたちみたいに、生き字引のような山守になりたいですね」

PROFILE■岡部文彦(おかべ・ふみひこ):1976年岩手県生まれ。スタイリストとして雑誌などで活躍。並行して刈り上げ集団VALLICANSを結成し、ゲリラガーデニングという都市型園芸活動などユニークな活動を展開。2020年から岩手県岩泉町に移住し林業で樹木を“刈る”活動を開始。ウェブショップ「ホームセンターバリカンズ」も運営。

●情報は、FRaU2024年8月号発売時点のものです。

Photo:Akiko Baba Text & Edit:Emi FukushimaComposition:林愛子

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