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理想の牛乳を求めたら見えてきた「これからの畜産のあり方」【前編】
理想の牛乳を求めたら見えてきた「これからの畜産のあり方」【前編】
LIFE STYLE

理想の牛乳を求めたら見えてきた「これからの畜産のあり方」【前編】

気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、はじまっているさまざまな取り組みに注目。今回は、環境再生型な放牧を実践する人たちに会いに行ってきました。

大人気の菓子「チーズワンダー」は
放牧酪農の牛乳と平飼い卵でできている

牛たちは牧草地でのびのびと暮らす

牛のゲップに含まれるメタンガスなどが地球温暖化の一因になっている。そんな話を耳にした人も多いだろう。近年、気候変動への危機感が高まるにつれて、肉や乳製品を食べないライフスタイルへの注目が集まり、植物性代替肉の開発も進んでいる。けれど、畜産業は本当に悪者なのか。畜産を完全にやめるということが正解なのか。0か100かの議論では、こぼれ落ちてしまう問題が出てくるはずだ。そんななか、リジェネラティブ(環境再生型)な放牧を実践し、新しい酪農と畜産業のあり方を模索する人たちがいる。

北海道を拠点にするユートピアアグリカルチャーは、放牧による乳卵製品と菓子の製造・販売を行う会社。菓子製造会社が自ら原料の牛乳や卵を生産するというだけでも珍しいが、それを“環境を再生しながら”おこなっているというから驚く。

放牧牛乳と平飼い卵を原料にした「チーズワンダー」は入手困難になるほどの人気

ちなみに同社のシグネチャー商品であるチーズワンダーは、注文が絶えない人気商品だ。なぜ、いち菓子製造会社がこんな挑戦を始め、多くの支持を集めているのか。すべての始まりは、「とにかく、おいしいお菓子をつくりたい」という率直で強い想いだった。

代表を務める長沼真太郎さんは北海道の老舗洋菓子店「きのとや」の創業家に生まれた。子どもの頃から菓子には強い思い入れがあり、自身も菓子製造・販売の道に進んだ。2013年に立ち上げた焼き立てチーズタルト専門店「BAKE」は大ヒット。その後も数々の人気スイーツを生み出し、国内外に100店舗以上を構える成功を収めたが、「どうしたらもっとおいしいお菓子をつくれるか?」という探究心は枯れることはなかった。

ユートピアアグリカルチャーの菓子につかう牛乳を、放牧酪農で生産する工藤悟さん。牧草地に牛たちを放し、朝と夕方の2回搾乳する

「料理でもお菓子でも、やっぱり原料が命。お菓子でいえば牛乳と卵です。日本各地のさまざまな牛乳を試していたのですが、その過程で出合ったのがグラスフェッド・ミルク、放牧で育った牛が出す乳でした。青草を食べた牛の生乳はビタミンやカロチンが豊富で風味がよくなります。そのまま飲むと違いがわかりづらいかもしれませんが、加工すると顕著になる。春夏は青草を思わせるさわやかさと軽やかさがあり、秋冬には濃厚になる。季節ごとに風味が変わるのも面白くて」

自分の菓子にも放牧牛乳をつかいたい。さっそく大手の牛乳卸売メーカーに掛け合ったが、いい返事はもらえなかった。

養鶏家の向井拓朗さん。菓子製造の過程で出た規格外のクッキーやスポンジの切れ端なども鶏たちの餌に

「日本で放牧酪農をおこなう農家は1%ほど。生産量が圧倒的に少ないですし、季節によって風味が変わるため品質の安定性を約束できない。メーカーの立場を考えれば現実的にムリだということは理解できました。ならば自分で理想の牛乳をつくったらいいのでは? それで放牧酪農と、もうひとつお菓子づくりに欠かせない卵も、鶏にストレスを与えづらい平飼い養鶏でつくることにしたんです」

▼後編につづく

ユートピアアグリカルチャー

「22世紀に続く酪農とお菓子の環境づくり」をコンセプトに放牧酪農による牛乳や、平飼い養鶏による卵を使って菓子製造をおこなう。平飼い卵と放牧牛乳&飲むヨーグルト、リジェネラティブ・アグリカルチャーに関する記事と活動報告を掲載した冊子が届く定期便「GRAZE GATHERING」も展開中。

●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Moe Kurita Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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