エネルギーこそ地産地消で!用水路を生かした「小水力発電」
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、はじまっている取り組みに注目。今回は、用水路を生かした地産地消のエネルギーを紹介します。
大規模な開発をしなくても
あるもので電気は生み出せる
青々とした稲がなびく田んぼと、澄んだ水が流れる一級河川の薄根川。群馬県北部にある川場村は人口約3000人の集落。今回訪れた川場湯原と呼ばれる一帯は、村の最奥に位置し、人と自然との距離がいっそう近い。
そんな地域に再生可能エネルギーの分野で注目を集める、最新の小水力発電機があるという。訪ねてみると、田んぼの用水路に小さな緑色の装置がさりげなく設置されていた。近づいてもモーター音はせず、聞こえるのは轟々と流れる水の音だけ。本当にここで電気が生まれているのか? そう思うほど、周囲の風景にすっかり溶け込んでいる。
この発電機による出力は、毎秒0.15㎥の水が流れる条件下で500W。用水路は農業用として利用されており、絶え間なく水が流れているので、24時間365日、天候や時間帯に左右されずに電気を生み出せる。年間で期待できる発電量はおよそ4380kWh。これは平均的な一般家庭の年間消費電力量4322kWhとほぼ同じだ。
「これからの時代に求められるのは、地産地消のエネルギーだと思うんです」
そう話すのは、この小水力発電機を開発した「協和コンサルタンツ」の左村公さん。各地で小水力発電を軸に地域活性化を支援。この発電機も村役場や村の有志、研究をともにする大学と産官学で実験的に導入したものだ。“地産地消”といえば野菜などを思い浮かべるかもしれないが、エネルギーもつくる場所と使う場所の距離を縮めることで、配電による電力ロスを最小限にできる。日本の送配電ロス率は約5%。世界的にも優秀だが、それでも年間458億kWhが失われている。
また、地域で生まれた電力をその土地らしく活用できれば、再エネを資源に地方を盛り上げられる。さまざまな自治体が小水力発電機に興味を示しているのは、これまで見過ごされてきた用水路などの未利用包蔵水力に多様な可能性を感じているからだ。
水力発電は最も歴史のある再エネ
いまも進化を続けている
ここで水力発電の仕組みをおさらいしておこう。水力発電とは、水の落ちる力でタービンを回転させて発電する方法。再エネの中で最も古い歴史を持ち、日本では明治時代から主要な発電方法として利用されてきた。
水力発電は発電量によっておおむね3つに区分される。厳密な定義はないが、ダムなど10万kW以上の発電ができるものを大水力発電。1万kW以上~10万kW未満が中水力発電。それ以下を小水力発電とし、1000kW未満をマイクロ水力発電と呼ぶこともある。
「水力発電に必要なのは落差。以前は、小水力といってもそれなりの落差が必要でしたが、研究を重ね、落差1mでも十分な発電ができるようになりました」と左村さん。
落差1mならば用水路の段差をそのまま活用できる。つまり大規模な工事が不要で、風景が一変することもない。この発電機の場合はわずか2時間で設置が完了した。
「これは、効率よく発電するために採用した相反転方式という機構のおかげでもあります。この機構によって回転方向に発生する力が相殺されるので、強固な設置がいらなくなった。こうした仕組みで、導入のハードルをさらに下げていけたらと思っています」
ここで生まれた電気は田んぼ脇のビニールハウスで照明や温水ボイラーにつかっている。管理するのは「合同会社ユビト」。川場村の村議会議員も務める星野孝之さんの会社だ。
「川場村には大正時代に小水力発電で村の電気をまかなっていた歴史もあるんです。いまはまだ小さな挑戦ですが、長期的な視点を持って続けていくことが大切」と星野さん。川場村には村外の人を受け入れ、新たなことにチャレンジする気風があるそうで、星野さんも地域おこし協力隊を募集。その募集を見て大阪から移住してきたのが鳥羽さん夫妻だ。ファッション業界から転身、星野さんの運営するゲストハウス「ゆびとや」で働きながら、川場村の魅力を伝えるとともに、小水力発電の可能性を発信している。
「ゆびとやはビニールハウスの隣の敷地にあるので、希望する宿泊者には小水力発電を見学してもらっているんです。喜ぶのは子ども。最近は学校でもSDGsを学びますし、実際に見て、再エネを身近に感じてくれたらうれしい」と鳥羽雄さん。左村さんも「未来のエネルギーを変えるには、子どもの意識から変えていくことが大切」と頷く。ゲストハウスでは今後さらに小水力発電機を増やし、施設の電力を賄う計画もあるそう。実現すれば再エネを“つかって実感”できる宿になる。
小さな発電機が変える
電気をつかうことへの意識
小水力発電から生まれる電力は決して大きくはない。だが、あるものを生かして発電する方法は、多くの気づきを与えてくれる。地方の資源を都会で搾取せず、その土地に返していくことの重要性や、日々進化する再エネについて知識を更新することの大切さ。つかい放題だった電気への意識も変えてくれるだろう。野菜の地産地消はここ数年で一気に広まり、大手スーパーにも地場野菜が並ぶようになった。電力の地産地消が当たり前になる日も、きっと遠くない。
ゲストハウス「ゆびとや」
群馬県利根郡川場村川場湯原1264
☎0278-25-3090
https://yubitoya.localinfo.jp/
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Kiyoko Eto Text & Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子