オスロで「サウナ」が爆発的ブーム! 海に浮かぶサウナビレッジと“国民的ブランド”でノルウェー文化を感じる【第4回】
夏はフィヨルド(入り江)がまぶしく、冬はオーロラが輝くノルウェー。今回はスカンジナビア航空でデンマークのコペンハーゲン空港まで12時間、さらに飛ぶこと2時間で到着する首都・オスロを、ライターの矢口あやはさんが訪れました。機内泊も含めて3泊5日の旅。でも、オスロのまちはコンパクトだから十分楽しめます。オスロはまるで未来都市のようでもあり、北欧らしいサステナブルなアイデアやかわいいデザインにあふれるまちであり……。幸福度ランキング上位国で見つけた、私たちの明日を豊かにする幸せのヒント。第4回目は、いまノルウェーじゅうの人が夢中になっているサウナの最新スタイルと、長年人びとに愛されるブランド「ヘリーハンセン」を訪ねます。
フィヨルドにダイブ! 人生を楽しむノルウェー式「浮遊サウナ」

それぞれ異なる建築家の手による9棟が集結。いわば“デザイナーズサウナ”だ
朝食で隣に座ったのは、出張でオスロを訪れていたノルウェーの紳士だった。「いまハマってるものある?」と聞くと、「サウナかな」。いまは国じゅうでサウナが大ブームなんですって。日本もですよと言ったら、「同志だね」と笑顔。
いろんな種類のサウナがフィヨルドに浮かぶというサウナビレッジ「オスロサウナ協会 シュッケルビッテン」を訪ねた。

案内人のラグナさん。後ろの海パン紳士は海から上がってきて、再びサウナに入っていった
「私たちの先祖たち、つまりバイキングの時代からサウナはあったんだけど、キリスト教が入ってきて廃(すた)れてしまいました。でも少しずつ復活してきて、近年は爆発的に増えているんです」と運営元であるオスロサウナ協会事務総長のラグナ・マリー・フェルドさん。
「人気の理由は、寒い時期にポカポカと体を温められること。そして、春夏秋冬いつでも自然の中で遊べること。同時に、人と人をつなぐ大切な社交場でもあるんですよ。一人暮らしの人でも、ここに来ればみんなとの交流が楽しめますから」
最新のサウナ設備があるという「トロステン」を見せてもらった。SNSで見た写真と向きが違う……と思ったら、「これ、海上に浮いているから船のように自由に動かせるのよ〜」。つまり、その気になればサウナ建築たちの席替え(?)も可能なのだ。楽しい!

2024年に完成したばかりの「トロステン」。オスロ初のバリアフリーサウナだ
ちなみに、ムンク美術館の設計を手がけたアーティストの作であるトロステンは、建設が始まると“ムンクの赤ちゃん”と呼ばれ、みんなにあたたかく成長を見守られていたのだそう。いまではすっかり立派になってにぎわっている。

木の香りが濃くて心地いいサウナ内。明るい日差しが差し込んで、森林浴をしているみたいだ
このサウナのすごいところは、特殊な換気システムによってどこでも一定の温度が保たれるところ。だから、車椅子に座ったままでも、どこにいてもホカホカだ。建築自体も自然素材とリサイクル素材で構成され、環境に負荷をかけない。これぞ未来のサウナの姿かもしれない。

「最近のサウナには、断熱性の高いガラス素材の開発によって大きな窓をつけられるようになった」とラグナさん。外にいるような開放感が心地いい
意外なことに、サウナの入り方にもお国柄が出るらしい。フィンランドでは禅のように静かに入るのがポピュラーだけれど、ノルウェーはみんなでキャッキャと楽しむ“イベントサウナ”が人気とか。会社帰りに、「飲みに行こ!」の感覚で「サウナ行こ!」。同僚や仲間との親交を深める手段にもなっているんですって。
「あちち!」と言いながらサウナから出てきた人たちは、次々に海中へドボン。ずっと美しいままであってほしいと、ただの旅行者の私までもが願ってしまう澄んだフィヨルドがどこまでも広がっている。

この日の水温は10℃。かなり冷たいはずだけど、サウナを出てすぐ波間に飛びこんだおふたり曰く「サイコー!」。サウナの前をカヤックの一団が通りかかり、ひらひらと手を振ってくれた
このサウナビレッジの滞在料金は90分で160クローネ(約2000円)。9種類ものサウナがあって、この美しい自然と建築と人のぬくもりを味わえるなら、銭湯がわりに通ってしまいそう。オスロの人がうらやましい!
「悪い天気はない、悪い服があるだけ」国民的ブランドのものづくり
国土の面積は日本とほぼ同じであるノルウェー。しかし、その約8割は山と森、川、湖で、北半分は北極圏。夏はフィヨルドが、冬はオーロラの輝く美しくも過酷な土地だ。そんな大自然のふところで暮らす彼らにとって、ポカポカと快適に過ごすためにはよい服が欠かせない。

オスロ市内にある「ヘリーハンセン」旗艦店。夏用のアウトドアウェアが並ぶ
そんなノルウェー人の国民服となっているブランドのひとつが「ヘリーハンセン」。世界45ヵ国に展開するスポーツアパレルメーカーだ。
「短い夏が終わって秋の足音が聞こえてきたら、ヘリーハンセンの服を出して冬支度をするの。寒くなったら毎日着る。冬のオスロはヘリーのウェアで来れば一瞬で現地人になれるよ」とオスロの人。
「今日は夏日だから街なかではあまり見かけないけど、港ならみんな着てると思う」とのアドバイスに従って「アーケルブリッゲ・マリーナ」を訪ねてみると……事実でした。みんな着てる!

ヨットでパーティ中だったセーラーの胸元や袖にもHHのロゴ。日本でもマリンウェアとして知られる
ヘリーハンセンのブランド起源も海だった。1877年、ノルウェーの商船隊の船長だったヘリー・ジュエル・ハンセンが、厳寒の海で魚をとる漁師のために防水コートを開発したのがはじまりだ。

オスロ市内にある本社を訪ねた
現場で働く人が暖かく快適に過ごせるようにつくったこのウェアが大ヒットし、その後はスポーツウェアの分野へと進出。ノルウェーを代表するブランドへと成長を遂げた。
「ノルウェーには『Det finnes ikke dårlig vær, bare dårlige klær(悪い天気はない、悪い服装があるだけ)』ということわざがあるんです。私たちがもっとも大切にしてきたのは、“信頼できる服”をつくること。すべてのディテールに意味があり、実用性と美しさを兼ね備える製品づくりを目指してきました」と、オスロ本社の最高製品責任者、トア・イェンセンさんは語る。

ブランドの持つ思いを語るトアさん。本社には140年の歴史のなかでエポックメイキングなできごとが展示されている
機能的な服と一緒なら、どんな天候も“いい天気”に変えられる。そんな文化のなかで育まれたヘリーハンセンは、これまでも幾度となく新たな技術開発で世界を驚かせてきた。
近年も、薬剤をつかわずに半永久的に撥水性・疎水性を保ちつつ、従来品よりはるかに軽いという画期的な素材の開発に成功。「LIFA INFINITY PRO™」の名でアウトドア業界に衝撃を与えている。世界に先駆けて新素材を次々とリリースできるのはなぜなのか。
「私たちの信念は、過酷な環境で活動するプロに信頼される最高の基準を満たしたウェアをつくること。そのために、海や山を舞台に活動するプロフェッショナルとパートナーシップを結び、製品の共同開発をおこなっているのです」
このプロフェッショナルとは、セーリングやトレッキングなどに携わるスポーツ選手、そして山岳救助隊や海上警備隊といった働く人びとを指す。彼らから寄せられた知見やニーズを開発に活かし、新たな製品が生まれ、既存品もますます丈夫に、快適に進化していく。
「私たちが高機能で頑丈な製品をつくれば、お客さまも手入れをしながら長く着られます。これこそが廃棄物を減らし、環境への配慮にもつながると考えています」

本社にあるワークウェアの展示ルーム。ワーカーにはボトムスがとくに人気だそう

マタニティ用のワークウェア(左)やキッズ用ウェアの開発も活発
このブランドは大きな宣伝も打たず、自分のことを声高(こわだか)に言わない。その謙虚なところはちょっと日本に似ている。ただ、「どんなに過酷な環境でも絶対に守るからね!」とウェアそのものが語る。「暖かくて動きやすいから気に入ってるよ」とユーザーが着心地を語る。一番信頼できるPRかもしれない。
安心して命を預け、生きる喜びを実感できる。そんなウェアを目指して、高みに挑み続けるヘリーハンセンのスピリットが好きだ。

“オスロの銀座”カールヨハン通りに面した一等地に佇む旗艦店。売れ筋No.1は「クルーフーデッドジャケット」。内部がフリース素材だったり、折りたたみフードがついていたりと機能的

女性用コーナー。すべてノルウェーのオリジナルで、一部にはジャパンなどの企画からインスパイアされたデザインも並ぶ
オスロ中央駅の正面にある旗艦店で、キャップとロングシャツを買った。日本に帰ったいま、袖をとおすたびに「今日もいい仕事をしよう!」と服が言う。苦しいときは「根性を見せるならいまだよ」と背中を押してくれるし、何かを不満に思うと「自分の快適さは自分でつくる!」と喝を入れてくれる。
ブランドの哲学を愛し、買った一着を大切にケアしながら長く着つづけること。それは、サステナブルなだけでなく、豊かな時間そのものだ。そんな幸せな消費の形があることを、このブランドは教えてくれる。
Photo & Text:矢口あやは
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