ノルウェーの“未来都市”オスロの伝統文化は「コーヒー」と「セカンドハンド」だった!【第2回】
夏はフィヨルド(入り江)がまぶしく、冬はオーロラが輝くノルウェー。今回はスカンジナビア航空でデンマークのコペンハーゲン空港まで12時間、さらに飛ぶこと2時間で到着する首都・オスロを、ライターの矢口あやはさんが訪れました。機内泊も含めて3泊5日の旅。でも、オスロのまちはコンパクトだから十分楽しめます。オスロはまるで未来都市のようでもあり、北欧らしいサステナブルなアイデアやかわいいデザインにあふれるまちであり……。幸福度ランキング上位国で見つけた、私たちの明日を豊かにする幸せのヒント。第2回目は、オスロっ子たちがこよなく愛するコーヒーと、古着など中古品文化に迫ります。
コーヒー観が変わる一杯 オスロっ子が愛する“浅煎り”の秘密

国立美術館から徒歩1分のコーヒー&カクテルバー「フグレン」。フグレンとはノルウェー語でアジサシのこと。この渡り鳥の赤いロゴが目印
「オスロといえば何でしょう? コーヒーだよ!」
そう現地の人に聞くまでは知らなかった。実はオスロっ子は大のコーヒー党で、世界有数の消費国。彼らとコーヒー豆のつき合いの歴史は長く、18世紀にまで遡る。かつてバイキングが跋扈(ばっこ)した海洋国家ノルウェーは、タラの塩漬けをブラジルまで輸出し、帰り道には上等なアラビカコーヒーを積んでいたのだそう。
先祖代々コーヒーにうるさい地元の皆さんに「どこがおいしいかな?」と聞いてみると、必ず名前が挙がるのが「フグレン」。いわく、「味がよくて、価格もお手頃」「外国人が飲んだらコーヒー観が変わると思う」「インテリアもかわいいから、つい入り浸っちゃう」「おばあちゃんちみたいで落ち着くよ」。
つまり、おいしいものと北欧のヴィンテージ家具を一度に味わえるってこと? さっそく本店を訪ねた。

1963年創業のフグレン。店内には当時の年代を映したインテリアがそろう
「北欧のコーヒーは高温、短時間でさっと“浅煎り”に焙煎するのが主流で、これはノルディックローストと呼ばれます。浅煎りにすると、フルーティーな甘さや、さわやかな酸味など、豆ごとの個性がより引き立つんです」
こう教えてくれたのはフグレンのスタッフ、ホルタ詠美子さん。日本からオスロに移住して13年になるそう。

レジ横には甘い香りのパンやドーナツが山と積まれる。ジャパニーズ“おにぎり”もあったけど、すぐに売り切れてしまった
「地元のお客さまは、朝ならエスプレッソをショットで飲む人が多いですね。みんな豆のプロフィールに興味しんしん。真剣に自分だけの“好き”を追求されています」(ホルタさん)
シンプルなブラックコーヒーを注文すると、ハンドドリップで丁寧に淹れてくれる。その湯気からはベリーの香り。ひと口いただくと、キャラメルのような、バターのような甘味まであって……これ、本当にコーヒー?
「新鮮で品質のいい豆を浅煎りにするからこそ味わえる、ぜいたくな風味なんですよ」(ホルタさん)

北欧の人気作家たちのヴィンテージ家具&食器が飾られている一角。実は、これらはすべて売り物
フグレンはセレクトショップでもあって、店内のインテリアで気に入ったものはユーズド価格で買える。「ねえ、これいくら?」とスタッフに声をかけるお客さんの姿も。年代物の椅子が気に入ったみたいだ。
「ノルウェーは物価が高いので、外食よりも宅飲みが主流。家の中にいる時間が多くて、お友だちを呼んでディナーを食べることもしょっちゅうだから、みんな素敵なインテリアに目がないんです」(ホルタさん)

「ここのコーヒーもインテリアも同僚も純粋に大好き!」と笑うスタッフのアンドレアさん(右)、ホルタさんと仲よくパチリ
店は奥行きがあって、座り心地のいいソファに沈んで編み物をしているおばあちゃん、カウンターでパソコンとノートを広げて作業をしている学生、テーブル席でZoom会議をしているらしいスーツのビジネスマンの姿も。これがフグレン本店の日常。
「自宅のリビングのようにつかっていただくのが一番フグレンらしい過ごし方かもしれませんね」とほほえむホルタさん。ちなみに、フグレンは東京や福岡にも進出している。ノルディックローストが気になったら、ぜひ足を運んでみてほしい。 さて、浅煎りの魅力に開眼したら、とたんにカフェめぐりが楽しくなる。もう一軒、地元の人にも観光客にも人気という有名店に行ってみよう。デザイナーたちが住まう、おしゃれなグリューネルロッカ地域にある「ティム・ウェンデルボー」だ。

バリスタの世界チャンピオンによるカフェ。コーヒーはエアロプレスで抽出され、豆の種類も選べる

アイスコーヒーはワイングラスで登場。浅煎りで薄く見えるが、濃厚。外で飲むと最高においしい
ひと口飲んで驚いた。同じ浅煎りだけれど、フグレンとは印象が違う。苦味がなく、しっかりと濃厚なのに、口当たりはさわやかでほんのり甘い……もはやこれはフレッシュジュースだ。ふと、コーヒーの実が果物だったことを思い出す。砂糖もミルクも何もいらない。まさにワイングラスでいただくのにふさわしい、ゴージャスで幸福な味わいだった。
古着ストリートを歩く 北欧風おしゃれの流儀

グリューネルロッカにあるアパレル&カフェ「ダッパーオスロ」
セレクトショップ、古着屋、量り売り店、コーヒー豆の焙煎所…。かわいい店がこれでもかと立ち並ぶまち「グリューネルロッカ」。アーティストや芸大生たちが好んで住まうそうで、東京でいうと下北沢と代官山を足して2で割ったようなおしゃれエリアだ。

「ダッパーオスロ」店内には試着に夢中らしい誰かの靴が落ちていた。自由すぎる!
「ノルウェーは物価が高いから、みんな上手に中古品を利用しているんですよ」と、オスロに暮らして40年になる現地ガイド、チェルナス・克美さん。
そう、オスロに来て一番驚いたのは物価のことかもしれない。150mlのペットボトルの水が約1000円、昼食は3000円。おしなべて日本の約3倍くらい(そして、どっぷりとクレジットカード文化で、小銭を出すと怪訝な顔をされる)。
「日本のように物資が潤沢にあるわけじゃないので、ファッション関連はもちろん、食器やランプなど、ありとあらゆるものが中古として流通していますね。とくに洋服に関しては、住宅地にゴミ箱の一種として古着回収用のボックスがあり、不要になった洋服はそこに入れるのが一般的です」
ムリなく、次に必要な人の手に服が渡るシステムになっているそうだ。いいなぁ。

(キャプ)アンティークショップ「インヴェンタリウム」。ヨーロッパじゅうから集められた家具や毛布、食器などが売られている
目が慣れてくると、オスロ市内でもいろんなところで“セカンドハンド”(中古)のショップを見かけた。聞けば、ジャパニーズの古着店もあって「メイドインジャパンのクオリティが好き」と人気らしい。われらが日本、がんばっている。週末になると、駅や公園でもフリーマーケットが開かれている。

オスロ市内でもっともメジャーなセカンドハンド店は「フレテックス」。古着やアクセサリー、レコード、古本など幅広い品揃えだ

アパレルショップの一角に服の修理工房があった。グリューネルロッカにある「ノーザンプレイグラウンド」にて
選択肢が多いほど豊かだとは限らない。ノルウェーの人は、自分にとって本当に価値があるものが何かをよく知っていて、心から愛せる一品を選ぶ。そして、手に入れたら大切にケアしながら長くつかっていくという。
余談だが、国連による2024年度の「世界幸福度ランキング」では、ノルウェーは7位(日本は51位)だった。毎年10位以内に入る理由としてよく挙がるのは、福祉の充実や男女平等だが、“選ぶ力”に長(た)けていることも幸せにつながりそうだ。
がむしゃらに節約するのでも、環境のためだとガマンするのでもなく、自らが欲しいものを的確に選びとり、長く愛おしむ。その“選ぶ力”こそが、彼らの幸福度につながっているように思えた。
Photo & Text:矢口あやは
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