実は世界一の紅茶好き!? 北ドイツの小さな町「レーア」でユニークな“茶法”を学ぶ
ドイツでは日常的にコーヒーが多く飲まれていますが、北部の東フリースラント地方に限っては、お茶の消費量が圧倒的に多く、1人あたりの年間消費量はなんと約300リットル! ドイツの平均の10倍以上に達しているとか。世界でもっともお茶を愛しているのは、英国でもアイルランドでも中国でもなく、ドイツのあまり目立たない地域だったのです。そんな東フリースラントには、無形文化遺産にも登録されている独自の茶文化が根づいています。そのユニークなお茶の作法を、トラベルライターの鈴木博美さんが体験してきました。
クリームの加え方がポイント!
ドイツ北西部の港町ブレーメンから鉄道で東へ。1時間30分ほどすると、レーアという小さな街に到着する。狭い石畳の道に沿って立ち並ぶ赤レンガと急勾配の切妻屋根の家々は、17〜19世紀にかけて建てられた歴史的に貴重なもの。家の正面の意匠にもそれぞれ工夫がこらされていて、訪れる人の目を楽しませるとともに、この地域がいかに豊かだったかを物語っている。
レーアはオランダとの国境まで車で30分ほど。両国間で人や物資の移動が古くから盛んだったことから、ドイツの他の観光地とはひと味違う、独特の景観や文化が息づいている。言語においても、北海沿岸のフリースラントでつかわれる「フリジア語」を話す地域でもある。
街にはレーアの歴史を学べる博物館がいくつかある。そのひとつ「ビュンティング ティーミュージアム」は、紅茶の歴史と文化に焦点を当てたユニークな博物館。この地域の茶文化の歴史とともに、伝統的な家具などを展示していて、東フリースラント地方の人びとが営んできた生活に触れられる。
この博物館はその名のとおり、1806年に創業された東フリースラント地方でもっとも有名な紅茶メーカー「ビュンティング(Bünting)」が設立した。同社はこの地方の人々が愛する濃いブレンド茶を提供し続け、いまやドイツ全土で広く知られている。博物館では、茶葉のテイスティングや栽培、摘み取り、発酵、乾燥、包装に至るまでの全工程を学べるセミナーなどが開催されている(有料)。
「お茶はシルクロード経由でヨーロッパに伝わってきましたが、一般に広まったのは、17世紀初頭にオランダ東インド会社の商人が海路で大量に運ぶようになってから。オランダに隣接する東フリースラントでは、どこよりも早くお茶が手に入ったのです」(ビュンティング紅茶博物館・責任者のヘニング・プリエットさん)
伝統のおもてなし、ティータイムに欠かせないのが氷砂糖とクリーム。まずティーカップに氷砂糖を入れてから、アッサムがベースの濃い紅茶を注ぎ入れ、最後にクリームをそっと加えるのがお作法。そして、紅茶を注いだ後に氷砂糖が立てるパチパチという音を聞く。なんてことのないこの音、実は非常に重要で、紅茶が飲みごろになった合図なのだ。次に、小さなスプーンでカップの上にクリームをそっと浮かべ、それがカップのなかで雲のように広がるようすを見て楽しむ。
ひと口目は濃厚なクリームの味を楽しみ、ふた口目からは濃い紅茶の味を堪能。最後のひと口は、氷砂糖の甘い香りとともに味わい尽くす。この3つの段階を踏むため、決してスプーンでかき混ぜてはいけない。地元の人は一度に少なくとも3杯は飲み、3つの味を繰り返し堪能する。空のカップの上にスプーンが置かれるまで、もてなし側はお茶を注ぎ続けるのがマナー。この方法で飲んでみたところ、3段階の味の変化がとても楽しい。時間をかけていただくから、ゆったりリラックスもでき、とても幸せな気持ちになってくる。
美しいカップに注がれた紅茶。このクリームは、漂う雲のよう見えることから、フリジア語で雲を意味する「ヴルクジェ」と呼ばれる
自宅で挑戦するなら、水1リットルに対して、手に入りやすいアッサムの茶葉を10g入れるのがオススメ。ポットに半量の熱湯を注ぎ、3分ほど蒸らしてから残りの湯を注ぐ。氷砂糖がゆっくり溶け出すように、砂糖に当てないように注ぐのがポイントだ。クリーム(脂肪分30%のものが理想)は、反時計回りに注ぐ。「時間を止める」という意味が込められているので、くれぐれも割愛はしないこと。
ティーセレモニーは、東フリースラント地方の人々にとって特別な時間。お茶の作法には日本の「茶道」、中国の「茶芸」などがあるが、レーアでもお茶を通じて、人びとは絆を深め合っててきた。濃い紅茶、氷砂糖、クリームの3つがそろった紅茶を、ホストとゲストが共有することが、この地域の伝統文化なのだ。
協力:ドイツ観光局 Text:鈴木博美
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