映画評論家・真魚八重子「“働く”を考えさせられるムービー」
常識にとらわれない自由な働き方を知り、仕事の裏側に隠れた問題と向き合う。働くこと、仕事のことを考える映画とドラマを、映画文筆家の真魚八重子さんに聞きました。
ヘイトもまとめて退治したい
『ゴーストバスターズ』
ポール・フェイグ監督作(アメリカ/2016年)
年代大ヒットコメディのリブート作品。気のおけない仲間たちと試行錯誤しながら起業する楽しさを描く一方、メインキャストを男性から女性に変更したことによりネット上では批判が殺到。「たいして美人でもない女性だけのチームは受け入れがたい」というルッキズムやミソジニーに基づく許されない差別発言が多く向けられた。女性主導で仕事を進めると、こうも男性の神経を逆撫でするのかと絶望したし、変えていかなければならないと映画の外での騒動から思わされた。
天才といわれる人の孤独
『女神の見えざる手』
ジョン・マッデン監督作(アメリカ/2016年)
腕利きの女性ロビイストが銃規制の足がかりとなる法案を通すため全米ライフル協会をむこうに回して奮闘する。入念なリサーチから先の先を見越し、逆転の策を用意する彼女は、あまりに賢すぎて味方すら置いていってしまう天才肌。それだけに敵も多く、孤独と背中合わせの戦いは観ているこちらが辛くなるほど。世間に流布する女性への間違った先入観を利用したストーリー展開には、女性である私自身も大いに惑わされ、あらためてそういった偏見が内在することに気づかされた。
他人事ではない貧困問題
『ロゼッタ』
リュック=ピエール・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督作(ベルギー=フランス/1999年)
酒浸りの母親とキャンプ場のトレーラーハウスで暮らす、10代とおぼしき少女ロゼッタ。通学もままならず、ときには拙い仕掛けで捕獲した池の魚を食料にする厳しい日々を送る。住所不定や若年など就職に不利な条件が揃う彼女は、仕方なく顔見知りの人物を陥れて仕事に就こうと画策するが、その不誠実なおこないをきっかけに己の気を病んでしまう。約20年前の作品だが、シングルマザーの就労実態をはじめ、日本における貧困問題を知るにつけて、他人事ではないと実感する。
学んで成長する仕事の仕方とは
『プラダを着た悪魔』
デヴィッド・フランケル監督作(アメリカ/2006年)
何者でもない若者が才能を開花させ、次第にステップアップするさまを描くことで、痛快な気持ちにさせてくれるのがお仕事映画の大きな魅力。主人公はもともとジャーナリスト志望で、洋服には人並みの関心しか持たない。それがファッション誌に配属され、業界随一の手腕を持つ上司と教え/学ぶ関係を築いたとたん、水を得た魚のように躍動し始める。「求められるものをいち早く察知し、頭を働かせて準備する」という、あらゆる業種に共通する新人の仕事の秘訣がここに。
PROFILE
真魚八重子 まな・やえこ
映画文筆業。最新刊に『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(ele-king books)。他に『映画なしでは生きられない』(洋泉社)などがある。
●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Illustration:Naomi Nose Text:Tokyofumi Makino , Mick Nomura , Satetsu Takeda , Iku Okada Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子
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