都心のベランダでも楽しめる!生ごみを堆肥に変えるコンポストは「ペットみたい」
エネルギーも資源も、ぐるぐると巡ることで、新しい輝きが生まれる。それは家の中もきっと同じ。循環がある住まいには新鮮な空気が流れています。消費だけではない生活のヒントを、フリーライター・雨宮みずほさんの暮らしから学びました。マンションの4階でベランダ菜園とコンポストを楽しむ雨宮さん。日々の生ごみが堆肥に変わり、都会の真ん中で循環が生まれています。
コンポストが生む循環。
暮らしのなかで命を学ぶ
ベランダの段ボールを開くと、ふわりと堆肥のいい香りがした。手のひらを近づけると、ほんのり温かい。微生物が生ごみを分解するときにガスや熱を生むのだそうだ。
「毎日、フタを開けるのが楽しみなんです。冬の寒い朝は湯気が立つこともあるんですよ」とフリーライターの雨宮みずほさん。
区民農園に参加したのをきっかけに野菜づくりに興味を持ち、畑に通わずともできるベランダ菜園をスタート。その流れでコンポストも始め、現在は資格を取得して、コンポストアドバイザーとしても活動している。
「段ボールをつかう場合、ベースとなるのはモミガラくん炭やココピート、ピートモスなどです。ここに生ごみを入れて、毎日かき混ぜるだけで、空気中の微生物の力で分解が進み、やがて堆肥ができあがります。柑橘類の皮を入れると翌日はさわやかな香りがしたり、肉や魚の生ごみを入れると微生物が一気に元気になって、ちょっとガスっぽい匂いがしたり。人間のおならみたいで、かわいいですよ」
ふかふかの土をスコップで混ぜるのは、なんともいえない心地よさ。雨宮さんのコンポスト仲間の多くは、「土を混ぜていると不思議と心が落ち着く」と語るという。
「農耕民族のDNAがそうさせるのかもしれないですよね。私にとっても土を触る時間は癒やし。ただただ無心になれるというか。今日の調子は? と心の中で話しかけたり、ペットみたいだなと思うこともあります(笑)」
2人暮らしの雨宮家では、一日におよそ500gの生ごみが出る。柿の皮は干してぬか床に入れたり、ゆずの種で化粧水を手づくりしたりと、できるだけつかい切るようにしていても、ゼロにするのは難しい。それが、コンポストに入れれば、ぐっと量が減り、おまけに家庭菜園のための堆肥もできあがる。野菜の皮や種、お茶を淹れた後の茶葉、トーストを食べた際のパン屑まで、すべてが新たな命を育むためのエネルギーに変わるのだ。
「生ごみの80%は水分だそう。焼却炉ではそれを、二酸化炭素を出しつつ燃やしているわけで、少しでも減らすことができればと思うんです。それに、生ごみを家で処理できると災害時も安心。震災などでごみ収集車が回れないような事態でも最低限は対応できます」
コンポストを始める理由は人それぞれ。雨宮さんは「半径2mの循環の輪」から、学びを得るのが喜びだという。
「わが家はキッチンの隣にベランダがあって、歩いて数歩の範囲を行き来しながら、料理をしたり、堆肥をつくったり、野菜を育てたりしているんです。花が咲くとミツバチが来るし、堆肥で眠っていた種が思いがけず芽を出すこともある。季節が巡っていることを日々感じて、かつての日本の暮らしにはこんな循環がたくさんあったのだろうなと、思いをはせられます。家の中に多くの発見がある。それがコンポストやベランダ菜園を何年も続けている理由なんだと思います」
PROFILE
雨宮みずほ あまみやみずほ
フリーライターとして日本の手仕事や着物について執筆。NPO法人循環生活研究所コンポストアドバイザーとしても活動する。東京都文京区でコンポストの輪を広げる「千石ちいさな森」プロジェクトを主宰。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Kiyoko Eto Text & Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子