「ごみをなくすと自由になる」翻訳者・服部雄一郎のゼロ・ウェイスト・ライフ
エネルギーも資源も、ぐるぐると巡ることで、新しい輝きが生まれる。それは家の中もきっと同じ。循環がある住まいには新鮮な空気が流れています。消費だけではない生活のヒントを、翻訳者・服部雄一郎さんの暮らしから学びました。長くつかえる道具や自然に還る素材を選び、極力ごみを出さない。服部さんが家族で実践する暮らしには、選択の自由がありました。
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その自由を楽しみたい
「意外としっかり洗えるでしょう?」
キッチンスポンジ代わりのヘチマを手に、楽しげに食器洗いをする服部雄一郎さん。
この日の昼食は青菜をたっぷり刻んだオイルパスタ。妻の麻子さんが、裏の畑で採れた葉野菜で手際よくつくってくれた。オリーブオイルが残ったプレートが、ぬるま湯とヘチマでみるみるキレイになっていく。指を滑らせるとキュキュッと気持ちのよい音。くたくたになるまでつかったヘチマは畑のコンポストへ。
「野菜の皮なんかもザッと土に混ぜて、あとは放ったらかしです」
服部家のごみを極力出さない暮らしは、ルールに縛られたものではないようだ。服部さんの人柄のようにおおらかで、ストイックな空気は感じられない。
そもそも服部さんがごみに関心を持ったのは20年近く前のこと。当時住んでいた神奈川の葉山で町役場に勤めたことがきっかけだ。
「配属先がごみ処理を担当する部署だったんです。大学の専攻は翻訳論で、趣味は芸術鑑賞。だから、正直最初は『ごみかぁ……』と思いました(笑)。でも働くうちに興味が出て、勉強がてら自宅でも分別を徹底してみたんです。同時にコンポストも始めたら、2~3週間たってもごみ箱がいっぱいにならない。ごみ出しがないと家事もラクだし、これはすごいぞ! と一気に楽しくなりました」
面白いのはそこからの服部さんの歩み。カリフォルニアの大学院に留学して公共政策を学び、卒業後は廃棄物の問題に取り組むNGOスタッフとして南インドに滞在。麻子さんも一緒に世界を転々としながら、行政や団体としてできるごみ政策を考え続けた。でもあるとき、はたと思ったそうだ。個人が家の中でできることにも、すごく大きな可能性が広がっているのではないか? と。
「意識が変わったのは『ゼロ・ウェイスト・ホーム』を読んでから。初めて翻訳した本です。この本に、ごみは個人の意思でコントロールできる、と教えてもらいました。キッチンスポンジのない生活なんて最初は想像できないかもしれませんが、なくても大丈夫な自分になれるとしたら、なんだかワクワクしませんか? それは、スポンジなしでも生きられる自由を感じられるから。ごみを減らそうとすることは、義務ではなく、一人ひとりに許された選択の自由だと思うんです」
麻子さんが台所でつかう蜜蝋ラップも、家族全員分の水筒も、よくよく選んで買ったお気に入りだ。納得のいく竹製の歯ブラシを見つけたときは、とくにうれしかったと服部さん。
「つかい捨てになるプラスチックを生活から少しずつ取り除いていくことは、暮らしを隅々まで自分色に染めることでもあります。それが環境のためにもなる。個人の力は小さいと思うかもしれないけれど、世の中の10%の人に変化が現れると、その変化は急速に広がるともいわれています。ごみゼロに挑戦する自由を感じつつ、できる範囲で続けていく。それが服部家の楽しいゼロ・ウェイストです」
PROFILE
服部雄一郎 はっとりゆういちろう
1976年生まれ。翻訳者。主な訳書に『ゼロ・ウェイスト・ホーム』『ギフトエコノミー ~買わない暮らしのつくりかた』など。ブログやSNSでも暮らし模様を発信する。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Kiyoko Eto Text & Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子