廃棄しない、所有もしない「サーキュラーエコノミー」って何?
人類が永続的に繁栄するために、地球を再生する経済システム。それがサーキュラーエコノミーです。その取り組みは、すでにEUやアメリカ、中国でも始まっています。これからの循環型社会を見据えたシステムについて、一般社団法人 サーキュラーエコノミー・ジャパンの中石和良さんに伺いました。
リニアエコノミーとサーキュラーエコノミー。
同じ“エコノミー”だけど、何がどう違う!?
リニアは“直線”、サーキュラーは“循環”ということ
リニアエコノミーは地球にある資源から製品をつくって販売し、つかわなくなったら捨てる、直線的で一方通行の経済で、日本をはじめほとんどの国がこの状態です。こうした経済ではいつか資源は枯渇し、環境は限界を超えてしまいます。温室効果ガスの排出は増え続け、処理しきれない廃棄物が世界中にあふれ、大量の海洋プラスチックが生態系を脅かします。いわば「持続不可能な経済活動」ということです。
そうした課題を解決する経済システムとして注目されているのがサーキュラーエコノミー。これは資源から製品をつくってつかい、捨てずにつかい続けるという経済構造。経済全体を「円」として捉え、循環させていくシステムです。日本ではこれまで「3R=リサイクリング・エコノミー」に取り組んできましたが、これは廃棄物の発生を抑制しつつ、有用な廃棄物は再利用するというもの。悪いことではないですが、「廃棄物を排出すること」が前提で、あくまでもリニアエコノミーの延長線上といえます。かたやサーキュラーエコノミーは、まずは「廃棄物と汚染物を発生させないこと」が前提。これまでとはまったく異なる経済のあり方なのです。
サーキュラーエコノミーの定義って?
合い言葉は“揺りかごから揺りかごへ”
サーキュラーエコノミーの3原則は、①廃棄物を生み出さないデザイン(設計)をおこなう。②製品と原料をつかい続ける。③自然システムを再生する。イギリスに本部があるエレン・マッカーサー財団が提唱したもので、グーグルなどのグローバル企業やNGO、欧州各国の政府も巻き込んで、サーキュラーエコノミーへの移行を推進しています。
背景にあるのは欧州と米国で広がりつつある「クレイドル・トゥ・クレイドル(揺りかごから揺りかごへ)」という考え方。揺りかご(地球)から採った資源を墓場(廃棄場)へ捨てていたリニアエコノミーから脱却し、揺りかごから採った資源は継続的に揺りかごで再利用し続ける、完全循環を目指したものづくりです。欧州と米国を中心に「クレイドル・トゥ・クレイドル(C2C)認証」という認証制度が実践されています。
サーキュラーエコノミーの
具体的な仕組みは?
イメージは蝶の羽
サーキュラーエコノミーの循環を示した図が「バタフライ・ダイアグラム」。羽を広げた蝶のように左右に2つの循環が広がっていて、右の羽は「技術的サイクル」。石油や石炭、金属や鉱物などの「枯渇資源」を循環させる場合です。左の羽は「生物的サイクル」。植物や動物、魚といった「再生可能資源」のサイクルを表します。どちらも内側の循環ほど新たに投入するエネルギーや資源、労働力が少なくて済むので、内側から循環させていくのが理想的です。
それぞれのサイクルを2つの羽に分けている理由は、循環方法の違い。「技術的サイクル」では枯渇資源をムダなくつかい、循環し続けるのが基本。かたや「生物的サイクル」は、どうしても劣化が避けられないので、古着は家具などのファブリックに、次はクッション、その次は断熱材にという形で、元の品質を低下させながらリサイクルしていかざるを得ません。最終的には生分解、堆肥化して土に戻し、そこから新たな生物を生み出したり、有機廃棄物ならバイオガスにしてエネルギーとして活用したりしますが、いかなる場合も元の製品が有害な化学物質を含んでいては自然に戻せないので、最初の設計・デザインが何より大切なのです。
サーキュラーエコノミーによって
ビジネスはどう変わるの?
消費者が「所有しない」ビジネスが主流になる
サーキュラーエコノミーによって生まれる「5つのビジネスモデル」は①循環型供給。②シェアリング・プラットフォーム。③サービスとしての製品。④製品寿命の延長。⑤資源回収とリサイクル。面白いのは②と③のいずれの場合も製品の所有者はメーカーという点。これまで私たちは製品を所有し、一定期間つかうと捨てて買い替えてきました。かたや新商品を買ってほしいメーカーは、商品がすぐに陳腐化する「計画的陳腐化」を推進していました。
製品をシェアしたり、貸し出してサービスを提供するサーキュラーエコノミーでは、メーカーは長く商品をつかってもらったほうが、原料調達や流通のコストを抑えられて得です。古い商品を回収してそこからまた製品をつくればムダは減り、消費者もごみを出さずにすむ。ひとつの製品が循環し続ける、理想的ビジネスモデルです。
サーキュラーエコノミーは、
いつ、どこで始まったの?
2015年、EUから広がった
2015年、欧州委員会は世界でいち早く「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を発表。サーキュラーエコノミーに移行するための具体的な政策を打ち出しました。資源の枯渇を前に、新しい経済システムへの移行が不可欠だと考えたのです。
また同年の国連サミットではSDGsが掲げられ、さらに「世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持。1.5度に抑える努力を追求する」という、いわゆる「パリ協定」が採択されました。持続可能な世界を実現するために示された明確なゴール。でも具体的には何をしたらいいのだろう? そこで注目されたのが欧州発のサーキュラーエコノミーなのです。世界が目指すゴールに向かうための方法論のひとつとして、各国がその考え方を取り入れ始めたのです。
どんな企業が
実践しているの?
“GAFAM”などのグローバル企業やスポーツ界でも
画期的な取り組みが始まっている
近年、欧州企業を上回る勢いでサーキュラーエコノミーへの移行を行っているのが「GAFAM(ガーファム)/G=グーグル、A=アップル、F=フェイスブック、A=アマゾン、M=マイクロソフト」。アップルは「地球から何も取らずに製品をつくる」と宣言し、再生可能、もしくはリサイクルされた素材だけで製品を製造する目標を掲げています。グーグルは2017年から世界中にあるデータセンターやオフィスなど企業活動に必要なエネルギーのすべてを再生可能エネルギーでまかなっています。
またスポーツ界ではナイキが素材の約9割に廃棄物を再生利用したシューズ「スペースヒッピー」を発売、アディダスは2021年に完全に再生可能で、半永久的に同じ製品をつくり続けられるランニングシューズ「フューチャークラフトループ」の発売を予定しています。
PROFILE
中石和良
2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人 日本ビオホテル協会)を設立。2018年に一般社団法人 サーキュラーエコノミー・ジャパンを創設し、代表理事として日本でのサーキュラーエコノミーの認知拡大を推進する。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Illustration:Amigos Koike Text:Yuriko Kobayashi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子