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小林エリカ×キム・スム「平和への課題を知り、未来のためにできることを考えるための本」
小林エリカ×キム・スム「平和への課題を知り、未来のためにできることを考えるための本」
FEATURE

小林エリカ×キム・スム「平和への課題を知り、未来のためにできることを考えるための本」

今起きている戦争や紛争の引き金には、貧困や差別を始め、個人から世界レベルまで、さまざまな問題があります。世界が争いへと向かわないために、まずはその根源にあるものと向き合い、何が起きているのかを考えることから始めましょう。今回は、戦争と平和について文学を通して伝え続ける漫画家・作家の小林エリカさんと、作家のキム・スムさんの著書を紹介します。

▼小林さん&キムさんの対談はこちら

書きたいのは、歴史の中で消され、忘れ去られた“幽霊”みたいな人々(キム)

『さすらう地』

1937年、スターリン体制下のソ連。朝鮮半島にルーツを持つ17万の人々が突然、行き先を告げられないまま貨物列車に乗せられ、極東、沿海州から中央アジアに強制移送された。狭い貨車の中で語られる人々の声を紡ぎながら物語に昇華させた意欲作。定着を切望しながらも見知らぬ土地で生き抜いてきた「高麗人(コリョサラム)」たち。悲哀に満ちたその歴史を、史実にできるだけ忠実に寄り添いながら、繊細かつ重層的に描き出す。岡裕美=訳(新泉社)。

『Lの運動靴』

1987年6月、韓国の民主抗争のさなか、警察の発砲した催涙弾によって命を失った20歳の大学生「L」。28年後、彼のものだとされる片方の運動靴が美術修復家の元へ持ち込まれる。運動靴のかけらを修復する行為に、どのような意味があるのか。消せない記憶とは何か。人が生き、死して残す物体に、その修復にどんな意味があるのか。美術修復家の視点を通して、静謐な時間の中で語られる「物質」と「記憶」をめぐる物語。中野宣子=訳(アストラハウス)。

『ひとり』

主人公の「彼女」は生存する旧日本軍「慰安婦」証言者が残りひとりになったというニュースを聞きながら、こうつぶやく。「ここにもうひとり、生きている……」。手に入る限りの資料を集め、拾い上げた証言。それをつなぎ合わせて編み上げた、ひとりの韓国人「慰安婦」の物語。加害者か被害者か、男性か女性かということではなく、ひとりの人間が引き受けなければいけなかった苦痛、伝えられてこなかった痛みを描く。岡裕美=訳(三一書房)。

目に見えるものが失われたとしても、匂い、声、記憶などの痕跡があり続けている(小林)

『最後の挨拶 His Last Bow』

シャーロック・ホームズの翻訳者だった父が倒れ、四姉妹の末っ子、リブロは家族の歴史を辿り直す。100年前のロンドンから戦争と震災を経て現在まで。家族の記憶とホームズの物語が鮮やかに交錯する。散らかった家、リブロたちがテムズ川と呼んだドブ川のある練馬で過ごした幼少期のこと、父の入退院と死、その後の東日本大震災、コロナ禍。時空を超えて紡がれる、私小説と物語の間を行き来するような唯一無二のファミリー・ストーリー(講談社)。

『トリニティ、トリニティ、トリニティ』

オリンピックに熱狂する2020年の東京。高齢者の間で認知症に似た奇病「トリニティ」が流行する。彼らは放射性物質を含んだ黒い石に執着しテロ行為に走る。「私」は老人であるということだけで「トリニティ」を結びつけ、母を疑うようになる。オリンピックと放射能、そして母と娘、それをつなぐ血。「目に見えざるもの」の怒りが人々を動かし、世界が姿を変えていく。時間も空間も飛び越えて未来の姿を描き出す、美しくも恐ろしい物語(集英社)。

『親愛なるキティーたちへ』

ユダヤ人の少女、アンネ・フランクが第二次世界大戦中にアムステルダムの隠れ家での日々を綴った日記。アンネと同じ年に生まれた自身の父が金沢での学徒動員の日々を書き記した日記。異なる時間、異なる場所、戦中・戦後の状況で綴られた2冊の日記には未来への希望を失わない若者の姿があった。アンネの足取りを死から生へ遡るように旅をしながら著者もまた日記を書いた。ドイツ、ポーランド、オランダ、17日間の旅の記録(リトルモア)。

PROFILE

小林エリカ Erika Kobayashi■1978年東京都生まれ。目には見えないもの、歴史、家族の記憶などから着想を得て、丹念なリサーチに基づく史実とフィクションからなる小説や漫画、インスタレーションなど幅広い表現活動を行う。作品にイラストも手がけた絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)など多数。

キム・スム■1974年韓国蔚山生まれ。97年に『大田日報』の新春文芸(文学新人賞)、98年に文学トンネ新人賞を受賞しデビュー。歴史の中に埋もれた人々の痛みを見つめ、人間の尊厳の歴史を文学という形で蘇らせる試みを続けている。2015年に韓国で最も権威ある文学賞、李箱文学賞を受賞。

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Illustration:Erika Kobayashi Text & Edit:Yuriko Kobayashi  Composition:林愛子

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