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菊地凛子×長島有里枝「人の好きなものを否定する必要はない。受け入れる社会がいい」【後編】
菊地凛子×長島有里枝「人の好きなものを否定する必要はない。受け入れる社会がいい」【後編】
FEATURE

菊地凛子×長島有里枝「人の好きなものを否定する必要はない。受け入れる社会がいい」【後編】

2023年に初の邦画単独主演作品『658km、陽子の旅』が公開された菊地凛子さん。その映画ポスターの撮影をした写真家の長島有里枝さんとフォトシューティングが実現。対談では映画について、孤独を抱えた女性が主人公になった意義、互いの生き方を認め合う大切さを語りました。

▼前編はこちら

「これまで化粧をしないで生きてきた」

長島 陽子がイカ墨パスタを食べるシーンがとても好きです。イカ墨パスタが日本で食べられるようになったのは、80年代くらいですよね。

菊地 子どもの頃、すごく流行った記憶があります。

長島 そうそう、しかも昔はレストランじゃないと食べられませんでした。陽子は決して裕福ではないでしょうけれど、いまや六本木のレストランに行かなくても、食べたければ自宅でレトルトのイカ墨パスタが食べられる。自分のベッドに寝転がって、海外ドラマを観ることもできる。陽子は自分の好きなものをわかっていて、楽しみ方が上手な人だと思いました。

菊地 好きなことを見つけるのも、自分と向き合う作業だからそれも難しい人もいるかもしれない。でも陽子はひとりで楽しみを見つけていましたね。

長島 わかる!と思いました。

菊地 もっと人と関わる趣味を持てば、もしかしたら外に出かける機会がもっと早くにあったのかもしれないと思ってしまうこともありましたが、外野がとやかく言うことじゃないですよね。自分がよければそれでいい。

長島 そう思います。その話につながると思うので、今日のメイクのことを話していいですか?

菊地 ぜひ!

長島 菊地さんは、陽子役をノーメイクで演じ切りましたね。実はわたしも、これまで化粧をほとんどしないで生きてきたんです。肌が弱いのもあるけれど、何より人に「かわいい」と思われたり、言われたりするのが嫌で。「女性」らしく振る舞う自分が好きじゃないんです。戸籍上「女」っていうだけで、「公の場では化粧をするもの」みたいな規範もある。

菊地 わかります。自分の気持ちだけで行動するのは難しくて、世間にどう見られるか考えてしまうことはありますよね。とくに母親になってからは、自分のファッションやふだんの姿勢などを、きちんと考えるようにもなりました。

長島 そうなんです。若いときは髪を剃ったり染めたり、ピアスもあちこち開けていたのに、母親になると急に、「私のせいで子どもに友達ができなかったら」なんて考えてしまう。

菊地 よくわかります。

長島 最近、作品の一環でドラァグメイクを教わって、お化粧にがぜん興味が湧いています。今日も、そのイメージでメイクをしてもらいました。「メイクって個性や欠点を隠すためにあるんじゃないんだ」って思えて楽しいです。

写真:長島有里枝

菊地 本当ですね。とてもよく似合っていて素敵です。人の好きなものを否定する必要はないので「そういう人もいるよね」と受け入れる社会がいいですね。寛容さが必要なんじゃないかと思います。

長島 もしかすると陽子も、「こうあるべき」に飽きて、新しい自分を見たかったのかもしれません。「おもしろい」という言葉は、この物語にそぐわないかもしれないけれど。多くの人が共感し、引き込まれてしまう映画だと思います。菊地さんの演技も本当に素晴らしかったです。

菊地 ありがとうございます。この作品は40代の女性が主役で、映画としては比較的珍しいのかもしれません。でもエンターテインメントは、若い人のためのものだけではありません。多くの人が触れるものだからこそ、もっといろんな立場の人を描くような多様性のある作品が増えていくといいなと思っています。もしかしたら今後、おばあちゃんが主役の物語なんていう作品も増えてくるかもしれない。わたしもこれから、幅広くいろんな人を演じていきたいと思っています。

PROFILE

菊地凛子 きくち・りんこ

1999年、新藤兼人監督の『生きたい』で映画デビュー。海外にも活躍の幅を広げ、2006年公開の映画『バベル』では、アカデミー助演女優賞を含む多数の映画賞にノミネート。13年、18年に映画『パシフィック・リム』シリーズに出演。22年には、アメリカのドラマシリーズ『TOKYO VICE』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)への出演で話題に。23年秋から放送の連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)では、淡谷のり子がモデルの茨田りつ子役を演じた。

長島有里枝 ながしま・ゆりえ

1993年武蔵野美術大学在学中に「アーバナート#2」展でパルコ賞を受賞しデビュー。2001年に『PASTIME PARADISE』で第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。フェミニズム的視座とパンク精神をモットーにアーチストとして活動。近年、文筆業や教育活動もおこなっている。近著に、日本写真協会賞学芸賞を受賞した『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)や、『こんな大人になりました』(集英社)がある。

映画『658km、陽子の旅』

 ©2022「658km、陽子の旅」製作委員会

非正規の職に就き、他人とほとんど関わらずに生活している陽子。20年以上疎遠となっていた父の訃報をきっかけに、青森にある実家へのヒッチハイクの旅がはじまった。監督/熊切和嘉 出演/菊地凛子、竹原ピストル、オダギリジョーほか

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Photo:Yurie Nagashima,Rie Amano Styling:Megumi Yoshida Hair:ASASHI(ota office) Make-Up:Ryota Nakamura(3rd) Hair & Make-Up:(for Yurie Nagashima)Kohji Kasai(UpperCrust) Text & Edit:Saki Miyahara

Composition:林愛子

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