「ケロッグ」コーンフレークの工場跡地に誕生したスマートタウンinブレーメン
「ブレーメンの音楽隊」で知られるブレーメンは、街の中心を流れるヴェーゼル川を利用した海上と河川中継交易地として隆盛を極めた港町。街の中心部に残る壮麗な歴史建築が、当時の繁栄をいまに伝えています。2038年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)を目指す同市では、都市のリサイクルプロジェクトが進んでいます。そのひとつが、巨大なコーンフレーク工場を丸ごと街につくりかえるという、壮大なプロジェクトです。
気候変動に強い都市づくり
ブレーメンの中心地から2kmほど川沿いに下ったところにある街「ユーバーゼーインゼル」。訪れたところ、「ケロッグ」の看板を掲げた、巨大な建物が目に飛び込んできた。ここは、1964年から2016年まで、世界的に有名なコーンフレークのブランド「ケロッグ」の一大生産拠点だった。閉鎖された工場跡地に、いままさに新しい市街地地区、ユーバーゼーインゼルが生まれようとしているのだ。
開発中のこの一帯には、50年にわたって稼働していた工場と、できたばかりのビルやオープンスペースが混在している。ニュータウンのビジョンは、生活、ビジネス、文化、レジャー、教育が融合する活気ある場所。緑が多くて車の交通量が少なく、ほぼCO2ニュートラル、ブルーグリーン・インフラストラクチャーによって、気候変動に強い都市空間、つまり気候の変化に適応した街路と交通空間を創造するのが狙いだという。
「地下には氷貯蔵施設があり、そこに冷熱エネルギーが貯蔵されます。エネルギーはほかにも風力、太陽光、ヴェーザー川の水による水力が使用される計画です」
15m×30mの掘削ピットを指さしながら、こう教えてくれたのは管理運営会社のスタッフ。熱の生成時に生まれる冷気を利用して、氷貯蔵施設の地表に、冬はアイススケート、夏はプールを楽しめる空間をつくる計画だという。効率性を重視することで、可能な限りサステナブルな街にすることが目標だ。
穀物サイロを再利用したホテル
道路は歩行者と自転車が優先という、新しい環境を予定している。電気自動車やハイブリッドカーの充電ステーションはもちろん、モビリティハブ(カーシェアリングや自転車シェアリング、電動キックボードなどの貸し出し拠点)と安全な地下駐車場、駐輪スペースも計画中とのことだ。
かつての米倉庫にはピッツェリア、ビール醸造所、オーガニックマーケットなどが入り、早くも人々が集まる場となっていた。ケロッグの管理部門があった2棟の建物は、小学校として活躍中。元学校を再利用する話はよく聞くが、元工場が学校になるのは珍しいのではないか。
旧米倉庫に隣接する農園は、社会復帰しようとする人びとを支援する非営利プロジェクトに活用される。2000平方メートルの敷地で野菜、果物、ホップを栽培。ヴェーザー川を望む場所では、野菜の販売やファーム・トゥー・テーブルのレモネード、クラフトビールを提供している。
「ジョン アンド ウィル」は、コーンフレークの原材料が保管されていた、穀物サイロを利用した117 室のホテル。ケロッグ社の創設者であるケロッグ兄弟の名から名を取り、2024年8月にグランドオープンした。半円型の建物すべてのフロア、すべての部屋からヴェーザー川が見える絶好のロケーション。装飾は有機素材をつかうことを重視し、すべての家具にリサイクルされた皮革や木材を使用した。ミニバーを置かない代わりに、バーセプション(レセプションとバーのカウンターがひとつになったもの)で水が補充できるドリンクボトルを用意している。
冷暖房システムにはヴェーザー川の水をつかい、館内の照明エネルギーはグリーン電力。ブレーメン中心部まではトラムで15分、川沿いのプロムナードを歩けば2kmほどのウォーキングで到着する。ホテルのレンタサイクルを利用するのもいいだろう。
このニュータウンには今後3年間でさまざまな年齢層向けのアパートメント450戸が建設される予定。さらに企業、商業施設、ビジネスセンター、ヘルスセンター、デイケアセンター、アート&イベントスペースなどができるという。すべてが計画通りに進めば、全体の約55%が2027年までに完成、2031年にフルオープンする。イチからつくられたサステナブルな最先端タウンを、ぜひ訪れてほしい。
協力:ドイツ観光局、text:鈴木博美
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