ドイツの美しき歴史都市「ブレーメン」市民が考える“2038年のサステナブルな社会”とは?
「ブレーメンの音楽隊」で知られるブレーメンは、ドイツ北西部に位置する歴史的な都市。豊かな文化遺産と現代的な都市機能が融合し、環境先進国ドイツのなかでも気候変動に対して積極的に取り組んでいます。トラベルライターの鈴木博美さんがレポートします。
戦火で市民が守り抜いた“自治と独立の象徴”
ブレーメンは、かつてはハンザ同盟の一員として、ヨーロッパ貿易の重要な拠点だった。現在も、リューベック、ハンブルク、ブレーメンの三都市は「自由ハンザ都市」と称されている。マルクト広場にあるブレーメン市庁舎とローラント像は、自由都市ブレーメンの自治と独立を象徴する存在として、また中世ヨーロッパの都市文化と建築の発展を示す貴重な証拠として、世界遺産に登録されている。第二次世界大戦時の爆撃でブレーメンの多くが消失したが、市庁舎とローラント像だけは、市民が囲いをつくり、戦火から守り抜いたのだとか。
市庁舎内は、専属ガイドつきツアーでのみ見学できる(英語ツアーは12時から。ブレーメンツーリズムHP参照)。歴史に彩られた内部すべてが博物館クラス。階段に吊り下げられたクジラの顎骨でできたランプ、ホールに展示されている美術品などから、600年以上にわたるハンザの繁栄がうかがえる。
市庁舎地下にあるレストラン「ブレーマー・ラーツケラー(Bremer Ratskeller)」は、1405年創業の市のワインセラーを改装したもの。巨大なワイン樽が並び、ドイツワインとともに名物・北海のシーフードが味わえる。
ブレーメンといえば思い浮かぶのは、グリム童話の「ブレーメンの音楽隊」だろう。高齢などの理由で仕事ができなくなってしまったロバと犬、猫、にわとりが、新たな人生を歩むために「ブレーメンで音楽隊をやろう!」と集まるこの物語。あらためて読んでみると、まさに超高齢化社会を予見した内容だった。ブラザーズ・グリム恐るべし!
市庁舎前のマルクト広場に堂々と立つ巨大なローラント像とは対照的に、隅っこにひっそりと音楽隊の像が立っていた。広場の一角にあるマンホールのフタに開いた穴、通称「ブレーメンの貯金箱」にコインを投入すると、ロバ、犬、猫、ニワトリなど「音楽隊員」の鳴き声が聞こえてきた。2024年5月のレポートによると、1年間で2万5000ユーロ以上のコインがここに投入されてきたとか。これらのおカネは慈善団体に寄付され、地元の人々のためのさまざまなプロジェクトを支援するのにつかわれるという。こんな素晴らしいアイデア、ぜひ日本の観光地でも採用してほしい。
夕方の広場では夏のイベントのひとつ、野外オペラが開催され、通りすがりに「カルメン」を無料で鑑賞できた。ブレーメンは音楽があふれる素晴らしい街だ。
2038年までに「気候中立」を実現する!
ブレーメン州は、2038 年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)の目標を設定している。気候中立とは、人間の活動で排出されるCO₂の量を、削減と吸収などで実質的にゼロにすること。温室効果ガスの排出を最小限に抑え、空気中のガスを森林再生や炭素捕捉技術などを通じて吸収・除去することで、全体として「中立」な状態を達成しようというものだ。ブレーメン州は企業と市民全員の協力で、水素インフラを構築し、自動車の数を3分の2に 削減したうえで、その半数を電気自動車に変換、さらに太陽光パネルの設置と省エネ住宅への改修を支援を通じて実現しようとしている。
街の中心部に設置されたインタラクティブインスタレーション「Moin 2038」。数字のオブジェについたボタンを押すと、「CO₂ 排出のない社会とは?」「誰もが健康に暮らせる空間とは?」「新しい仕事の形態は?」「コミュニティ活動はどうなる?」など、2038年の生活様式を語る音声が流れる。オブジェには、2038年のブレーメンに暮している(であろう)市民の名前と職業が記されていて、彼、彼女らからのメッセージが聞けるという設定だ。ちなみに「Moin」とは、ドイツ北部の「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」に当たる挨拶。
市庁舎の隣に立つ聖ペトリ大聖堂は、2つの尖塔を持つブレーメンのランドマークだ。1042年に建設が開始されたゴシック様式のファサード、教会内の大きな窓を飾るステンドグラス、後方にある幻想的なバラ窓が印象的。何度も大規模改修がくり返されているが、初期のロマネスク様式とゴシック様式はそのまま残されている。 ふたつの塔のうち、ひとつは一般公開されていて、265 段の螺旋階段で上がれる。地上90m超の高さから、川に囲まれ、レンガ屋根ひしめくブレーメンの美しい街並みを望める。教会の奥にある博物館には、銀の祭壇や中世の司祭の霊廟、祭服、レリーフなどが展示され、見学は無料だ。
ブレーメンのベトヒャー通りとシュノーア地区は、街の歴史と文化を体験するのに最適。中心にあるマルクト広場とヴェーザー川を結ぶベトヒャー通りは、14世紀に建設された労働者や商人の住む地区だったが、1920年代に地元のコーヒー商人が芸術の中心地として再開発した。著名な芸術家と協力し、通り全体をアートストリートに仕立てたのだ。レンガづくりの建物が並ぶ小径には、地元で評判のカフェやギャラリー、お土産探しにちょうどいいショップなどが並ぶ。正午から18時までの毎時0分には、30個のマイセン磁器製のチャイムが、やさしい音色を奏でる。
シュノーア地区はブレーメン最古の地区。「シュノーア(Schnoor)」は「紐」を意味し、家々がひもでつながれているように密接に並んでいることが由来だそうだ。迷路のように入り組んだ石畳の狭い路地の両側に、レンガづくりや木造の家が密集し、アトリエ、ギャラリー、ショップやカフェなどが並ぶ。日中は大勢の観光客が押し寄せるので、“映え写真”を撮るなら朝がベスト。早い時間帯には、童話の世界に迷い込んだかのような風景に出合える。
──次回は、ブレーメンのサステナブル・スポットをお届けします──
協力:ドイツ観光局
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