ドイツのサステナブルな街を巡る旅⑦ ドレスデンのエコフレンドリー&アートな中庭「クンスト・ホーフ・パサージュ」を見逃すな!
環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2023で世界4位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、ドイツのサステナブルやSDGsをレポートします。最終回の舞台は、ドイツ東部ザクセン州の古都ドレスデン。エルベ川のほとりに広がる、芸術と文化の町です。観光の中心は、ゼンパーオペラ、フラウエン教会、文化宮殿などの歴史建築物群が魅力を放つ旧市街。その一方で、ドレスデンの現代的でクリエイティブな一面を体現する新市街も注目を集めています。今回はクリエイティブなデザインとエコフレンドリーな取り組みが融合したアートスポット「クンスト・ホーフ・パサージュ」を訪れました。
ヨーロッパ芸術の中心都市として隆盛を極めた旧市街
ドレスデンは、エルベ川を挟んで旧市街と新市街に分かれており、それぞれが独自の魅力をもっている。古くから芸術と学問の都と称される旧市街には、ドレスデンを象徴するツヴィンガー宮殿をはじめとする多くのバロック建築群が、時を超えていまも輝きを放っている。しかし、その大半は第二次世界大戦の空爆で壊滅的な被害を受け、戦後再建されたものだ。
瓦礫(がれき)を組み合わせて見事に再建された聖母教会は、「ヨーロッパ最大のジグソーパズル」といわれたほど。全長102mの壁一面にあるのは、1907年、2万4000枚以上のマイセン磁器タイルに歴代35人のザクセン君主が描かれた「君主の行列」だ。第二次世界大戦の爆撃で壊滅的な被害を受けたドレスデンにおいて、奇跡的に戦火を免れた芸術のひとつだ(上写真)。
エルベ川を挟んで北側に広がる新市街へ向かう。旧市街からトラムに乗って20分ほどのところに位置するアウター・ノイシュタットは、アーティストや学生が多く住むトレンド発信地。建物や壁に派手なグラフティアートが描かれ、つねに地元の若者たちでにぎわっている。商店が軒を連ねる一角にある「クンストホーフパッサージュ」は、その名の通り「アートの中庭」として、アートとエコロジーの融合を目指す注目のスポットだ。中庭に設置されたアート作品や建築の装飾は、自然素材やリサイクル素材でつくられており、芸術を通じて、持続可能とは何か?というメッセージを伝えている。地元のアーティストや職人が手がけるユニークな作品たちは、購入もできる。
集合住宅に挟まれた5つの中庭は、「エレメント」「光」「動物」「変化」「神話」をテーマに、それぞれ異なるアーティストが手がけ、迷路のようにつながっている。訪問者はそれぞれの空間をさまよい、カラフルな世界を探検気分で散策できる。各中庭にはカフェやレストラン、ユニークなショップや小さなアトリエが立ち並び、ほかのまちにはない特別な雰囲気を生み出す。たとえば「動物」の中庭。正面建物のグリーンの壁には、籐でできたバルコニーが突き出し、大きなキリンや窓から窓へ飛び回るサルがダイナミックに描かれている。まるで動物園にいるみたいだ。
青いファサードが印象的な「エレメント」の中庭は、楽器の形をした雨どいが壁をつたい、雨が降るとメロディアスな音楽を生み出すように設計されている。雨水は水盤に集められ庭の噴水やトイレの洗浄などに使用されるという。対面の太陽が降り注ぐ黄色のファサードには、金色のアルミニウムシートが取りつけられ、光を反射して輝くようになっている。晴れでも雨でも楽しませてくれる中庭アートだ。
「光」の中庭の屋根の端には金属製の鏡が取りつけられており、太陽の位置に応じてさまざまな色の反射をつくりながら中庭を照らす。「神話」の中庭の壁は精神世界と宇宙観をポルトガル、イタリア、マイセンのタイルを使用したモザイクで表現、見る者の想像力をかきたてる。「変化」の中庭には、鋼鉄の骨組みでつくられた高さ15mの石碑に光ファイバーの束が埋め込まれており、夕方になると光り出す。
クンストホーフパッサージュの仕掛け人であるクリエイティブ集団「Ginkgo(イチョウ)」チームは、既存の建物を保存しながら、住宅地や商業地域を緑化し、アートを日常生活に浸透させて、観光客と住民の双方に魅力的な場所を提供している。その目的は、都市の老朽化した場所を、アートと自然をフックにクリエイティブな空間に再生し、社会的にも建築的にも再び活性化させること。生命力と回復力が強いイチョウをプロジェクトのシンボルにしている。
クンスト・ホーフ・パサージュは、環境に優しい建築デザインや雨水利用システム、地域密着型のビジネス、エネルギー効率の向上、教育と啓発活動など、多岐にわたる持続可能な取り組みを実施することで、訪れる人々に環境への配慮と創造性の重要性を訴え、持続可能な未来への一歩を示している。
旧市街では歴史と文化を堪能し、新市街では現代的で活気ある雰囲気を楽しむ。2つのエリアを訪れることで、ドレスデンの多様な魅力を存分に味わえるだろう。
Text:鈴木博美、協力:ドイツ観光局
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