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国内外から見学者が殺到! 富山・砺波市の「三郎丸」ウイスキーは、ほかと何が違うのか?
国内外から見学者が殺到! 富山・砺波市の「三郎丸」ウイスキーは、ほかと何が違うのか?
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国内外から見学者が殺到! 富山・砺波市の「三郎丸」ウイスキーは、ほかと何が違うのか?

ジャパニーズウイスキーはいま、世界から注目されています。かつては10ほどしかなかった国内の蒸留所も、いまや110個所を超える勢い。なかでも異彩を放っているのが「三郎丸蒸留所」です。北陸地方最古の蒸留所が、こだわりにこだわり抜いて完成させたジャパニーズウイスキーの味わいは!?

クラウドファウンディングでできた、五感で楽しめる蒸留

富山県砺波(となみ)市に、国内外から年間3万人弱が見学に訪れる蒸留所がある。「三郎丸蒸留所」。展示スペース、テイスティングコーナー、売店があり、レストランも併設される、五感で楽しめるウイスキー蒸留所として、地域の人気スポットとなっているのだ。

その母体は1862年創業の日本酒メーカー「若鶴酒造」。それがウイスキーに傾倒していったきっかけは、戦後の米不足にあった。国による米統制のため、日本酒の原料、米が手に入らない。どうする!? というわけで、酒蔵の2代目が蒸留酒の研究を始め、1952年にウイスキー製造免許を取得、翌1953年に「サンシャインウイスキー」を発売した。

「その後、国内ウイスキー需要の落ち込みなどもあったりして、3代目、4代目の時代はウイスキー事業を大幅に縮小し、細々つくってきました。地元の人でさえ、ウチがウイスキー蒸留所でもあるとは知らないくらい(笑)」(若鶴酒造5代目・稲垣貴彦代表、以下同)

若鶴酒造の5代目で代表取締役社長の稲垣貴彦さん。曽祖父が手がけたウイスキーの味わいに感動して家業を継ぐと決めた

そんな若鶴酒造が大きく変わったのは、5代目が家業を継ぐ決意をしたことだった。

「大阪の大学を出たあと、東京のIT企業に勤めていた私が家業を継ごうと思ったのは、2代目の曽祖父が手がけ、1960年に蒸留されたウイスキーを飲んで感動したからです。富山には2015年に戻ってきたのですが、蒸留所は老朽化して雨漏りはするわ、窓ガラスは割れているわでひどいことになっていた。そんな環境で細々とウイスキーをつくっているようすを見て、『このままではいかん!』と強く思ったのです」

蒸留所の再生に取り組むことを決めた稲垣さんが目をつけたのは、クラウドファウンディング。その当時、クラウドファウンディングはあまり知られておらず、再生資金を調達するのは難しいと思われていた。だが、フタを開けてみればうれしい悲鳴。目標額をはるかに上回る3800万円超の資金が集まり、2017年、念願だった新しい蒸留所が完成した。

クラウドファウンディングにより建て替えられた三郎丸蒸留所

「蒸留しているところを見たり、展示を見学したりするだけでなく、味、香り、音、蒸留している熱……と、五感で楽しめる蒸留所になっているのがウチの特徴ですが、もうひとつ大きなポイントがあるんです。それは、駅からメチャクチャ近いこと。JR城端線・油田駅から徒歩60秒なので、発車時間ギリギリまでテイスティングを楽しんでいただけます。2分前に蒸留所を出れば余裕です(笑)」

地元・富山に根づいたサステナブルな酒づくり

稲垣さんが家業を継いでから掲げたテーマは「伝統と革新」。クラウドファウンディングで建て替えた蒸留所でも、さまざまな革新的取り組みを実施した。たとえば2018年には最新鋭のマッシュタン(麦芽糖化槽)を導入。2019年には、世界初となる鋳造製ポットスチル(単式蒸留機=もろみを蒸留するための釜)「ZEMON」を開発し、設置した。

「一般的なポットスチルは銅板を叩いて伸ばして曲げて、溶接してつくります。けれども銅板が薄いので、20〜30年とつかっているうち穴が開いてしまうことがあります。ZEMONは鋳造で、厚さを2.5倍くらいにできる。つまり、ポットスチルの寿命が格段に延びるのです。通常のポットスチルの材料は銅のみですが、ZEMONは青銅という銅に錫(すず)を混ぜた金属をつかいます。結果、銅と錫の効果で酒質がよりまろやかになるんですね。従来のポットスチルよりもエネルギー効率が高く、CO2排出量も抑制できることも判明しています」

地元富山の梵鐘(ぼんしょう=つりがね)製造の技術を用いて開発した、世界初の鋳造製ポットスチル。エネルギー効率が高く、CO2排出量も抑制。サステナブルな酒づくりができる

日本とイギリスで特許も取得しているというZEMON。実はこれ、富山のつりがね製造技術から生まれている。なかでも高岡市は銅器製造の歴史が長く、日本の銅器の9割を生産、つりがねはその代表的なものだ。

「弊社は『地域によって、世界に立つ』を使命として掲げています。地元富山に根づいた酒づくりを通して、地域の自然、文化、ものづくりの技術を未来へとつなぎ、世界へ広げていきたい。そんな思いがあるのです」

ポットスチルのほかにも、ウイスキー樽を開発して商品化し、同蒸留所でも使用している。富山県産のミズナラ(ブナ科の落葉樹。海外ではジャパニーズオークと呼ばれて高く評価される)を用い、地元で育まれた木工技術で完成させたものだ。

「夏場は屋根に散水をして熟成庫の温度を調整しています。暑いとウイスキーに苦味が出てしまうのですが、散水をすると10℃ほど下がり、非常にいい熟成環境ができます。この散水にも、地元の水資源を活用しています」

木材、水といった自然の恵み、鋳造や木工の伝統技術。こうした地域の財産を生かし、サステナブルなウイスキーづくりをおこなう。これが三郎丸蒸留所の特徴であり、誇りでもある。

ピートにこだわり、ピートを極める

蒸留所が生まれ変わってから、商品に新たな顔が加わった。それまでは昔ながらの「地ウイスキー」として、2代目が手掛けた「サンシャインウイスキー」一本でやっていたが、2017年に「三郎丸」という新ブランドを立ち上げたのだ。

「特徴はスモーキーであること。日本のウイスキーは、基本的にスモーキーではありませんが、ウチでは昔から、ピートが強くスモーキーなウイスキーをつくってきました。自分が好きということもありますが、伝統を守るという意味でも、〝ピートを極める〟ことが三郎丸のコンセプトです」

泥炭=ピートが、ウイスキーのスモーキーな香りを生み出す

ピートは、野草や水生植物などが幾重にも積み重なり、長い年月をかけて炭化した泥炭のこと。これを燻した煙で麦芽を乾燥させると、香りが麦芽に移り、その麦芽でウイスキーをつくると、特有のスモーキーな香りが生まれる。

「ピートをつかった麦芽とそうでない麦芽。どちらを原料にするかで、できあがるウイスキーの味はまったく違ってきます。ウチはピートにこだわっています。日本でもピートをメインにしてウイスキーをつくっているのは、三郎丸蒸留所くらいではないでしょうか」

2024年6月27日に発売されたシリーズ第5弾「三郎丸Ⅳ THE EMPEROR」(写真左)と、アルコール度数の高い「三郎丸Ⅳ THE EMPEROR カスクストレングス」

三郎丸シリーズは、2020年に発売された「三郎丸0」、2021年の「三郎丸Ⅰ」、2022年の「三郎丸Ⅱ」、2023年の「三郎丸Ⅲ」、そして2024年6月27日に発売されたばかりの「三郎丸Ⅳ」の全5種。いずれもピートが効いているが、Ⅲからはピートによりこだわった。Ⅲは、スコットランドのアイラ島のピート(アイラピート)で燻された麦芽を使用。Ⅳは、スコットランド内陸部のハイランド地方のピート(ハイランドピート)を使用した。

「ハイランドピートは、スモーキーさがストレートで力強く、乾燥した木を燃やしたような乾いたニュアンス。アイラピートは、海を感じさせる潮気とやわらかさが特徴です。この両方をつかった新商品のⅣは、パイナップルやリンゴといった黄色い果実の香りがあり、カラッとした味わい。アイラピートだけでつくったⅢは湿気のある海風のような、やさしい余韻が続きます」

なかなかマニアックな話になってきたが、両者を飲み比べてみれば、ウイスキー初心者にもわかるのかもしれない。

「昔は、ピートの強いウイスキーは日本では売れませんでした。ところが最近は、ピートのきいたスモーキーなウイスキーが人気です。時代がやっとウチに追いついてきたのかな(笑)」

ちなみに稲垣さんによれば、スモーキーウイスキーのツマミにはホテルイカの燻製かビーフジャーキーがベストだとか。さっそく今夜、試してみますか……!

Text:佐藤美由紀

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