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世界自然遺産の屋久島に、いまなぜ「THE NORTH FACE」だったのか!?【前編】
世界自然遺産の屋久島に、いまなぜ「THE NORTH FACE」だったのか!?【前編】
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世界自然遺産の屋久島に、いまなぜ「THE NORTH FACE」だったのか!?【前編】

1993年、日本で初めて世界自然遺産に登録された屋久島。全島が国立公園内というこの大自然の聖地に3月16日、「THE NORTH FACE 屋久島」がオープンしました。同島の玄関口、宮之浦港真ん前の屋久島環境文化村センター内にあり、早くも地元住民から大歓迎を受けています。

地元の「来てほしい」の声あってこそ!

店に入るとすぐ目に入る屋久杉の一枚板でつくられたテーブルには、屋久島店のオリジナル商品などが並ぶ

これまで、沖縄・石垣島や長野の白馬村、神奈川の箱根湯本、そして世界自然遺産の北海道・知床の斜里町などにフィールドショップを展開してきたTHE NORTH FACE(以下、ザ・ノース・フェイス)が、ついに屋久島にも! さすがは勢いのあるゴールドウイン(同ブランドの経営母体)、日本を代表する大自然のまちにどんどん進出していく……と思ったら、どうやらそういうことではないらしい。

「私どもが屋久島に店を出したいと思って場所を探していたわけではなく、まず、屋久島町側から『環境文化村センターに空きスペースができたので、店を出しませんか』というお話をいただいて、こちらに出店することになったのです。知床の場合も同様でしたが、まず地元の方々からの『来てほしい』というお声がかかるようでないと、持続可能な店にはなりません。おかげさまで、私どものフィールドショップすべてが、いまのところ健全に経営できています」(ゴールドウイン取締役、専務執行役員、グローバルブランド事業本部長の森光さん、下写真)

ゴールドウイン取締役の森さんも、オープニングに駆けつけた

請われて出店したからには、ザ・ノース・フェイスも本気だ。下の写真にあるように、3人のスタッフが屋久島店に常駐、島民として、現地になじんでいく。ちなみに、彼女らが手にしているのは屋久島店のオリジナル商品。この地の緯度と経度が描かれたTシャツとマグボトルだ。約20坪と限られたスペースの店舗ながら、登山客が多いという屋久島の特性からベーシックな登山用品はひととおり置かれている。壁面にはトレッキングに必要なギアがディスプレイされ、屋久島の森では必需品という携帯トイレも並べられている。親子で訪れる旅行者にも対応するべく、子ども向け本格ウェアのコーナーもある。

左から山本康平さん、店長の濱田真子さん、羽田野利紗さん

これらの品揃えの先に見据えているのはズバリ、リピーター客だ。

「屋久島は世界的に有名な大自然の島。国内外から非常に多くの旅行者がいらっしゃいます。海外からのお客さまは、まず富士山を訪れ、次は屋久島に向かうというのが定番になっているようです。ただ、その多くは有名な縄文杉を見たら満足され、屋久島訪問はそれで十分、となってしまう。つまり、リピーターが少ないことがこの島の課題なのです。屋久島の西部林道は世界自然遺産に選ばれています。ウミガメが産卵する美しい浜もあります。この店は、屋久島のそうした縄文杉以外の新たな魅力を伝え、一度、屋久島を訪れた皆さんには必ずリピーターになっていただけるよう、情報発信していく場になればと考えています」(前出・森さん)

というわけで、多くの屋久島ビギナーが求めるであろう登山・トレッキング用品などのレンタル業務も、ザ・ノース・フェイス 屋久島ではおこなっていない。限られた人員、スペースでのオペレーションの問題もあるが、現地では、すでにそうした業務で生計を立てているレンタル業者もいる。彼らと競合状態になることは避け、なるべく共存共栄していきたいとの想いがあるからだ。

そんな同店の進出を、島の人びとも歓迎している。宮之浦地区で食堂を営む女性は、

「屋久島には洋服屋さんが一軒もないんです。これまでは、(九州本土の)鹿児島に船で渡ったときに、向こうでまとめ買いするしかなかったのですが、オシャレなノースフェイスさんの服が地元で買えるようになるとは! うれしいですね」

と語ってくれた。

開店前日の3月15日夕刻、同店は「多くの島民の皆さまをご招待した」(関係者)うえで、お披露目パーティを開いた。屋久島の食材をつかったケータリングのフード&スイーツと、特産の柑橘「たんかん」の濃厚ジュース、クラフトビール、屋久島サングリアなどをたくさん用意して。

振る舞われたのは、屋久島産黒豚のパンチェッタとアスパラガス、フルーツトマトとカニのサラダ、屋久島産黒豚と屋久島産新たまねぎのキッシュ、屋久島産黒毛和牛のブレザオラのブルスケッタ、生ハムとフロマージュブランのグジェール、屋久島産ほうじ茶と屋久島産平内卵のプリンなど。どれも美味!

午後5時、島の人たちが続々と環境文化村センターに集まってくる。家族連れ、年輩の夫婦、女性グループ、子どもたち……。最初は皆、遠慮がちに。そのうち慣れてくると、思い思いに店内を見て回り、ケータリングフードを手に取って、環境文化村センター前庭などに座り、飲んで食べて笑って……と楽しんでいた。

お披露目のパーティは、あたりがすっかり暗くなるまで続いていた

語り部の案内で、宮之浦の“過去といま”を知る

そんな光景を眺めつつ、取材班は「ぶらぶら宮之浦」の語り部・長井三郎さんのガイドで、宮之浦集落を散策した。長井さんは同集落の生まれで、雑誌の編集者や新聞記者などたくさんの職を経て、いまは民宿「晴耕雨読」を経営する地元案内の達人。屋久島に関する著書もある。

益救(やく)神社を案内する長井さん。とにかく知識が豊富

彼の口上(説明)は立て板に水のごとく、軽妙でユーモアたっぷり。まず案内されたのは、益救神社だ。

「社殿は江戸時代の1685年、薩摩藩によっていったん建てられましたが、1945年にアメリカの爆撃で消失、戦後の1954年に立て直されました。かつてはこの本殿の裏を森林鉄道が走っていました。縄文杉のある高塚山から鉄道が木を運んで下りてきて、いまは環境文化センターになっている広場、あそこは昔、貯木場だったんで、いったんそこに置かれ、船で鹿児島に運ばれたのです」

緩やかな「3寸5分」勾配の屋根をもつ住宅。ときに厳しい屋久島の気候に合わせた工夫だ

メモを見るでもなく、スラスラ語る長井さん。こんな調子で、この地域の住宅の屋根の傾斜が他地域に比べ緩やかなことも教えてくれる。

「台風が多いこの地域では、こうした『3寸5分勾配』の緩い傾斜の屋根にして、強風にまともに受けることなく、しかし雨水は流れるように工夫しているのです。これなら屋根を修理するときも楽に、安全に作業できますしね」

宮之浦の“映え”スポット、湯川橋

ブラブラ宮之浦ツアーを終え、宮之浦側にかかる湯川橋の夕景を眺めながら思う。この豊かな自然と人びとのまちに、アウトドアのプロ中のプロ、ザ・ノース・フェイスが加わったことは、きっと吉と出るに違いないと。

──【中編】に続きます──

Photo:横江 淳、Text:FRaU

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