おいしいコーヒーA to Z① ブラジル、ベトナム、コロンビア…生産地でこんなに違う「コーヒー豆」と「農園事情」
いまや、私たちの生活になくてはならない存在になっているコーヒー。その多くがブラジルなどの中南米、エチオピアなどのアフリカ、ベトナムをはじめとする東南アジアで生産されています。ひとくちに「コーヒー」といっても、豆の種類や生産地によってその味わいはさまざま。世界中の農園と取り引きをする商社で「コーヒーの買いつけひと筋30年」という町田武陽さんに、知っているようで知らないコーヒー豆の基礎知識を教えてもらいました(前編)。
大農園のブラジル、生産量激増のベトナムがコーヒー生産ツートップ
コーヒー事業の責任者として原産地を訪れながら、さまざまなコーヒーを日本に紹介してきた町田さん。なかでもコロンビアには5年ほど駐在し、思い入れが強いという。
「コロンビアは現在、世界第3位のコーヒー生産国です。コロンビアにはおよそ50万世帯の生産者がいるといわれ、基本的には零細農家が中心。コーヒー畑は各々1ヘクタールほどの広さしかありません。ほぼ家族経営で、起伏が激しい山の斜面につくられている畑が多く、収穫は人の手で一つひとつ摘まれています。周辺の生産国、グアテマラやホンデュラス、ニカラグアなんかも山の斜面に小さな家族経営の農園が点在しているイメージです」(町田さん、以下同)
コーヒー生産量の世界第1位は、同じく南米のブラジル。コロンビアとは対照的に、大規模な農園が多いそうだ。
「もちろん小さい農園もありますが、企業が経営する大規模農園が多いのが特徴。比較的平坦な土地にコーヒー農園が広がっています。収穫も人の手ではなく、トラクターのような大きな機械ではたき落としていくのが主流です」
世界第2位の生産国、ベトナムのコーヒー農園。町田さんがコーヒーに関わるようになった30年前は、ベトナムのコーヒー生産量はほぼゼロだった
コーヒー発祥の地については諸説あるものの、アフリカのエチオピアや中東のイエメンあたりがルーツだ、といわれている。 「基本的には、アフリカなのではないかという説が多いですね。そこから南米や東南アジアに伝わって、さかんに栽培されるようになったのでしょう。世界第2位のコーヒー生産国はベトナムですが、私がコーヒーに関わるようになった1992年の時点では生産されていませんでした。当時の東南アジアでは、インドネシアが一番の生産国でしたね。そこから国をあげて、一気にコーヒー農園が開かれていきました。現在では、ラオスやミャンマーなどの国々でも生産されています」
高校生のころ、試験前の眠気覚ましとしてインスタントコーヒーを飲んでいたと町田さん。「大学時代は当時たくさんあった喫茶店に仲間と集まって、よくコーヒーを飲んでいました。あのころはコーヒーが自分のライフワークになると想像すらしていませんでしたね」
こうして中南米、アフリカ、東南アジアなどで生産されているコーヒー。コーヒー豆にはいろいろな種類があるものの、大きく分けると3種類しかないと町田さん。
「アラビカ種とロブスタ種、そしてリベリカ種が3大原種といわれています。ただ、リベリカ種はほとんど流通していないので、アラビカ種とロブスタ種をおさえておけばいいでしょう。ブラジルやコロンビアなどの中南米は、アラビカ種がほとんど。東南アジアではロブスタ種が主流で、ベトナムは95%強がロブスタ種です」
ブラジル、エチオピア、ザンビアなど、世界中の生産地から届く豆を使用したimperfectのコーヒー。農園が見えるシングルオリジンのスペシャリティコーヒーが揃う
おいしい一杯は、生産者たちの努力でできている
比較的育てやすい丈夫なロブスタ種に比べ、アラビカ種は繊細で虫や病気にも弱い。また生産される国の気候や地形、土壌によって、同じ種類の豆でも味わいが変わってくる。
「コーヒーの収穫は、基本的に年に1回。ただしコロンビアでは、1年に2回収穫できます。とくにアラビカ種は霜や干ばつといった異常気象に襲われると、壊滅的な被害を受けてしまう。そうなると農家はその年の収入が激減し、世界のコーヒー相場にも大きく影響します。なんとか安定的な収入を得ようと、品種改良を試みたり、ヘクタールあたりの苗木数を増やしたりと、世界中でさまざまな取り組みがおこなわれているんですよ。たとえばベトナムでは、コーヒーだけでなくドリアンやパッションフルーツ、マンゴーなど、さまざまなフルーツも育てる農家が増えています」
私たちが何げなく口にしているコーヒーには、生産地の方々の努力や工夫が詰まっているのだ。いつものコーヒーがどこから、どんな人の手を通って届いているのか──。ときには、そうしたストーリーに思いを馳せてみよう。
【こんな記事も読まれています】
「どうつくられた?」を知るのも楽しいエシカルファッション7選