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飼育歴134年でついに成功! 上野動物園に「ゾウの赤ちゃん」が誕生するまで
飼育歴134年でついに成功! 上野動物園に「ゾウの赤ちゃん」が誕生するまで
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飼育歴134年でついに成功! 上野動物園に「ゾウの赤ちゃん」が誕生するまで

子どもたちが大好きな「象さん」は、動物園に欠かせない花形スター。けれども、野生のゾウも動物園のゾウも、年々数を減らしているといいます。そこで東京・恩賜上野動物園では、毎年8月12日の「世界ゾウの日」に、象が置かれている現状などについて、広く知ってもらうイベントを実施。2022年には、「動物園が未来のゾウたちにできること」をテーマに動画配信を行いました。その内容と、未来のゾウたちのために、「私たちができること」をレポートします【メイン写真:(公財)東京動物園協会提供】。

ゾウの繁殖チャンスは、一年にたったの3回!

上野動物園にはじめてゾウがやってきたのは134年前の1888年。なんと明治時代にさかのぼる。ゾウは,アジアゾウ,アフリカゾウ,マルミミゾウに分類されるが、日本国内で飼育されているのはアジアゾウが中心。日本動物園水族館協会加盟園の飼育頭数は、2012年は36園館で73頭だったが、2021年は31園館で81頭となっている。

しかし、イベントで上野動物園の取り組みについて話をした飼育担当の三塚修平さんによると、「現在ゾウを飼育している31園のうち、繁殖適齢期のゾウをペア飼育している園館数は13園館だけ」だそう。

岐阜大学の動物繁殖学研究室の楠田准教授(左)と、上野動物園でアジアゾウを担当して15年になる三塚修平さん。研究室と動物園は互いに連携しながら、「ゾウの繁殖」という難題に挑んできた

ゾウは動物のなかでも、とくに繁殖が難しい種だ。その理由のひとつに、オスの飼育頭数が少ないことが挙げられる。2021年に日本国内で飼育されているオスのゾウは20頭強のみ。メスは60頭近く飼育されていることから、いかに少ないかがわかるだろう。オスが敬遠されがちな理由は、年に数回かなり攻撃的になる「マスト期」があるためだという。

野生のゾウは、メスを中心に血縁関係のあるゾウたちが群れで暮らしている。そうした環境下で、メスの子ゾウたちは自然に交尾や妊娠、出産、子育ての知識を得ていく。だが、動物園などでは「雌雄ペア飼育」や「雌単独飼育」が多く、なかなか野生に近い学習環境を整えることが難しいのが現状だ。イベントでゾウの繁殖などについて説明を行った岐阜大学応用生物科学部で動物繁殖学研究室・動物園生物学研究センター長の楠田哲士准教授によると、排卵周期や妊娠が哺乳類最長というメスゾウの繁殖生理が特殊であることや、メスの発情がわかりにくいことも、ゾウの繁殖の管理を難しくさせているという。

親子連れを中心に多くの来園客が観察するなか、食事をするメスの「スーリヤ」

そんなわけで、ゾウ飼育歴140年!近い上野動物園がはじめて繁殖に成功したのは2020年のこと。オスの「アティ」とメスの「ウタイ」との間に、オスの赤ちゃん「アルン」が誕生したのだ。楠田准教授と三塚さんたちの試みがスタートしたのは、アルン誕生の実に19年前。繁殖目的でアティとウタイの同居をスタートさせ、2014年からは園内で血中ホルモンのリアルタイム測定を開始した。これは「プロジェステロン」というホルモンを測定することで排卵周期を予測し、妊娠するタイミングを判断するというものだ。

翌年にはめでたくウタイの妊娠が発覚するが、残念ながら流産してしまう。その後も粘り強く試みを続けた結果、2019年に2頭が交尾し、その後妊娠が確認された。残念ながらオスのアティは2020年の8月に病気で亡くなってしまうが、その2ヵ月後にウタイが出産。元気でやんちゃなオスの子ゾウ、アルンが誕生した。

世界ゾウの日にあわせて展示されていた、上野動物園に暮らした歴代ゾウたちのパネル。名作絵本「かわいそうなぞう」で有名な「ジョン」「トンキー」「ワンリー」の、ありし日の姿も
 

すべては未来のゾウたちを守るために

「世界ゾウの日」のイベントでは、楠田准教授率いる岐阜大学動物繁殖学研究室の活動も紹介。全国の動物園や水族館とともに、さまざまな動物の繁殖を研究しているという。ゾウだけでも国内30近くの施設と共同研究をしてきており、いくつかの成果が出てきている。名古屋市東山動植物園ともさまざまな共同研究をおこなっており、「アヌラ」が2013年に「さくら」を出産、2022年には第2子となるメスの赤ちゃん「うらら」の繁殖に成功。母親や姉に甘えるかわいい赤ちゃんゾウの姿は、多くの来園者をトリコにしている。

現在スーリヤは、ウタイ&アルン親子とは別居中。柵越しに接する3頭の様子を見ながら、同居可能かどうかを慎重に見極めていくという

各施設で飼育されているゾウの繁殖数を増やすためには、5つのポイントがあると三塚さん。まずは群れ飼育が可能な施設を増やすこと。次に、動物園同士のさらなる情報交換や技術交流が必要だという。すでに相性や年齢、体格がマッチするカップルが成立するよう、各園が連携してゾウを移動させているケースもある。こうした「園間移動」が3つ目のポイントになるが、ゾウは体が大きく移動させるのもなかなか難しい。そこで4つ目のポイント、「人工授精」がキーワードになってくる。これらに役立つ繁殖研究を、動物園だけでなく大学などの研究機関と連携して進めていくことが、繁殖の成功率を高めるための5つ目のポイントだ。

それにしてもなぜ、長い時間をかけてゾウの繁殖を試みる必要があるのだろう。理由は「実際に生きているゾウをみんなに見てもらうことが、未来のゾウを守ることにつながる」からだという。

「ゾウを好きになって、ゾウに対する理解を深めてもらいたい。そして、動物園や大学の研究を応援してもらえたらいいなと思っています。動物園は繁殖に取り組むだけでなく、ゾウについて研究を進め、その魅力や野生のゾウの現状を多くの方々に伝える役割を担っているのです」(三塚さん)

photo:(公財)東京動物園協会(ウタイとアルン)、横江淳 text:萩原はるな

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