「未来につながる魚選びを!」三浦マグロ問屋の挑戦
食べることは、生きる基本。だから、子どもは食育を通して食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は目まぐるしく変わっています。深刻化している貧困問題や食品ロス問題。漁業も、農業も大きな転換期にあります。未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。今回は、危機に直面している日本の海と魚を守る実例をご紹介します。
「幼魚&巻き網漁の魚は扱わない」
“目利き”ゆえのこだわり
魚の流通において、生産者と小売店の間に立つのが卸売業者。神奈川県・三崎漁港を拠点とするマグロ専門の卸問屋「三崎恵水産」では、2012年より「近海のメジマグロ(10kg未満のマグロ)および、巻き網漁で獲られたマグロは扱わない」というポリシーを掲げている。
マグロの漁法にはいろいろあって、巻き網漁は大きな網で魚を囲い込み一網打尽にする漁獲法。一度に大量の魚が獲れるが、混獲や十分に成長していない魚が網に入ってしまうこともある。
「このポリシーを掲げるに至った背景には、海の資源枯渇の問題もありますが、一番は質のいいマグロを届けたいという想いからです。マグロの品質を保つには、漁獲した船上で活け〆にして、血や内臓を抜くことが重要です。一本釣りや延縄(はえなわ)漁では活け〆が基本ですが、一度に大量に漁獲する巻き網漁では物理的に難しい。問屋はプロの目利きですから、品質の劣るマグロをあえて選んで流通させようとはしない。その選択が結果的に水産資源を維持することにつながればいいというのが私たちの姿勢です」(三崎恵水産代表・石橋匡光さん)
一度にたくさん獲らなければ、その分値段は高くなる。実際、三崎恵水産で販売するマグロは、巻き網漁で獲れたものに比べて高価だ。
「安さが一番という傾向が根強いですが、私たちが目指すのは、ご馳走としてのマグロ。味はもちろん、どんな場所でどんなふうに獲られたものなのか、知ったうえで食べる旨さというのが必ずある。そんなマグロをハレの日に食べる。それなら多少値が張っても、いい気分になれると思うんです。食べるものをどんな価値基準で選んでいくのか。そのポリシーを同じくする生産者、消費者をつないでいくのが僕たちの役割。魚の正しい知識・情報を伝えることも含め、問屋という存在意義を考え続けていきます」
●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Tadayuki Aritaka, Nobuki Kawaharazaki Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子