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バスケット事業を通じて、ルワンダの女性たちにおこった変化
バスケット事業を通じて、ルワンダの女性たちにおこった変化
COLUMN

バスケット事業を通じて、ルワンダの女性たちにおこった変化

何げなく手に取ったひとつのバスケットがきっかけで、縁もゆかりもなかったルワンダと出合った小澤さん。以後14年、ルワンダの女性たちの生活を改善させるべく、フェアトレードを展開してきました。小澤さんとルワンダ女性をめぐるストーリー、後編をお届けします。

ルワンダ女性たちとの試行錯誤

2009年にルワンダに渡った小澤さんは、首都キガリから車で2時間ほどのところにある、ルイーズさんが住む家を訪ねた。ルイーズさんは小澤さんをルワンダに引き合わせた人物。ルワンダでの大虐殺から生き延びた彼女が来日し、横浜のアフリカフェアで紹介していたバスケットが、小澤さんをここまで呼び寄せたのだ。

「キガリには複数のバスケット生産者組合があり、ルイーズが所属する組合には、すでにドイツからの資本支援が入っていました。ならば、もっと困っている組合を助けようと、大変な状況にある別の組合と取引をはじめることにしたのです。けれども、いざ日本に帰って、その組合から届いたバスケットを見てみたところ、ドロがベットリついていたり、サイズがまちまちだったり、編み方がゆるくてフニャフニャしていたりと、思ったようなクオリティではありませんでした」

いまの時点できちんと問題点を伝えないと、生産者たちはやる気にならないのではないか。そう感じた小澤さんは、何が問題で、日本の消費者はどんなものがほしいのかを、女性たちにていねいに伝えた。

「寸法を測るという意識がなかったので、まずは『Sサイズは何cm、Mサイズは何cm。誤差はプラスマイナス1cmまで』と説明。バスケットにドロがついていた理由は、彼女たちが手を洗わずに作業をしているからだと判明したので、『作業前、必ず手洗いするように』とお願いしました。組合には石けんがないと聞いて、『そこからやらなきゃいけないんだ!』と衝撃を受けました。

そこで、タライと石けんを組合に送り、現地でバスケット制作のワークショップも行うことで、だんだんと質のいいバスケットが生産できるようになっていきました」

「ルワンダの女性たちは素直でシンプル思考。学ぶべきことがたくさんあります」。

こうして軌道に乗りはじめたルワンダバスケットの生産・販売。小澤さんのオーダーどおりにルワンダの女性たちがバスケットを生産し、正当な対価を得るというビジネスモデルができあがっていった。ブランドネームは「RuiseB(ルイズビィ)」。ルイーズさんとルワンダの頭文字のR、バスケットのBを合わせて名づけた。「ルイーズ=全世界に暮らす、困難を余儀なくされている女性たち」がつくる「B=バスケット」という意味がこめられている。

「子どもの学費が払えるようになったとか、家畜を飼いはじめたとか、彼女たちの生活にいろいろな変化が生まれました。エイズなどの感染症にかかったり、虐殺時のトラウマで精神を病んでいたりと、まだまだ死と隣り合わせなのがルアンダ女性の現状。そんななか『薬が買えて、元気になった』などと聞くと、やはりうれしいですよね。

バスケット製作で得たお金を元手に、マッシュルームの栽培ビジネスを始めるなど、副業をスタートさせた女性がいます。こういうバイタリティーがあふれる人もいれば、その一方、不器用でいつまでたってもバスケットがうまく編めない人もいる。私は後者かもなあ、などと思いながら、ルワンダ女性たちの変化を頼もしく見ています」

ルワンダバスケットの材料はすべて植物。使い終わったら土に還る、サステナブルな伝統工芸品だ。

もっとも、いろいろな人たちが、それぞれの生活を抱えているため、ひと筋縄でいかないことも多くある。

「スタート時は現地の複数の組合とビジネスをしていましたが、なかには卸してくるバスケットのクオリティが低く、納品率も悪い組合があります。そういう組合には、生産者を束ねるリーダーがいないのです。そこでやむなく、クオリティの高いバスケットをつくっている他の組合のリーダーを教育係として派遣してみました。すると今度は、その教育係の方が、よい製品のつくり方を派遣先ではまったく教えてくれないという問題が発生しました。

なぜ、派遣先ではノウハウを教えてくれないのか。理由を聞くと、『だって、コツを教えてしまったら、私たちの仕事が減ってしまうじゃない』と返ってきました。『たしかにそういう部分はあるかもしれないけれど、ルワンダバスケット全体のクオリティが上がれば、やがて、みんなに入るお金が増えるのよ』と、なんとか指導をしてもらうように説得しました」

ルワンダバスケットには、それぞれ模様や色によって、「握手」「空」「希望」などのテーマが表されている。photo:横江淳

「素敵だと思って買ったら、たまたま社会貢献できるものだった」が理想

ルワンダとの出合いは、小澤さん自身にも大きな変化をもたらしたそう。

「かつてインテリア業界で家具を売っていたときには、もちろんビジネスとして仕事をするんですが、『何で私は、この家具を売るんだろう。誰の役にも立ってないんじゃないか』とモヤモヤする気持ちがあったんです。

けれどもルワンダバスケットの場合は、これを日本の方々に紹介して買ってもらうことで、必ずルワンダで潤う人たちがいる。『私がしたかったのは、これだ!』と思いました。はじめて仕事の手応えを身をもって感じることができ、意味を見出すことができたんです」

小澤さんがこの事業を通じて伝えたいのは、「女性たちの強さ」だ。

「私自身、若くない年齢で未経験ながらこの世界に飛び込み、困難な生活を余儀なくされているアフリカの女性たちと関わることで、多くのことを学ばせてもらいました。私の経験を日本のみなさんにお伝えする機会があるたびに、人生のターニングポイントで迷われている女性たちに『勇気をもらった』などとの言葉をいただけるのがうれしいんです」

じつは小澤さん自身、いまでもフェアトレードや社会貢献にちょっとした苦手意識をもっている。

「なんかくすぐったいというか、少しコンプレックスのようなものがあるんです。これまで海外に住んだことも、ボランティアに熱中したこともないし、いつもいいことばかりを考えているわけでもないし……。

けれどもきっと、私のような人っていっぱいいるんですよ。買いもので社会貢献はしたいけれど、いいと思ったものしか買いたくない。『社会貢献のために買ってください!』なんていわれちゃうと、腰がひけてしまうんですよね。だからルワンダバスケットは、フェアトレード製品の専門店ではなく、自分と似た感覚の人たちが訪れるようなインテリアショップに置いてもらいたかったんです」

実際にルワンダバスケットを手にとった客は、ものの魅力やクオリティを入り口に、その背景にあるストーリーを知っていく人が多いという。

「素敵だと思って買ったら、たまたま社会貢献につながっているものだった。そんな経験で意識が変わることがあると思うんです。10年以上ルワンダバスケットに関わってきて、細く長く続けていくことの大切さをつくづく感じています。これからも責任をもって、よりよいオリジナル製品を追求していくことで、ビジネスを継続させていけるといいなと考えています」

text:萩原はるな

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