[from Nice]ヴァンナチュールの魅力的な世界【前編】by Wakana Kawahito
世界のサステナブルを紹介するfrom the WORLD。フランスからはニース在住の川人わかなさんがリポートします。今回は日本でも人気の自然派ワイン「ヴァンナチュール」について。
ロック音楽とワイン
20代前半はそこまで良さが分からず、親が飲んでいる時とか友達のホームパーティに呼ばれたとか、そういうキッカケでしか飲まなかったワイン。しかし、27歳を過ぎた辺りでだんだんワインの魅力に気がつき、飲む機会も増えていました。ただその頃、日本でヴァンナチュール(Vin nature=自然派ワイン)はほとんど入荷されていませんでしたし、あったとしても有機栽培のぶどうを使っているというだけのワインで、製法にこだわったり、今のように厳しい基準でつくられたりしたものはありませんでした。その後渡仏し、ヴァンナチュールのガツンとした荒削りな様子にワインの固定観念を覆され、すっかりヴァンナチュールの魅力にはまってしまいました。昔は良いワインと言えば、なんとなくクラシック音楽のようなワインを想像していたのですが、ヴァンナチュールは、いわばロックやヒップホップ、インディーズ音楽のようなワイン。品行方正なイメージとはまた違う世界にどんどん引き込まれていきました。
ヴァンナチュールとは何か
最近日本でもヴァンナチュールを提供するバーやレストランが増えてきたため、一度は耳にしたことがある人も多いかもしれません。でも実際のところ、ヴァンナチュールとは何かを知った上で飲んでいる人は少ないのではないでしょうか。実はその定義は曖昧で、自然に近い形でつくるという考えのもとで生産されているワインの総称がヴァンナチュールです。基本的には、農薬や化学肥料を使用しないぶどうからつくられており、発酵には自然の酵母を使用し、無濾過や軽いフィルターを通しての濾過で瓶詰めされています。また、小規模生産であることも重要な要素です。そもそも、有機農法でぶどうを栽培し、自然酵母で発酵させると、どうしても大量生産はできません。ほとんどが手作業になるからです。その分、ぶどう本来の味やテロワール(風土)の特徴が強く出た、個性的なワインになります。
日本でもよく聞くオーガニックワインやビオワインとの違いは何でしょうか。ビオロジック(有機)農法や、さらに厳しいビオディナミック農法のぶどうを使ってつくられ、オーガニックワインと謳う場合、フランスでも日本でもオーガニック認証を取らなければなりません。認証を取得していないものを日本ではビオワインと呼ぶことが多いようです。この場合、ワインの製法については基準がありません。
フランスでは、小規模生産の農家にとってオーガニック認証の費用や手続きの負担が大きく、厳しい基準をクリアしていても、あえて認証を取らないケースもあります。そのため、認証の有無よりも、それぞれの生産者の姿勢や製法へのこだわりの方が重要です。つまり、オーガニック栽培のぶどうを使っていて、オーガニック認証を受けていても、生産や収穫、発酵に機械を用いて大量生産されたワインはヴァンナチュールといえるのか、という話にもなってきます。
【後編】はヴァンナチュールの誕生の理由やワイン農家の想いなどについてご紹介します。
川人わかな/ライター・コーディネイター
フランス・ニース在住。東京にて編集者として勤務後、2011年に渡仏。フランスを拠点に取材場所はヨーロッパ全域に亘る。主なテーマは、サステナビリティ、食、アートなどのライフスタイル。ウェブサイトや広告、TVの撮影コーディネイトも手がける。著書『世界の夢のパン屋さん』(エクスナレッジ)