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小林エリカ×パク・ソルメ「文学から考える日韓フェミニズム」【中編】
小林エリカ×パク・ソルメ「文学から考える日韓フェミニズム」【中編】
VOICE

小林エリカ×パク・ソルメ「文学から考える日韓フェミニズム」【中編】

社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「ジェンダーと物語」のテーマを軸に、漫画家・作家の小林エリカさんと作家のパク・ソルメさんに語り合ってもらいました。

▼前編はこちら

固定化された女性像。
それを破っていきたい

小林 以前、作家のアリス・マンロー(短編小説の名手として知られるカナダ人作家。2013年にノーベル文学賞受賞)が「フェミニスト作家と呼ばれることについてどう思いますか?」と尋ねられたときに、「フェミニストという言葉が何を意味するかいつもちゃんとわかっているという自信はないですが」と前置きしてから「女たちの経験は重要だと考えている点において自分はフェミニストだと、そう思っています」というふうに答えたという話を、彼女の著書『ピアノ・レッスン』の訳者・小竹由美子さんのあとがきで読んだんです。そのときにすごく腑に落ちて。だとしたら私もフェミニスト作家であるし、私もパクさんのように、男女の二項対立ではなく、自分を含めてさまざまな個性やバックグラウンドを持った女性一人ひとりのことを思って、そのディテールを大切に描きたいと思っています。それをどう捉えるか、その判断は読んだ人の自由だし、委ねたいという気持ちがあります。

パク 多くの人の頭の中で固定化された女性像や考え方を破りたいですね。

小林 パクさんはどうしてそう考えるようになったんですか?

パク 韓国の近代文学は男性を根幹にして発展してきたものですが、ジェンダー意識の高まりとともに、女性にまつわる物語を自由に創作できるようになった部分は大きいです。

小林 日本の近代文学も同じだと思います。

パク 私は村上春樹氏の作品が好きで昔から愛読しているのですが、あるとき、「私はまだ若い女性なのに中年男性の気持ちがものすごく理解できている……!」とつくづく思ったんです。

小林 その気持ち、すごくよくわかります! 私も村上春樹さんの小説が好きすぎて、それで漢字を覚えたほどなのですが、小さな頃から読み込みすぎたせいか、女というのは中年男性の“やれやれ”みたいなことにつき合っていくものなんだってずっと信じていたんです。大人になってそれに気がついてちょっとトラウマというか(笑)、驚いたんです。でもパクさんや、多くの女性作家が描いた色々な種類の女性の生きざまに触れて、男性目線から描かれた女性像だけに合わせていくような生き方をしなくていいんだ!と感動したんです。だからこれからも、もっと多様な女性像に触れたいし、幼い頃にもっとそういう作品を読めていたらよかったなとも思います。ですから近年のフェミニズム文学のムーブメントにはすごく勇気をもらっているんです。

パク そう言っていただけてうれしいです。小林さんはどんなふうに女性を描いていきたいと思っていますか?

小林 私はこの10年ほど「目に見えないもの」をテーマに放射能の歴史や原子力にまつわる作品を発表したり、アンネ・フランクや実の父親が残した戦時中の日記をモチーフにした小説などを書いています。こう説明すると、すごく大きな歴史を扱っていると思われがちですが、歴史をそのまま描こうとすることはあまりなくて、その大きな歴史のなかに生きている、あるいは生きていた人間を描きたいと思っています。もちろんそこには女性だけじゃなく男性もいるのですが、歴史書などに記されているのは武将とか男性のことばかりが目立ちます。でもそこには必ず女性や子どももいたはずですから、その人たちがどういうふうに生きていたのか、その詳細をできる限り調べて書き残したいと思っているんです。

パク 私が「こんな女性、どう?」と読者に提案するのに対して、小林さんは実在した女性たちの人生に光を当てて、さまざまな女性像を表現したいと考えているんですね。

小林 女性はもちろん、歴史に書き記されなかった弱い立場の人々の声を聞きたいというのが創作の根幹にあります。それは個人個人が生きていくにあたってとても大切なことですし、人間が生きるという根源的なことにつながっていくと思っています。

▼後編につづく

PROFILE

小林エリカ Erika Kobayashi
1978年、東京都生まれ。著書に小説『マダム・キュリーと朝食を』、コミック『光の子ども』など。近著に小説『最後の挨拶 His Last Bow』。2021年、初の絵本『わたしは しなない おんなのこ』を刊行。小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』はフランスで翻訳されるなど世界的に活躍。

パク・ソルメ Bak Solmay
1985年、韓国・光州広域市生まれ。2009年に長編小説「ウル」で子音と母音社の新人文学賞を受賞しデビュー。14年、「冬のまなざし」で第4回文知文学賞、16年短編集『じゃあ、何を歌うんだ』でキム・ヒョン文学牌を受賞。いま、文壇でもっとも独創的な作品を書くと注目されている。

●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Illustration:Erika Kobayashi Text:Yuriko Kobayashi Coordination:Shinhae Song (TANO International) Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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