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松田青子×松尾亜紀子が語る、フェミニズムの現在地【前編】
松田青子×松尾亜紀子が語る、フェミニズムの現在地【前編】
VOICE

松田青子×松尾亜紀子が語る、フェミニズムの現在地【前編】

社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「フェミニズムの現在地」のテーマを軸に、作家の松田青子さんと「エトセトラブックス」代表の松尾亜紀子さんに語り合ってもらいました。

自分にとってフェミニズムは
核にあるもの(松田)

『おばちゃんたちのいるところ』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』など、フェミニズムに根ざした作品を書いてきた作家の松田青子さん。フェミニズム出版社・エトセトラブックスを立ち上げた編集者の松尾亜紀子さん。数年来の友人であるふたりに、フェミニズムの実践として本を書き、出版することについて語ってもらった。

左・松田青子、右・松尾亜紀子

松田 松尾さんと初めて会ったのは、2013年に河出書房新社から最初の単行本『スタッキング可能』を刊行した時です。当時、担当編集は別の方でしたが、松尾さんはその出版社で働いていて。私が会社で取材を受けていたとき、つかつかつかとやって来て、いきなり「本おもしろかったです、最高のフェミニズムです!」と言ってくれた。私にとって印象的な出会いです。

松尾 私もよく覚えてます。『スタッキング可能』をはじめて読んだときは、「これ、すごいんだけど!」って叫びました。

松田 実は『スタッキング可能』は、フェミニズムを意識して書いていなかったんです。自分にとってこの社会がどう見えるか、自分がずっと感じているこの違和感は何なのかを物語にすることに集中していました。それをフェミニズムだって言ってくれたのが松尾さん。

松尾 意識しないで書いたなんて。私は当時ジェンダーやフェミニズムの本を意識的につくり始めたころで、それまでもフェミニズムの本は読んでいたけど、同じ時代、同じ言語、同じ世代の作家が言葉にしてくれて、自分もこういうふうに感じてきたと気づけて、すごくうれしかった。

松田 あのとき、松尾さんが「周りの女性たちがすごく喜んでる」って言ってくれて、それがひとつの指針になったんです。私が感じていること、私が書きたかったことは間違っていなかったんだと思えたし、女性たちが喜んでくれたことが本当にうれしかった。

松尾 私が独立してエトセトラブックスをつくるきっかけのひとつも松田さんのひと言でした。『おばちゃんたちのいるところ』の英語版の出版が決まった頃ですよね。

松田 そうそう。Tilted Axis Pressというイギリスの出版社から翻訳出版されることが決まって。ちょうど2017年の夏にロンドンに行ったんです。Tilted Axis Pressは主にアジアの本を紹介する、フェミニズムにもとても意識的な独立系出版社です。

松尾 松田さんが帰国してすぐ、「松尾さんも独立すればいいじゃないですか」ってカジュアルに言われたんです(笑)。

松田 私、ぜんぜん覚えてないんですよ(笑)。イギリスにはその頃何度か行く機会があって、そのたびに松尾さんにPersephone Booksとか、フェミニスト書店やインディペンデント出版社の話をしていたんです。

松尾 その時はいやいや自分がまさか独立なんてって思っていましたが、同じ年の10月に伊藤詩織さんが『Black Box』で自身の性被害を訴え、#MeTooが始まり、2018年の1月には「反トランプ」を掲げたウィメンズ・マーチがおこなわれた。日本でも過去10年ぐらいSNSで徐々に可視化されてきたフェミニズムのうねりがまとまって見えてきたんです。私が手掛けてきたフェミニズムの本も、ある程度の売り上げや、SNSでの感想が返ってきて、必要としてくれている人たちがいることがわかった。であれば、もっと直に読者に届ける方法があるんじゃないかと。その時に松田さんの言葉が背中を押してくれました。社名をつけてくれたのも松田さんです。

松田 何かいい案があったら教えてくださいと松尾さんに言われていて、でも本人が決めるのが一番と思っていたのですが、本当にギリギリまで名前が決まっていなかったので(笑)。エトセトラブックスのエトセトラは、ジュディス・バトラーの『ジェンダー・トラブル』という本にある「無限のエトセトラ」という言葉からとりました。

松尾 名づけてもらったことによって、「これまでエトセトラ、『その他』扱いされていた無限の女性の声を届ける」というエトセトラブックスの方針が固まったんです。

▼中編につづく

PROFILE

松田青子 Aoko Matsuda
1979年、兵庫県生まれ。作家、翻訳家。2013年、『スタッキング可能』でデビュー。20年、英訳版『おばちゃんたちのいるところ』が、TIME誌やニューヨーカー誌の小説ベスト10にランクインし、レイ・ブラッドベリ賞の候補になる。近刊に『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』がある。

松尾亜紀子 Akiko Matsuo
1977年、長崎県生まれ。編集プロダクションを経て、河出書房新社に編集者として15年間勤務したのち、2018年に独立。フェミニズム出版社・エトセトラブックスを設立。21年1月、東京・新代田にフェミニストのための書店・エトセトラブックスBOOKSHOPをオープン。性暴力に抗議するフラワーデモ発起人。

●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Photo:Ayumi Yamamoto  Text:Obiko Takehana Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子

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