写真家・藤原幸一「ゾウや猿、ペンギンを絶滅に向かわせているのは、誰だ?」
気候危機という大きな困難を前にしても、立ち尽くすのではなく、一人ひとりが小さなアクションを積み重ねることで道は拓けるはずです。自ら積極的に学びながら、あるいは自然の最前線に身を置きながら、地球環境に目を向け、未来に向かって動き始める藤原幸一さんに話を聞きました。
異常気象で失われていく
ガラパゴスの原生林
世界各地に赴き、動物や植物のありのままの姿を通して気候危機を伝えている、生物ジャーナリストで写真家の藤原幸一さん。30年以上前から、少しずつ忍び寄っている温暖化や環境破壊に耳を澄まし、その危うい現状を叫んできた。動物が好きで、日本とオーストラリアで生物学を学んでいた藤原さんが、いまの活動に至ったきっかけは、オーストラリア北部のリザード島の海洋研究所から、ガラパゴス諸島や南極を訪れたことだった。
「オーストラリアといえば、グレート・バリア・リーフに、カンガルーやコアラをはじめとする有袋類の大陸。また、南側へ行けば、世界最小のリトルペンギンが生息している。ここでなぜ、独特の進化が起きているのか。生物について考えるうちに、進化論で知られるチャールズ・ダーウィンの人生を変えた、ガラパゴス諸島にあこがれを抱くようになりました」
インターネットなどの情報源もなかった時代、自力で情報を探るうちに、ガラパゴス諸島にも生物研究所があることを知った。現地に向け手紙を書き、1991年に初めての訪問が叶ったという。以来、20年間で35回ガラパゴス諸島を訪れている。
「大きなゾウガメが人間を恐れないことに驚く一方で、当時すでにそのうちの3種類が絶滅していることに衝撃を受けました。17世紀~19世紀初頭に海賊が食用にしていたからです。また、ガラパゴスの海域に数年に一度発生するエルニーニョが温暖化によって巨大化し、数ヵ月どころか1年も居座り続けるという異常な気象現象もあった。森の風景は変わってしまうし、ペンギンたちの半数が死んでしまう。アシカもいなくなる状況でした」
ガラパゴスに生きるあらゆるものが、いまもそうした危機に晒されているという。
「植物に関しては、島の固有種にもかかわらず関心を向けられていない。でも、動物以上に蝕まれているんですね。森の原生林はエルニーニョのたびになくなり、もう数十株しか残されていない種類もありました。これは手をこまねいていられないと、ガラパゴスの国立公園やチャールズ・ダーウィン財団に声をかけた。日本のNGOとも協力し、2007年から、外来種を伐採して種から育てた在来種の苗を森に植えることを、現地の高校のカリキュラムとして行っています」
人間の勝手な振る舞いが
動物たちを苦しめている
地球の変化を目の当たりにしたのは、ガラパゴス諸島でだけではない。95年頃には、藤原さんはもう一つの夢だった南極に上陸。以降14回訪れて、各地の現状を写している。
「初めて基地に滞在したときは、想像通りの美しい風景や、ペンギンの大群に圧倒されました。望んでいた風景が、目の前にあったんです。けれど、少し経つと、すごく大きな問題があるのが見えてきた」
ガラパゴスと同じように南極でも、温暖化による危機を目撃することになったという。
「南極は氷の大陸なので、夏場だけ3%ほど土が見えてくる。その永久凍土に人間は穴を掘って、100年以上ごみを埋め続けてきたんですよね。1997年の南極条約でごみの持ち帰りは義務化されましたが、2000年に入り温暖化で氷が溶け、過去に廃棄した恐ろしい量のごみの山が見え始めている。繁殖地を目指すペンギンが、ごみ山を越えようとして怪我をしたり、たどり着いた繁殖地でも、永久凍土が溶けて地面がひび割れ、子育てをする場所がどんどんなくなってしまっています」
ガラパゴスや南極のほかにも、藤原さんは世界各地を訪れている。過度の乾燥で動物たちが苦しむ砂漠がある一方で、エルニーニョで湖になってしまった砂漠もある。日本が輸出したリサイクルごみが東南アジアに集まり、恐ろしい量のプラスチックごみ捨て場と化している場所も。子どもたちは、換金できそうなごみをそこで拾い、業者に売って家計の足しにするため、学校へ行かなくなる。ベトナムやインドネシアの海洋汚染は激しく、野生のゾウや猿たちが海岸に漂着したビニールを喉に詰まらせ死んでいく。「こうした状況を伝えなければ」という使命感が、藤原さんを突き動かしている。
「人間が地球上で神のように振る舞っている。そのせいで、動物園で人気の動物でさえも絶滅危惧種になってしまっています。同じ地球に僕たちと共存している生き物たちが苦しんで絶滅に向かうのであれば、人間にとっても住みづらい地球になっているのは間違いありません。地球がいかに劣悪な生息環境になっているかということを知って、行動しなければと思いますね」
PROFILE
藤原幸一 ふじわら・こういち
生物ジャーナリスト、写真家、作家。秋田県生まれ。日本とオーストラリアの大学、大学院で生物学を専攻し、グレート・バリア・リーフにあるリザード・アイランド海洋研究所で研究者生活を送る。その後、野生生物や環境に視点をおき、世界中を訪れて、各地の状況を写真や映像で記録。テレビ、雑誌、書籍など、さまざまなメディアを通して伝えている。2007年から、ガラパゴス自然保護基金を立ち上げ、ガラパゴス原生林再生プロジェクトを主導。生物や地球の危機を写真と文で伝える児童書も多数出版している。主な著書に『環境破壊図鑑』『南極がこわれる』『マダガスカルがこわれる』『プラスチック惑星・地球』(以上、ポプラ社)、『ガラパゴスに木を植える』(岩崎書店)など。監修した訳書に『プラスチック・スープの地球』(ポプラ社)がある。www.natures-planet.com
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Koichi Fujiwara Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子