コムアイ「環境を意識すると、行動すべてが変化する」
気候危機という大きな困難を前にしても、立ち尽くすのではなく、一人ひとりが小さなアクションを積み重ねることで道は拓けるはずです。自ら積極的に学びながら、あるいは自然の最前線に身を置きながら、地球環境に目を向け、未来に向かって動き始めるコムアイさんに話を聞きました。
肌で感じて気づいた
命に関わる問題としての深刻さ
音楽を軸に、アートや身体表現など分野を横断した活動を続けるコムアイさん。政治についてもためらうことなく発信する彼女は、10代の頃からNGOピースボートの地雷撤去募金プロジェクトに携わるなどかねてより社会への高い関心を持っていた。そもそもアーティスト活動を始めたのも社会問題への発信力を高めたいとの思いからだったが、ここ数年はとくに、気候変動への危機感を募らせている。
「14年前は環境のことよりも、貧困や紛争のほうが、命に関わる大きくて緊急な問題だと捉えていました。でも、環境問題に取り組む方々と出会って話を聞いたり、実際に雨がスコールのようになり、豪雨や豪雪などの自然災害が国内でも増えて、気候の変化を肌で感じたりするなかで、気候危機は時間差殺人のように、人類と他の生命の土台を揺るがす大きな問題だと考えをあらためました」
さまざまな情報やデータが氾濫するなかで、自分自身で考える力を養いたいと、自ら学びの場へも積極的に足を踏み出している。
「報道や特番で危機を煽られるだけ煽られて、何をすべきかは教えられない。その状況に居心地の悪さを感じて、納得できる状況認識をしたいと国際環境NGO『350.org Japan』が主催する気候変動基礎クラスに参加しました。以前は気候が変動していても、私たちの行動が変われば時間をかけて自ずと落ち着くように思っていたんです。でも、ある一定値を超えると取り返しがつかなくなる『ティッピングポイント』が迫っていると知って。絶滅種だって元に戻らないし、いかに待ったなしの状況か理解できましたね」
すぐに生活を一変することはできない。けれども“できることから”と始めたのが、生活のなかでやむなく排出したCO2を別のアクションで埋め合わせるカーボンオフセットだ。
「仕事柄、国内外いろんな場所に行く機会があって、そのたびに飛行機に乗ります。昔はパスポートにスタンプがたくさん押してあるのを誇りに思っていたんですけど、飛行機での長距離移動で排出されるCO2は相当なもの。欧米では飛ぶことを恥とするFlight Shameという言葉も話題になったように、ジェットセッターは、もはや自慢できることではないんですよね。最近は『atmosfair』というサービスがあって、出発地と目的地などを入力すると、1回のフライトにつき自分が排出したCO2量を計算してくれて、金額換算してその分気候変動に取り組む団体に寄付ができるんです。意識を変える第一歩としてはいいかもしれません」
異国の文化や社会に触れると
未来のヒントが見えてくる
2022年7月、コムアイさんは歌の勉強のため、南インドのカルナータカ州に1ヵ月ほど滞在。コロナ禍前にも同じ街を訪れたという。
「インドは感染者が多かったので、街が衛生的に変化しているかなと思ったんですが、ぜんぜんそんなことなくて。除菌スプレーもなければ、通りのチャイスタンドではショットグラスを水洗いでつかい回して提供している。大丈夫かなと思う部分もあるけれど(笑)、高い衛生基準を保つために逆につかい捨てが増えるいまの日本にはヒントになることも多いなと。バナナの葉を固めたお皿をつかったり、屋内は暗めの照明で過ごしたり、クーラーでなく扇風機だけで過ごしたり。バスや電車は見た目はボロボロでも整備して長くつかってる。別の社会を見ることで、自分が住んでいる環境を見つめ直すきっかけをもらえますね」
他にコムアイさんが目を向けるのは、海外のアクティビストたちの動きだ。
「イギリスで生まれた環境保護団体に、『XR(エクスティンクション・レベリオン)』というのがあります。平和的な革命を研究する人たちが始めた抗議活動で、国際的なムーブメントになっていて。彼らのメソッドでユニークなのが『ふつうの人の日常生活の邪魔をする』こと。暴力性はないんですが、化石燃料の使用廃止を訴えるために石油会社の会議に乗り込んだり、森林破壊に抗議して公共の場で死んだふりをしたりなど、ある種の過激さはある。賛否はあるけれど、これだけ危機が迫るなかで麻痺している人々の意識を変えるには、強引さも必要なのかもと思います」
世界各国の動きに目を向けながら、情報を収集し考え続けるコムアイさん。
「私もそうであるように、環境のことを第一に行動できる人は多くないと思います。でも、環境問題を意識すると身の回りのすべての行動が変化する。日常を生きながらも、意識の根底にその目線を持ち続ける人が増えれば、社会は少しずつ変わっていくのかな」
PROFILE
コムアイ
1992年神奈川県生まれ。音楽グループ〈水曜日のカンパネラ〉のボーカルとして、2012年にデビュー。その独自の音楽性とスタイルで人気を博す。2021年9月に脱退してからは、ソロでの活動をスタート。北インドの古典音楽や能楽、アイヌの人々の音楽に大きなインスピレーションを受けながら音楽性の幅を広げて表現活動を続けるほか、社会問題や環境問題、政治に対する発信も積極的に行っている。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Emi Fukushima
Composition:林愛子