Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

3人で草木染めをはじめたアーティストが、山に学ぶこと【後編】
3人で草木染めをはじめたアーティストが、山に学ぶこと【後編】
VOICE

3人で草木染めをはじめたアーティストが、山に学ぶこと【後編】

美しい地球を構成する水、土、森、海、山、川、植物……。まわりにある環境を大切にすることはもちろんですが、そもそも自然とは人間が守ってあげるものではなく、むしろ私たちが守られ、多くのことを学ばせてもらう存在。今回は、山を舞台にした「COLORS OF MOUNTAIN」の学びのストーリーを紹介します。

▼前編はこちら

草木染めから広がっていく
自然と人のつながり

長野県にあるキャンプ場に泊まりながら山を歩き、枝葉を収集し、布を染めた3人の合宿。「山を歩いても、少しずつ3人の興味や視点が違っていて。景色に惹かれてどんどん歩いていく(真田)緑ちゃん、足もとの小さなものを探す(鈴木)優香ちゃん。私は植物ばかり見ています」と宮田有理さん。「『え、そんなもの見つけたの?』って、ひとりでは目に入らなかっただろうものに気づけるのも一緒に歩く楽しさ」と真田さん。「3人とも結局は山が好きで、ものづくりが好き。それぞれの視点を合わせて、見慣れた山の植物が持つ美しい色を探しています」と、しっかり者の鈴木さんがまとめる。絶妙にバランスの取れたトリオ

宮田有理さんもまた、自然からインスピレーションをもらっているアーティスト。山で出合った植物から着想を得てアクセサリーをデザイン、制作している。岡山県の大学でデザインを専攻。卒業後は愛知・名古屋の洋食器メーカーに就職し、食器の形をデザインする仕事に携わった。5年ほど経ったころ、周囲で富士登山がちょっとしたブームになったことから、妹とツアーに参加。はじめて登山をした。

「夕方八合目に着いて仮眠して、朝2時ごろから山頂を目指してご来光を見るというツアー。それが本当にキツくて(笑)。でも、せっかく登山の装備を一式揃えたので、一回でやめちゃうのはもったいないなと。それで名古屋からアクセスのいい山に登り始めたんです。そしたら富士山より辛くないし、景色もキレイで。山っていいなって」

草木染めの素材となる山や森の枝葉。土地の所有者の許可を得て集めている

なかでも夢中になったのが、植物の形。

「私が勤めていた会社はホテルでつかうような高級洋食器をつくっていました。そうした食器のモチーフとしてよく使われるのが、曲線やうず巻きを組み合わせてツタが絡まるさまを表現する唐草模様。いつも資料や本を参考にその模様を削り出していたのですが、山に登っていると、そこらにある植物が唐草模様に似ていて。もともと自然をモチーフにつくられたデザインなので当たり前なのですが、そうして植物の造形を見ているうちに、『この形を削ってみたい!』という欲求がどんどん出てきたんです」

山に登るほどにストックされていく「削りたい形」。宮田さんは結婚を機に退職し、東京で金属アクセサリーづくりに挑戦することにした。手がけるのはピアスやネックレス、ヘアアクセサリー、ブローチなど。山で見つけた花や葉、枝などをモチーフにした「IN THE FOREST」シリーズのほか、近年は空気や霧など、形のない山の景色の変化をテーマにした「From The Atmosphere」シリーズの制作にも取り組む。

それぞれが、それぞれのきっかけで山に出合ったことで、作家として、人としての生き方に大きな変化が生まれた3人。意気投合するのにそこまで時間はかからなかった。

「3人集まったときに、なんだか同じような空気感があるなって思いました。半年に一度くらいの頻度で一緒に山に行くようになり、いつか3人で何かつくりたいねとなって。最初はそれぞれ得意とすることを合わせて何かつくろうかとしていたのですが、どうせなら新しいことをともに学びながらやってみたら面白いんじゃない、と。ちょうどそのころ、私が家で育てているマリーゴールドで染め物をやっていて、その話から草木染めをやってみようかとなったんです」と鈴木さん。

山の植物で染めたら、どんな色になるんだろう? そんな素朴な疑問からはじまった。

「いざ草木染めをしようと思ったら、木の種類がわからなくて。いつも山で見ている木だけど、これって何だろうって図鑑で調べたり。本当に一歩一歩という感じでしたけど、その過程も自由研究みたいですごく楽しかった」と真田さんは振り返る。

3人で山を歩きながら足もとに落ちている枝や葉を見つけては、「これはどの木のものだろう?」と頭上を見上げる。山ごとに植生が違い、それが山の成り立ちと無関係ではないということにも思いを巡らせるようになった。

「山や植物のことを知っていくと、自然がより身近になってきます。以前は『地球環境』という言葉にどうしても構えてしまっていたのですが、いまは『親しい人に優しくしたい』みたいな感じで、肩肘張らずに考えられるようになった気がします」

こう語る鈴木さんに、他の2人も「うんうん」とうなずく。

最近は、地方で林業や山岳ガイドに携わる人たちから「これでも染められる?」と、さまざまな木々や葉が送られてくる。

「お礼に、それらで染めたプロダクトを送ることをキッカケに、さまざまな方とつながれるのがうれしいです。今後はいろいろな場所を旅しながら、その土地の人々と、そこの植物を使って染め物をしてみたいと思っています」と3人。

植物が教えてくれた新しい山との関わり方は、自然と人を結び、いっそう奥行きと深みを持って広がっていく。

PROFILE

COLORS OF MOUNTAIN
山岳収集家・鈴木優香、テキスタイルデザイナー・真田緑、アクセサリーデザイナー・宮田有理の3人によるプロジェクト。山を歩いて集めた枝葉を使い、草木染めでプロダクト制作を行う。

宮田有理 みやた・ゆり
1986年、岡山県生まれ。2017年に「YURI MIYATA」を立ち上げ、山や自然をテーマにしたジュエリーなどのデザイン・制作を行う。

鈴木優香 すずき・ゆか
1986年、千葉県生まれ。山で見た景色をハンカチに仕立てるプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」を2016年より続ける。

真田緑 さなだ・みどり
1986年、神奈川県生まれ。2014年に自身のブランド「H/A/R/V/E/S/T」を開始。テキスタイルやグラフィックデザインを手がける。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Kazumasa Harada, Shimpei Miyata , Yuka Suzuki Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!