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山を歩き、枝葉を集める女性3人の「草木染め」プロジェクト【前編】
山を歩き、枝葉を集める女性3人の「草木染め」プロジェクト【前編】
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山を歩き、枝葉を集める女性3人の「草木染め」プロジェクト【前編】

美しい地球を構成する水、土、森、海、山、川……。まわりの環境を大切にすることはもちろんですが、そもそも自然とは人間が守ってあげるものではなく、むしろ私たちが守られ、多くのことを学ばせてもらう存在。今回は、山を舞台にした、「COLORS OF MOUNTAIN」の学びのストーリーを紹介します。

美しい森や山の色彩を
染め物に映し出す

COLORS OF MOUNTAINの3人、左から宮田有理さん、鈴木優香さん、真田緑さん

東京都内にあるビルの屋上。大きな鍋から湯気が上がると、みかんのような、シトラスのような、すがすがしい香りが漂ってきた。鍋の中で泳いでいるのは、たっぷりのオオシラビソの葉。

「わぁ、森の中にいるみたいだね」と、鍋をのぞき込む3人から歓声が上がる。

鉄の媒染液。これは鈴木さんが山で拾った針金を酢と水に浸け、その錆からつくった

じつはこれ、植物を煮出し、抽出液をつくる草木染めの最初の工程。鈴木優香さんと真田緑さん、宮田有理さんの3人は、「COLORS OF MOUNTAIN」名義で、木々や葉をつかって染め物をしている。材料となるのは、土地の所有者に了解を得て、山や森、里から持ち帰った植物。地面に落ちた枝葉や松ぼっくりなどが主だ。種類ごとに分類し、鍋で煮出して抽出液をつくったら、まずはそれで布を染める。次に銅、アルミ、鉄からできた3種類の媒染液に浸し、色を出す。

「植物ごとに仕上がりの色は違いますし、同じ植物をつかっても、媒染液の種類によって出る色は変わります。それがすごく面白いんです」と鈴木さん。オオシラビソは、はじめてつかう植物とのことで、3人とも興味津々だ。

オオシラビソを煮出した抽出液。紅茶や、ほうじ茶のような美しい色

オオシラビソの葉を煮出した抽出液は、ほうじ茶のような色。それで一度染めた薄茶色の布を3種類の媒染液に浸けておくと、徐々に色が変化する。鉄はうっすら青みを帯びた上品なグレーに。アルミは透明感のあるレモンイエローに。銅は少しくすみのある、大人っぽいベビーピンクに染まった。

「葉を煮出す時間を長くしたら、もうちょっと濃く色が出せるんじゃない?」と宮田さん。同じ植物でもちょっとした工程の違いで出る色が変わる草木染めには、ひとつとして同じ色がない。どうしても出てしまう染めムラも、愛すべき個性になる。そうして手づくりしたハンカチやバッグ、ポーチやエコラップなどは、まさに世界にひとつだけのものだ。2021年6月にはじめて個展を開催して話題になって以来、オンラインストアやポップアップショップなども展開している。

オオシラビソの抽出液で染めた布を鉄の媒染液に浸けると、徐々に青みがかったグレーに変化した

「どれも素朴な色みですが、さまざまな色のハンカチを並べると、そのグラデーションが本当に美しくて。個展など、実際にプロダクトを見てくださる方からは、『なんだか癒やされた』とか、『リフレッシュできた』という声をいただきます。プロダクトを通して自然の空気、美しさを感じてもらえることが、何よりうれしい」と口を揃える。

3人が一緒に山を歩くようになったのは3年ほど前。山や自然をテーマにものづくりをしているという共通点から出会った。美術大学でプロダクトデザインを学んだ鈴木さんは大手アウトドアメーカーにデザイナーとして就職。会社の先輩たちと山に登るにつれ、自然の中の、さまざまな造形に心奪われた。

「父親から譲り受けたフィルムカメラで山の写真を撮りはじめたんです。雄大な風景を収めるというよりは、足元にある何げない岩の造形や、雪の上に落ちた葉がつくる模様などをグラフィックのような感じで切り取るのが面白くて。職業柄もあってか、その造形を何か形にしたいと思うようになりました」

その後、MOUNTAIN COLLECTORとして、撮影した山の模様をハンカチに仕立てるプロジェクトを開始。山をモチーフにした雑貨づくりや、エッセイ執筆なども手がける。

草木染めのハンカチ。色はもちろん、染めの工程で出たムラも、他にひとつとして同じものがない。タグには素材となった植物の名前と媒染液の種類が記されている

真田さんは雄大な景色に魅せられ、山の虜になった。美大のデザイン学科を卒業後、アパレル会社に就職。テキスタイルデザイナーとして働いた。

「とにかく激務で、毎日終電で帰宅するような日々。ある冬、これはもうなんとかしてリフレッシュしなくてはと思って、厳冬期の八ヶ岳に登ることにしたんです。とにかくいつもとは違う風景を見たいと思って」

真田さんはプロの山岳ガイドに頼み、指導を仰ぎながら約2500mの山に登った。

「真っ白な稜線から見た、ものすごい景色、雪を被った森のキラキラした感じ、あとは都会では決して感じられない静けさ。あまりに感動して、当時はじめたばかりだったインスタグラムに『生きててよかった』と書き込んだほど(笑)。でも本当にそう思ったんです」

以来、山で絵を描くようになった。

「仕事でも絵は描いていたのですが、自分の好きなモチーフやタッチで描けるわけではないので、山に行って、かわいいいな、キレイだなと思ったものを描くのが楽しくて。自由に表現する歓びを、山に教えてもらったんです」

その後、会社をやめてデンマークに留学。大自然でのびのびとデザインを学んだ。帰国後は長野県を拠点に、山や自然をテーマにしたテキスタイルなどを制作している。

▼後編につづく

PROFILE

COLORS OF MOUNTAIN
山岳収集家・鈴木優香、テキスタイルデザイナー・真田緑、アクセサリーデザイナー・宮田有理の3人によるプロジェクト。山を歩いて集めた枝葉を使い、草木染めでプロダクト制作を行う。

宮田有理 みやた・ゆり
1986年、岡山県生まれ。2017年に「YURI MIYATA」を立ち上げ、山や自然をテーマにしたジュエリーなどのデザイン、制作を行う。

鈴木優香 すずき・ゆか
1986年、千葉県生まれ。山で見た景色をハンカチに仕立てるプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」を2016年より続ける。

真田緑 さなだ・みどり
1986年、神奈川県生まれ。2014年に自身のブランド「H/A/R/V/E/S/T」を開始。テキスタイルやグラフィックデザインを手がける。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Kazumasa Harada,Shimpei Miyata,Yuka Suzuki Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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