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壱岐ゆかり「花の地産地消=スローフラワーを伝えていきたい」【後編】
壱岐ゆかり「花の地産地消=スローフラワーを伝えていきたい」【後編】
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壱岐ゆかり「花の地産地消=スローフラワーを伝えていきたい」【後編】

美しい地球を構成する水、土、森、海、山、川、植物……、まわりにある環境を大切にすることはもちろんですが、そもそも自然とは人間が守ってあげるものではなく、むしろ私たちが守られ、多くのことを学ばせてもらう存在。今回は、花農家「four peas flowers」を営む新井聡子さんの畑を舞台にした、花屋・壱岐ゆかりさんの学びのストーリーを紹介します。

▼前編はこちら

その花はどこから来て、
どこへ行くのか?

新井さんの自宅横に併設された温室は、大工である夫・塁さんのDIY。冬場は夫婦でここにこもることが多く、種から発芽までを管理する。「種から芽が出た瞬間が一番アガる!」と新井さん

壱岐さんが花屋として、畑とのつながりを強く意識するようになったのは、コロナ禍ではじめた「リトル宅急便」という、農家が育てた花を直接客のもとへ宅配する試みがキッカケだという。

10cmほどまで育ったローズゼラニウムの苗。地植えに向けて春までここで育てる

「農家さんからの花を直送=産直することで、お客さまとの強い関係性や生産者さんとの関係を前よりも濃く築け、花を売るという意識に大きな変化が生まれたと思います。花屋を10年続けるなかで、ずっと何かが足りていないような気がしていたんです。自分は花が育っている環境や過程をちゃんと知っていなかったし、収穫後、残った花がどんな末路を迎えているのか、キチンと意識が向いていなかったとも思います。自分は、店頭に並ぶキレイな花のいいとこ取りしかしてこなかったのではないかと」

最盛期を終えたダリア「飛影」。花びらがしぼみ、朽ちていく姿も美しい

頭のなかで芽生えた疑問符に、これだ! というヒントをくれたのが、スローフラワーという考え方であり、これからの花卉業界を担っていく花農家の人たちとの縁だった。

芽が出たばかりのユーカリの双葉。種まきから20日目で発芽したそう

「土から生まれる同じ農作物ではあっても、野菜と花ではオーガニックに対する意識にはまだまだ格差があります。市場できちんと流通させるには課題も多いし、季節の花を農家の方から産直で顧客に届けるには、私たち自身の生活意識が、まだまだ追いついていないとも感じます。だからこそ、季節に寄り添うスローフラワーの存在をきちんと伝えていくことは花屋としての使命だと思えるのです。できることから少しずつ、自分たちも楽しく学びながら。土を触り植物を育てている新井さんのような農家の方と、その産物を扱わせてもらっている私たち花屋、それぞれの考え方や視点が融合して、立場が違う両者が手を携える。だからこそ伝えられること、提案があると、いまは強く感じています」と、壱岐さんは目を輝かせる。

緑肥や堆肥をすき込んで、ふかふかに耕された畑の土。冬を越し、次の春にはまたたくさんの花を育ててくれる

花が咲き終わり枝だけになった植物やふかふかの畝(うね)が連なる晩秋の畑には、季節が巡れば鮮やかに咲き誇る花たちがたしかに息づいている。まだ目には見えない。けれど未来へ向けて地中で眠る種のように、壱岐さんのあらたな挑戦も、はじまったばかりだ。

PROFILE

壱岐ゆかり いき・ゆかり
2010年「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」をスタート。装花、ボタニカル・ダイ、ワークショップなど気持ちを花に“翻訳”する花屋として活動。

新井聡子 あらい・さとこ
神奈川県の里山で小さな花農家「four peas flowers」を営む。スローフラワーという考え方に基づき、季節に即した持続可能な花づくりをしている。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Kazuharu Igarashi Text & Edit:Chisa Nishinoiri
Composition:林愛子

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