上白石萌音、ふるきをたずねて自由学園 明日館へ【後編】
映画やドラマ、舞台に立つ俳優として、さらに歌手としても輝きを増しつづける上白石萌音さん。仕事でもプライベートでも、そのとき出会った人や、感じた気持ちをじっくり育み、新しい挑戦につなげています。大切にしているのは、「自分で考えること、学ぶこと」。そしていま、それを伝えていきたいという気持ちも芽生えつつあります。以前から関心があったという約100年前の学校を訪れ、過去を生きた人から学ぶこと、行動することについて聞きました。
勇気を持って、一歩前へ
自分にできることを、考え続けたい
最近は「世界名作月間」と称して、世界の古典小説を読んでいるのだそう。
「ヘミングウェイの『老人と海』や、カフカの『変身』とか。難しいと思って避けてきた作品も、読んでみるとどんどん引き込まれて。どれも続きが気になって、一晩で読んでしまいました。とくに『若草物語』は発見が多くて。主人公の四姉妹は私よりずっと年下ですが、それぞれが自分の考えや主義主張をしっかり持って行動しているんですよね。クリスマスの日に『自分の家のご馳走を恵まれない人たちの家に持っていこう!』って、全部包んで持っていく場面があるのですが、そういう喜捨の精神を当然のこととして持っていることも素晴らしいなと感じました」
今の自分は、どうだろう。ふと思った。
「誰かに何かを分けられるというのは、自分に本当に必要なものがわかっているからだと思うんです。実際、縄文とか弥生とか、私たちにつながるずっと昔の人々は、その日、本当に必要な分だけをとって食べて、ちゃんと幸せに暮らしていたわけですよね。でもいま、私たちには選択肢がたくさんあって、本当に必要なものと、そうでないものが見分けづらい。贅沢でありがたいことですが、そこを自覚的に考えていけるようになれたらいいなって、『若草物語』を読んで、考えさせられました」
その気づきは、日々の暮らしのなかにも新しいアクションを生んだ。
「料理をするとき、できるだけギリギリの部分で野菜のへたを落とすとか、小さなことなんですけど……。先日、スイカを2玉いただいたのですが、切り終わった後に残った大量の皮を見て、もったいないなぁと思って。試しに漬物にして食べてみたら、おいしかったんです。与えられたものはなるべく限界まで食べる。些細なことですが、その積み重ねが大切になってくるんじゃないかって」
テレビや映画、舞台に歌と、仕事の幅を広げている上白石さん。プライベートでも読書や料理、英語、そして環境や社会問題など、さまざまな世界に目を向け、行動している。その過程で、内面にも大きな変化があった。
「これまでは多くの人に注目されることに苦手意識があったんです。でも、もし自分の言葉や行動で何かポジティブに変えられることがあるのだとしたら、『みんなでやろうよ』って伝えていきたいなと思うようになりました。俳優の先輩方や、かつての表現者たちがそうしてきたように、私も勇気を持って発信し、動いていきたい。自分を含め、たくさんの人のその積み重ねの先に、よりよい未来があればいいなと感じているんです」
自由学園 明日館
1921年、羽仁もと子・吉一夫妻により現在の東京都豊島区に創立された女学校。知識の詰め込みではない、自由で新しい教育を実現するためにつくられた学校で、生徒に自ら昼食を調理させるなど、生活と結びついた教育を行い、大正デモクラシー期における自由教育運動の象徴とされている。校舎の設計を担当したのは建築家フランク・ロイド・ライトと遠藤新。建物全体の意匠を幾何学模様にまとめたホールや、全校生徒が集まって昼食をとれるようにと、校舎の中心に設計された食堂など、当時の面影と教育理念が伝わる建築がいまに残されている。
PROFILE
上白石萌音 かみしらいし・もね
俳優・歌手。1998年鹿児島県生まれ。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。映画『舞妓はレディ』の主演を務めるなどして注目を浴びる。以降、ドラマや舞台、ナレーターや歌手としても活動。
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Ayumi Yamamoto Styling:Mana Yamamoto Hair & Make Up:Tomoko Tominaga Text:Yuriko Kobayashi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子