音楽ライター・渡辺志保が思い描く、もっともっと女性が活躍する未来
2030年には、平和や差別、エネルギーなど、さまざまな問題の何がどんなふうに叶えられているでしょうか。音楽ライターの渡辺志保さんに、「こうなって欲しい未来」 を話していただきました。
女性の大臣、社長が
当たり前の世の中になる
ここ数年、アメリカのヒップホップは社会を映す鏡としての機能や民衆の声を代弁する役割がより大きくなってきています。日本では、どうしても「ラッパーは極度の不良」などネガティブなイメージを抱かれがちですが、アメリカではCNNやフォーブスといったメジャーなメディアもヒップホップ・カルチャーのポジティブな側面をさかんに取り上げるし、ラッパー自身もチャリティに積極的だったりします。
シカゴを拠点とするチャンス・ザ・ラッパーは25歳という若さながら、2017年に若者の教育をサポートするための団体を立ち上げ、公立学校の環境をよくしようという主旨のスピーチをしています。ラッパーとしてはじめてピューリッツァー賞を受賞したケンドリック・ラマーも、女生徒の教育により力を入れようとサポートを表明。アトランタの2チェインズは、プロモーションで使った空き家をHIVの無料検査所としてリフォームしました。彼らの動きをつぶさにチェックしていると、私自身も社会のありように無関心ではいられません。
とくに気になるのは、ジェンダーや女性の教育について。私は広島市内の私立の女子校に中高6年間通っていたのですが、その母校に、卒業生がどんなキャリアを積んでいるのかを在校生に知ってもらうためのゲストスピーカーとして招かれたとき、進路指導の先生とお話しして驚いたことがひとつ。東京や大阪などに進学する生徒の割合は2割ほどで、それ以外の生徒たちは皆、地元で進学するそうです。
私が生徒だったころに比べて、明らかに県外に進学する生徒が少ないし、先生方もハードルを上げて浪人するよりは安全圏である地元の大学を受けるほうがいいと指導していているそうで、地方都市の保守的な考えは根強いのかなと感じました。もちろん本人の意志で地元で就職して家族と一緒にいたいというなら話は別ですが、もっと広い世界を見たい、そこで学び働きたいと思っているにもかかわらず、先生や親がやめたほうがいいと押さえつけるようなことがあるとすれば悲しいことだなと。
将来は、もっと女性の活躍が受け入れられる社会になってほしいですね。たとえば、アメリカの大手ヒップホップメディアはCEOや編集長が女性だったりする場合があるけど、いまの日本のメディアでは、女性がイニシアチブをとるのは珍しいのかなと感じます。それはテレビを見ていても感じること。女性大臣のほうが多くなったり、女性の社長が当たり前になったり、社会に進出する素敵な女性が増えることを望みます。
PROFILE
渡辺志保
音楽ライター。主に現在進行形のヒップホップ・R&Bカルチャーについて執筆する。インターネットラジオ局block.fmの人気番組『INSIDE OUT』ではナビゲーターを務める。共著『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)が発売中。
●情報は、FRaU2019年1月号発売時点のものです。
Illustration:Katsuki Tanaka Text:Toyofumi Makino Text&edit:Asuka Ochi