イラストレーター黒田征太郎「いま、ウクライナで子どもたちとやりたいこと」【後編】
生まれは、第二次世界大戦が始まった1939年。「幼少の頃の記憶は、戦争一色。名前にも出征の“征”がついているでしょう。僕は戦争の申し子みたいなものですよ」と話す、イラストレーターの黒田征太郎さん。長年、絵を描くことを通して、命の大切さや平和への思いを伝え続けてきました。
黒田征太郎が考える“平和のつくりかた”

わが身に刻まれた鮮烈な戦争体験に突き動かされるように、なかば衝動的につくり、伝え続けてきた黒田さん。「戦争反対」を声高に唱えずとも、色々にあふれた作品たちが、その魂の叫びを世界中に届けている。
「戦争反対と言うのもすごく大事だし、立派なスローガンだと思うんですけど、僕は僕のやれるやり方でやりたいという気持ちがあるだけなんですね。『戦争童話集』も最初から、人殺しはよくないよねというふうに伝えていきたいと話して、たくさんの友だちに参加してもらいました。僕の場合は、戦争よりも“命”ですから。戦争というのも“一番タチの悪い人殺し大会”みたいな言葉で広がっていくのがいいのかなと。いろいろな国や文化、角度から、戦争という人殺し大会を見てみることで、僕はまだまだ何かやれる隙間があると思うんです」

いま、それでも終わらない戦争と、黒田さんはどのように戦っているのだろうか。
「人間って囲いを立てるのが好きなんですよね。敵と味方、国境とか、線ばっかり引いて対立軸をつくりたがる。それは戦争ですよ。僕は絵と音楽という、人間が自然から教えてもらった最大の表現方法を武器にやっていきたいですね。太陽が光をもてあそんで虹ができ、そこから色ができた。赤い色も青い色も、それが美しいと思った僕らの遠い先祖が切磋琢磨して、絵の具にしてくれたと思うんですね。
同じく音も、空気が一定方向に流れて風の音となり、それに触発されて言葉を編み出していく人がいたり、音符のような記号をつくって音を紡ぐ人が出てきた。自然に対してありがとうと感謝する気持ちが、ひょっとしたら大事です。戦争なんていい音もないし、バカバカしいなぁと。子どもたちに『びゅーん、ひゅーん、っていう風の音は誰がつくったの?』って、よく聞くんです。『誰でもないよ、空が、風がつくったんだよ。絵の具を持ったら線がいろいろできるよ』と。
『戦争童話集』をやっているときに、みんなでそういう気持ちになっていったのはたしかです。ウクライナでそういうのをやりたいですね。爆弾でぐちゃぐちゃになった土地の上に布を貼って、子どもらと一緒に絵を描く。そこに爆弾を落としますか? できないですよね。そういうやり方もあるかもわからないですね」
PROFILE
黒田征太郎 くろだ・せいたろう
1939年大阪生まれ。画家、イラストレーター。船の乗務員などの職業を経て、69年、長友啓典とともにデザイン会社〈K2〉を設立。92年より18年間、NYにアトリエを構え、国内外で活躍。94年から野坂昭如『戦争童話集』の映像化プロジェクトを始動。2004年、発起人のひとりとして、原爆体験を継承する「PIKADON PROJECT」をスタート。09年より、北九州市・門司港に拠点を移す。著書は『教えてください。野坂さん』など多数。
●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子