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上白石萌音が広島の歴史に触れる「痛みや苦しみは続いている、終わっていないんだと痛感」【後編】
上白石萌音が広島の歴史に触れる「痛みや苦しみは続いている、終わっていないんだと痛感」【後編】
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上白石萌音が広島の歴史に触れる「痛みや苦しみは続いている、終わっていないんだと痛感」【後編】

俳優として役になりきることで、さまざまな人生を経験してきた上白石萌音さん。数年前には、戦争で夫を失い、子どもを抱いて空襲から逃げる、戦時下で生きる女性を演じたこともありました。これまでも本や資料館で歴史に触れてきたという彼女が、広島に残る戦争の足跡を訪ねることに。世界恒久平和を願って建設された〈平和記念公園〉や、復興のシンボル〈おりづるタワー〉などを巡り、また当時、原爆を体験した語り部の方にも会って、過去と向き合い、未来に思いを馳せた1泊2日。そこで何を感じ、どう考えたのか。平和のために戦争を知る、学びの旅が始まります。

▼前編はこちら

ヒロシマの旅を通して考えた、平和のためにできること

かつての街に思いを馳せて、ドームの周辺を歩く。トップス(Uhr/ジャーナル スタンダードレサージュ 銀座店) ジャンプスーツ(フィーニー) シューズ(コンバース)

広島に残る戦争の足跡を旅した、上白石萌音さん。濃密な2日間を振り返って“知る”ということの大切さに気づかされたという。

「広島に来て、すべては知ることから始まるのだなぁと感じています。この場所の空気に触れ、語り部の方から生の声を聞き、その後にもう一度見た〈原爆ドーム〉は、とても胸に刺さりましたね。写真などで切り取られた1枚にもその周囲があって、平面ではなく立体なのだと実感しています。旅をしてその地を踏むことで、単なる歴史ではなく、今と地続きの過去の話なのだということが、初めて体内に入ってくるような感覚が生まれたというか。知れてよかったし、まだまだ知らなくてはいけないなと思いますね」

NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で戦時下を生き抜く母の役を演じた際にも、本や資料で岡山での空襲について勉強し、実際にその場所を訪れている。

「本や写真で学ぶだけではなく、足を運んで初めて、そこで感じ、心に刻まれることがある。だから訪れるというのは、とても意味がある大事なことなんですよね。今回の旅で原爆を体験した河野さんにお話を聞くことができたのも貴重な体験でした。なかなか想像が及ばない音や臭い、その空気ごと当時が蘇ってくる気がして、まだ痛みや苦しみは続いている、終わっていないんだと痛感しました」

原爆を体験した語り部・河野さんとの話(2024年12月8日公開予定)の終わりに「どうかこれを若い人や子どもたちに伝えていってもらいたい」という願いを受け取った萌音さん。思い出すこともためらわれるような原爆体験を言葉にしている彼女の強い決意も心に響いた。

〈本川小学校平和資料館〉

「本川小学校平和資料館に展示されていた先生の手記にも“辛い思いをしているのは語り継ぐため”と残されていました。河野さんと同じく、生き延びた者としての使命をずっと背負って生きたことに、強い勇気を感じます。そういう思いで伝えてもらって、今感じているこの気持ちを、絶対に忘れてはいけないですね。この思いを持続させて、今日だけで終わらせないように考え続けていきたいです」

戦争を語り継ぐ人、資料館などに残るさまざまな断片、そしてこの地に足を運ぶことを通して感じた気持ちを継続していきたいと話す。そのうえで、“平和をつくる”ために、私たち一人ひとりにできることはあるだろうか。

「資料館の子どもが書いた灯籠に“ケンカをしたら、すぐ仲直りをする”と書いてあって、その言葉にハッとしたんです。それができれば簡単なのに、大人になるにつれて、なぜか難しくなってくるんですよね。世界が平和であることは、友だちと仲良くするとか、きっとそういうシンプルなところから始まるんだろうなと思います。人が集まって国ができ、国が集まって世界ができているわけで、結局、相手のことを考えるとか、そういうところに立ち戻るんだなと。河野さんが子どもたちに戦争の話をするなかで、今の子は少し弱っているとおっしゃっていたのも印象的でした。今の日本は誰もが強制された戦時下と違って、自由に選択ができる時代だからこそ、自分を大事にするということが難しくなってきているのかもしれません。自由であることが逆に、人との争いの種になったりもするのかなって。人とのつながりの前に、自分を大切に思う心もきっと、平和への第一歩なんですよね。まずは自分の心の中が平和でないと、外を平和にはできないですよね」

〈おりづるタワー〉で祈りを込めて鶴を折る

戦争と平和の地として広島以外にも、いつか『アンネの日記』や『夜と霧』に描かれたアウシュビッツに行ってみたいという。

「そういう場所を実際に見るのは怖いことですが、争ってはいけないということを深く心に刻むことができると思うんです。学ぶや知るにはいろいろなやり方があって、もちろん、それぞれ無理のないかたちでいいのだけれど、時にぐっとパワーを使うのも必要なことなのかなと。特に表現者として伝えていくためには、不可欠なことだと考えています」

完成した鶴は「おりづるの壁」に投入し、壁に積み重ねる

旅を終え、戦争の痛みを胸に刻み、平和についてさまざまな思いを巡らせる萌音さん。

「学校で学んだ歴史と、今こうして実感している歴史の何が違うのかを考えていたんですが、実際に土地を訪れていなかったことの他に、今までは自分の中だけで完結してしまっていたのかなと思います。同じものを見て、人と少しずつ違う考えを持ち寄って話して、理解を深めたり、印象を強くしたりするのも大切なことですね。誰かと一緒に旅に来て、それぞれの感性で感じて、言葉にしてみる旅というのもいいなぁと。忘れずに残るものにするためにも大事なことだなと思います」

PROFILE

上白石萌音 かみしらいし・もね

俳優、歌手。1998年鹿児島県生まれ。2011年芸能界デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台、歌手として数多くの作品に出演する。

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Photo:Ayumi Yamamoto Styling:Lisa Sato Hair & Make-Up:Tomoko Tominaga Text:Asuka Ochi Edit:Chizuru Atsuta Cooperation:HIROSHIMA FILM COMMISSION

Composition:林愛子

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