住民減で170戸が空室も…5年で復活!「団地活性化」の意外なきっかけ
高齢化や過疎、都市部への人口集中など、日本各地のコミュニティが問題を抱えています。そんななか「人とのつながり」に焦点をあて、新たな方法でコミュニティを再生させようとする地域や団体が増えています。今回は団地の事例から──。
「住んでいる人たちが主役」
大阪・堺市の団地改革
大阪府の南部、堺市南区にある茶山台団地は50年以上前に建てられた大型団地。29棟約1000戸を構え、かつては多くの家族で賑わったが、ここ数年は住民の高齢化もあり、ひどいときには170戸が空室に。子どもの数も減っていた。そんな状況を打開しようと立ち上がったのが団地の管理を行う大阪府住宅供給公社。地元NPO法人などと協働して本格的に団地再生に取り組み始めた結果、若い世代の入居が増加し、空き部屋は大きく減少したという。しかも再生プロジェクトを開始してから5年というから驚く。
「一般的に団地のコミュニティづくりは自治会が担いますが、住民の高齢化により担い手が減り、活動が疲弊していました。自治会がうまく機能しないなら、違った軸でコミュニティづくりをするべきではないか。それがそもそもの始まりでした」とは、再生プロジェクトの旗振り役として活動し続けてきた大阪府住宅供給公社の田中陽三さん。
プロジェクトを立ち上げるにあたって、コミュニティづくりの情報発信を行うソーシャルウェブマガジン「greenz.jp」の東善仁さんに相談を持ちかけた。住宅が余る時代に住宅供給公社は何を提供していけばいいのか? 東さんと全職員でワークショップを開き、頭を捻った。
「話し合いを重ねるうち気づいたのが、『そういえば僕たちは住民目線ってよくわかっていないよね』ということ。実際、公社が管理する団地に住んでいる職員はゼロ。それじゃあ住民が本当に求めるコミュニティなんてつくれません。そのとき『僕、住みましょうか?』と名乗りを上げてくれたのが東さんでした。そこで2015年より『団地滞在生活型コミュニティ支援』という形で、団地に住みながらコミュニティづくりに取り組んでもらうことになったんです」
とにもかくにも住民が集まれるスペースをつくるのが第一歩だと、長らくつかわれていなかった団地内の集会所を「茶山台としょかん」として生まれ変わらせることにした。
「図書館といっても、住民から寄付してもらった本が申し訳程度にあるだけで、最初は誰も寄りついてくれませんでした。でも東さんはアイデアマンで、外に手づくりのスタンドを出してコーヒーを振る舞ったり、あの手この手で住民さんにとけ込んでいきました」
「このコーヒー、エラいおいしいわぁ」と、まず反応したのはご近所さんたち。春休みに入ると遊び相手を探して子どもが集まり始め、ママさんたちも井戸端会議をするように。東さんがここにいる理由が知れわたると、次第に悩みや困りごとが寄せられるようになった。
「最初は相談というより“文句”でしたね。『部屋狭いねん!』とか(笑)。それに対して東さんは『荷物が多すぎるんちゃいます? みんなで断捨離しましょうか』と答えたり。それで週末に『0円マーケット』を企画して、持ち寄った不用品を誰でもタダで持っていってねと。それが非常に好評で、7年経ったいまも開催しています」
文句を言い合うのではなく、一緒に解決し合う関係になればいい。何事も自治会任せにしがちだった住民の意識が変わってきた。
「あるとき、としょかんに通う小学生の女の子たちから、『ファッションショーやりたいねんけど、レッドカーペットないですか?』と。そんなんどこから調達できんねん! と思いつつSNSで呼びかけてみたら、とある小学校の教頭先生から『うちにあるから貸しますよ』と返事がきて。子どもたちも張り切って、見事にイベントを成功させました」
徐々に芽生えてきた、自治会中心の縦割りではない、目的をともにする住民同士のゆるやかなコミュニティ。東さんやその後を引き継いで2代目「としょ係」となった白石千帆さんは相談役として活動を支え続けた。
2018年には「団地の近くにお店が少なくて、買い物にいくのが大変」という声を受けて、団地内の空室を活用した惣菜や弁当の販売スペース「やまわけキッチン」をオープン。「ひとりで食事するのがさびしい」というお年寄りのためにイートインスペースもつくった。
「食器の一部は住民の方々からの寄付、内装作業も住民らがDIYで行いました。それまでイベント参加は女性やお子さんが中心で、男性はコミュニティになじみづらいようすでしたが、『大工仕事できる人、いませんか~』と声をかけたら、『日曜大工の腕に覚えあり!』というお父さん方がたくさんいらして(笑)。結局のべ181人もの方々に手伝っていただきました」
そうしたお父さんらの交流の場となっているのが、空室を活用して作ったDIYのいえ。工具や作業場を無料で借りられるとあって、老朽化した部屋の不具合も自分たちで修理できるようになった。少々ややこしい修繕は専門スタッフが有料で引き受けてくれる「お困りごとサービス」も。いまは大工仕事が得意なお父さんたちが出張修理にアルバイトとして参加し、金槌を振るっている。
大工仕事という共通点を通して、年齢問わず住民が交われるDIYのいえに対して、やまわけキッチンは、「誰かと一緒に時間を過ごしたい」と思う人のよりどころだ。この日も年配の住民と小学生の女の子が楽しそうに将棋盤を囲んでいた。ひとり暮らしのお父さん、週末にここで食事をしているうちに、彼女に将棋を教えるようになったのだそう。
「手芸やパソコンなど、住民の特技をシェアできるサロン的な存在になれたら」とは、やまわけキッチンの仕掛け人で、日々キッチンに立つ「NPO法人SEIN(サイン)」の湯川まゆみさん。近くの団地で育ち、茶山台団地に暮らす生粋の茶山っ子だ。
住民の話を聞く間、隣でニコニコと笑っていた田中さん。
「団地を仕切って盛り上げているのは住民の方々です。この5年間で、団地の主役は自分たちなんだという意識が強くなってきたと感じています。団地が持っている、住民同士で助け合うという関係性を活かしながら、自発的なコミュニティを必要に応じてつくっていく。それが、茶山台団地が再生できた秘訣。これからの団地の理想的な姿、可能性なんじゃないかと思っています」
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuo Kashiwada Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子